1.教育を受ける義務の履行
Sydthy フリースクール
1.教育を受ける義務の履行
憲法の第76条には、「教育義務年齢にあるすべての児童は、国民学校(folkeskolen、公立の初等教育学校) にて無償で教育を受ける権利を有す。ただし、国民学校で一般的に要求されるものと同じレベルの教育を子供が受けるように配慮する親または保護者は、その子に国民学校に通わせ、そこでの教育を受けさせる義務は負わない」と規定されている。
つまり、憲法は児童が義務教育を受ける義務は定めているが、国民学校に通学する義務は定めていない。従って、児童は、いずれかの教育施設で9年間の正則の義務教育を受けた場合は、義務教育を受ける義務を果たしたことになる。すなわち、親としては、自分の子を国民学校に入学させるか、或いは他の方法で同じレベルの義務教育を受ける義務を果たさせるかのいずれかを自由に選択できる。従って、その選択肢のひとつとして「フリースコーレ(初等・中等教育レベルの自由教育を行う私立学校、以下「フリースコーレ」)」(fri grundskole、free basic school)が存在しているのである
「フリースコーレ(friskole) および私立の基礎学校(private grundskole) に関する法律」(いわゆる「フリースコーレ法」) の第1条1項によると、フリースコーレでの教育は国民学校で一般的に要求されるものと同じレベルでなければならない。従って、フリースコーレは、教育義務年齢にあるすべての生徒に対して国民学校で一般的に要求されるものと同じレベルの教育を実施する義務を負い、生徒自身もそのレベルの教育を受ける権利を有する。
国民学校で一般的に要求されるものと同じレベルの教育を行わないフリースコーレは、その学校がどのような名称で呼ばれようと、「フリースコーレおよび私立の基礎学校に関する法律」に準拠する「フリースコーレ」ではない。従って、その種の学校で学ぶ児童は憲法の定める義務教育を受ける義務を満たすことにはならない。
コミューン(地方自治体)当局は、「国民学校法」の第40条1項に基づき、当該コミューンにあって、教育義務年齢にあるすべての児童を国民学校に入学させるか、或いは国民学校で一般的に要求されるものと同じレベルの教育を受けるように配慮しなければならない。
コミューン当局は、児童がフリースコーレに入学したことを知った場合、一応、当該の児童が教育を受ける義務を果たすものと見做すことができる。ただし、実際にはそうでなかったことを知った場合は別とする。児童がフリースコーレで教育を受ける義務を果たさないことを知った場合は、コミューン当局は、その児童が義務教育を受ける義務を別の方法で果たすように配慮しなければならない。
フリースコーレの校長は、「フリースコーレ法」の第6条2項に基づき、生徒たちが授業に参加するように監督しなければならない。生徒が授業から逸脱した場合、教育を受ける義務に関する要件をどの程度まで満たしているか、そしてそれを容認できるか否かは校長が判断する。生徒が義務教育を受ける義務を果たさない場合は、校長は当該の生徒の居住コミューンにその旨を通知せねばならない。
2.教育内容は「一定のレベル」でなければならない
フリースコーレにおける教育レベルが国民学校で一般的に要求されるものと同じレベルでなければならぬということは、フリースコーレで教えられる学科やその内容が法律で定められた通りでなければならぬという意味ではない。
フリースコーレには、国民学校と同一の科目を教えねばならぬとの要件は課されていない。しかし、1977年の「フリースコーレ法」の註解には、フリースコーレでは、国民学校で教えられる教育分野を構成する3種類の分野 [人文科学的な分野、自然科学的な分野、実際的/美術・音楽に関する分野 (practical/art & music)] の授業は必ず実施されねばならないと明記されている。また、それらの註解には、この点について決定的に重要なことは、フリースコーレで学ぶ生徒に対しては、そこでの教育全体を総合的に判断した場合、国民学校で学ぶ場合と同じレベルの全人格的な発展と知識取得の機会が与えられることであるとも明記されている。
しかし、フリースコーレで教える科目に少なくとも国民学校と同じ内容の必須科目が含まれている場合は別として、フリースコーレでの授業の内容が国民学校で一般的に要求されるものと同じレベルにあるか否かを実際に確認するのはそう簡単ではない。何故ならば、フリースコーレにおける教育の形式と範囲を選択して決めるのは学校自身だからである。
このガイドラインには、国民学校の必須科目のリストが付録として付けられている。
フリースコーレに対しては、そこで教える科目に国民学校での必須科目と同じ形式、同じ名称のものが含まれていなければならぬという要件は課されていない。個々の科目は、異なった複数の科目に含まれていてもよいし、ひとつの総合的教育プロジェクトの形で教えられてもよい。授業をどのような方法で展開するか、どのような教育手段を適用し、どのような器材を使用するかは、学校自身が決めればよい。
従って、フリースコーレの場合は、学校の教育目的や教育方針に反する特定の科目を教えないことは学校の固有の権利であると見做されて来た。そのような科目の例としてはキリスト教や性教育がある。また、フリースコーレでは、国民学校で一般的に要求されるものと同じレベルの教育を施さねばならないが、逆に国民学校では一般に教えられない科目を教える自由も認められている。ただし、それらの科目は当該の学校の教育目的に合致し、生徒たちの全人格的な発展に貢献することが前提とされている。
その他にも、フリースコーレは、それぞれの科目をどの過程で、どの学年で教えるか、どこに重点を置いて教えるかも自由に決めることができる。また、国民学校または別の教育形態を適用する学校から転校してきた生徒については、授業内容に関する同等性をどの程度まで認めるのが望ましいか、その点について考慮すべきである。そして、フリースコーレは、各クラスおよび各学年での授業をどのように組織するか、また、各学年での登校日は通常200 日とされているが、その期間の授業カリキュラムをどのように設定するかを決定しなければならない。
国語 (デンマーク語) 、算数/数学、英語の3科目については、同じレベルの教育がなされることが最低条件とされている。この点については、生徒の学習状況に関する外部監察者の責任に関する「フリースコーレ法」の第9条2項に定められている。
フリースコーレでの教育レベルが国民学校で一般的に要求されるレベルと同じであるか否かについては、教育内容がそれぞれの科目に関する授業カリキュラムまたは授業計画に具体的に詳しく記載されていれば、判断しやすくなる。そして、生徒の親と外部監察者の双方も当該校の教育内容が法律の要件を満たしているか否かについて判断しやすくなる。
フリースコーレを卒業した生徒に国民学校の卒業試験を受けさせる場合は、フリースコーレはその準備として、生徒が国民学校の同じ学年の試験を同じ条件で受けて、それに合格できるだけの学力を取得できるように、授業カリキュラムを設定しなければならない。ただし、選択科目については、生徒がどの学年で試験を受けるかは、フリースコーレが独自に決めることができる。
フリースコーレで授業に使われる言語は、「フリースコーレ法」の第2条によるとデンマーク語とするが、教育大臣が別の言語を使用することを特別に許可すれば、その言語を使用しても構わない。この規定は、外国語の科目の授業を当該の外国語で行うことを妨げるものではない(例えば、英語の授業を英語で行うこと)。また、外国語以外の科目を英語、ドイツ語またはフランス語を用いて行うことも、その科目が外国語の授業と関連させて行われるものならば、認められる。ただし、国語(デンマーク語)の授業に関しては、たとえ教育大臣が当該校での授業を他の外国語で行うことを許可しており、授業が生徒たちの専門科目のレベルに応じて行われることになっていても、必ずデンマーク語で行わねばならない。それは、生徒たちの国語のレベルを国民学校で一般的に要求されるレベルと同じにするためである。
デンマーク語ができない状態で初等教育を受け始めた生徒については、当該科目の授業の目的を達成させるために、生徒の母国語を過渡期に使うことは認められる。
国会は、我が国の教育制度における代表的な民主主義(representative democracy) に関する法律1)を制定する際、フリースコーレの生徒たちに民主主義を基本とする社会の形成に関心を持たせ、それに積極的に協力できる能力を取得させるための教育レベルが、国民学校で一般的に要求されるレベルに匹敵すること、ならびにフリースコーレでの学校の日常的な運営の決定プロセスに生徒も参加できるようにすることに重点を置いた。