Afterlife Egypt Ticket

◆ 「死後の生」というアイデア ◆
〜 古代エジプト展を観て 〜

永遠の美と生命
大英博物館 古代エジプト展
1999/8/7 〜 10/3
東京都美術館

9/12(日)に上野で開催中の「古代エジプト展」を観に行った。
チケットを買ってから入場までに 20 分並んで待った。 中もギュウギュウですごい人気だ。 古代エジプトの何がこんなに人々を惹きつけるのか? それもひとつの不思議。
ミイラ、石棺、木棺、副葬品、施された装飾の数々が展示の目玉。 4000 年も前の人間が作り上げた、見事な文化、芸術。 磨かれ蓄積された技巧の数々。それはもう、目の前にして唸るしかない。



それらを眺めながら、僕が考えていたのは、 いったいどういう根源的動機が、これほどまでの物品を作り上げるに 至らせたのか? ということ。

それは、まずは 強固な「死後再生」の信仰 だ。
死後の世界での完全な再生と、その後の永遠の生。
王や人々はそれを信じ、実現するために多大な労力を注ぎ込んだ。

では、なぜそんなものを信じたのか? それはたぶん、
「死が恐くて恐くて、しかたがなかった」 のだと思う。
死の恐怖から逃れるために考え出された、ひとつのよくできた アイデアなのだ。

「生きたい、死にたくない」は(進化的に生じた)第1かつ最大の欲望である (*1) が、生物として知能が発達してくると、 「死」は逃れられないものだ、 ということがだんだん判ってくる。 病気や老いなどによって人は死に、それを止める有効な方法がない。 呪術や医療はあっただろうが、それほどの効果はなかっただろう。 (*2)
そこで生まれる切実な死の不安を、どうにかする方法が必要だったのだ。

そこで誰かが思いついた。考え方を変えればいいんだと。
目に見える肉体は死ぬ。停止して無くなるように見える。 でも、本質(魂とか霊とか)は目に見えない、別の世界で続いている。 だから心配することはないんだよ。
(信仰って、何であれ、だいたいこんな始まり方じゃないのか?)

それに王様が飛びついた。そう考えれば確かにそうかもしれないぞ。 なんだか心が楽になった。 では、もっと確実に、あの世で再生するための手段を教えてくれ。 そしてできれば、永遠に完全に美しく生きるやり方を見つけてくれ。

こうして「儀式」は始まった。あとは転がってゆくだけ。
ミイラ化・埋葬の手順は複雑精緻に儀式化され、装飾性を増し、 どんどん大仰になり、その大仰さゆえにホントっぽさが増して、 信仰が強化される。
サイクルは回り続けた。ぐるぐるぐるぐる…

信仰は、生きている側の人間に変化をもたらすものです。 死後の世界を語っていても、死者のためではない。そこは注意してほしい。

死への不安から逃れ来世を信じることができた人々への、 その効果は計り知れない。
心理的不安の軽減、それから派生して、再生するために良く働くという 労働意欲の増加、技術の継続的蓄積と新たな工夫の追加、 王による資本の注ぎ込みと 強制力の行使

そうして時代は巡り、4000 年後、信仰を無くした僕らは 驚くべき遺産の数々に感嘆の声をあげている、というわけです。



(*1) 「生きたい、死ぬのは嫌だ」という欲望を持って、生きることに 努力したものが生存率が高く、子供も沢山残せるので、 世代が進むに従って、集団中の多くが「生きたい、死ぬのは嫌だ」 という欲望を持つように変わってゆく。

(*2) 現代では、(相対的に効果の薄くなった)信仰を捨て、 発達した科学・医療技術によって病気を治し寿命を伸ばす方向に 向かっています。 それにも限界がありそうだということが 判りつつあるようですが。

1999/09/12 Takakuni Minewaki
2004/06/13 last modified Takakuni Minewaki

「臆病」の進化的な利益
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