八ヶ岳

本沢温泉とニュウ

2005年に海抜2,100mにある「鑓温泉の野天風呂」の経験があるが、八ヶ岳の本沢温泉の野天風呂は2,150mにあるので日本最高所の野天風呂ということになる。立山の「みくりが池温泉」は更に高い2,430mに位置するが、野天風呂はない。歩く会の仲間の熱意に支えられて80才になってこの日本最高所の野天風呂に到達する夢が実現した。それも雨の中の登山であった。

計画段階ではピラタスロープウェイを利用して北八ヶ岳の雨池から白駒池をめぐって中山峠から本沢温泉に下る2泊3日コースも検討したが、結局、本沢温泉とついでに未踏のニュウに絞って実現した。

計画では4駆車の通れる尾根道を本沢温泉入口ゲートまで登り、車をそこにおいて本沢温泉まで徒歩の登り、野天風呂を満喫して本沢温泉に1泊、翌日、車ま で歩いて下り、もし天候が良ければ車で白駒湖駐車場まで移動。そこから白駒湖経由ニュウまで往復して白駒湖駐車場まで戻るという行程であった。

今回登った4駆車の通れる尾根道は下の写真に写っている手前の沢の向う側の尾根である。稲子湯は手前の沢の一番奥にある。(見えない)



八ヶ岳高原美術館から望む 赤岳 横岳 硫黄岳 夏沢峠、天狗岳 稲子岳 ニュウ 2009/9撮影

予定日:2018/9/10-11
参加者:秦、榎本、安井、青木
集合: 9/10(月) 7:15 JR新宿駅 10番線ホーム 後方
列車: 特急あずさ3号 新宿7:30発 茅野9:51着
トヨタ・レンタカー茅野店にてヴィッツ4WDをレンタル、運転は安井氏

第一日目

茅野からは麦草峠越えで稲子湯に下り、そこからアスファルト舗装の林道経由で本沢入口までのぼった。稲子湯に下る途中、ニュウがチラッと見えた。樹木が毛の薄くなった頭のようにまばらに生えている巨大な岩である。

山渓の地図をみて4駆車なら本沢入口からのダート道を ゲートまで更に1km登れるというので4駆車をレンタルしたのだが、甘かった。実際にダート道に入って数十メートも走らないうちに車底が突起物にぶつかる 音がする。これで地図の4駆車という意味はジープやスズキのジムニーのような車高( クリアランス)がある車と言う意味だと気がついた。ヴィッツ4WDには4人と4個のザックが収容できるのだが、沈み込んで車高不足になったというわけだ。 所詮ヴィッツはタウン・カーとしてしか使えないやわな車種だということが判明。凍結路面でのスリップ防止のために前輪駆動のヴィッツを4輪駆動にしている と いうことはプロペラシャフトと後輪のデフギヤボックスもあるわけで、ダート道でこれを壊したら致命傷で動きが取れなくなる。どうもヴィッツは車高が低いの が売りで車高調整のサスペンジョン・キットも市販されているようだ。

というわけで、本格的に雨が降り出した中、スパッツを装着しただけの装備で傘をさして本沢温泉までの4.9km、累積登り602m、累積下り102m、最 高標高2,110mの尾根道を歩く羽目となった。途中透明なカッパを着ただけの老夫婦とすれ違った。温泉に入る目的しか考えつかない。

ゲートまではジムニーが入れるが、その先は小型ガソリンエンジン搭載の無軌条トラックで補給品は運んでいるらしい。本沢温泉キャンプ場にはこの雨の中、テントが一張見られた。



本沢温泉(090-3140-7312)には9月10日に4名を2食付個室、9,800円で予約を入れてあった。前金を支払ってチェック イン。濡れたものは乾燥室で乾かす。直ぐ内湯に浸かって雨で冷えてしまった体を温める。なかなか良い湯だ。鉄分とカルシウム分が多いらしく、湯が流れると ころは石灰化が進んで赤色の岩石になっている。雨は小雨になったが、午后5:30の夕食までには晴れなかった。同宿者は我々の他に6名。それなりに山に慣れ たベテランらしい。午后8:00には消灯。深夜24:00まで熟睡。

夜半に目が覚めたとき、持参したスマホの乾電池付充電器が充電していないことに気がついた。それから眠れなくなった。4時まで1時間ごとにトイレに立ったが、本沢温泉の建物は傾斜地に建てられているため、長い階段をヘッドランプをつけて上り下りしなけ ればならない。唯一、ヒカリゴケが階段の隙間から見えるのがなぐさめであった。

本沢温泉は江戸時代に猟師によって発見された。明治のはじめ、原田源吉が佐久と諏訪を結ぶ旅人や出稼ぎ人用の夏沢峠(2,394m)越えの道を開通させ た。跡を継いだ養子の原田富三郎がこの温泉宿を開業したものという。夏沢峠を越える道は、昭和初期に旧国鉄小海線が開通する以前は、諏訪と佐久を結ぶ主要 な道だった。大正時代、岡谷の製糸が栄えていたころは、人と物が頻繁に行き来する「出稼ぎの道」だったという。農閑期に馬に荷物を積んで湯治客が小屋を訪 れた。1950年代までは、馬を引いて峠を越える姿が見られたという。今日歩いた4駆車の通れる尾根道はこの夏沢峠越えの道をなぞっている。現在では麦草 峠越えの道が八ヶ岳を越える唯一の自動車道となっている。



第二日目

朝5:00起床。外はまだ真っ暗である。5:00全員が宿のスリッパを履き、ヘッドランプをつけて真っ暗な登山道 を野天風呂に向かって登り始める。護身用に米国産の唐辛子スプレーを持ってきてはいるが、熊はいないというので安心して登る。やがて河原に下る小道を見つけて急斜面を下ると野天風呂らしきものが見えてきた。木製の蓋がしてある。蓋を脇に 積み上げるために湯加減をみてから湯壺に飛び込む。湯壺は深い。底は砂と砂利である。順次4人全員飛び込む。これで念願成就。小一時間の間に誰も来ず、野天風呂は独占状態であった。

私のスマホはバッテリーが上がって使えないため、秦さんのカメラを記念撮影機材とする。カメラマンは安井さん。使い慣れていないキャノンのタイマーの使い 方がわかるままで大分時間を要した。そうこうしているうちに白々と夜が明けてきた。脇を流れる急流は硫黄岳の斜面に降った雨をあつめて激しく流れている。上流には硫黄岳の爆裂火口の壁が見えるはずであるが霧でみえない。

川下は稲子湯の方角のはずである。夜も明けて空も明るくなったが、雲がかかって下界は見えない。 小一時間湯に入っていると皮膚がかゆくなる。かなりきつい酸性の湯のためであろうか。



全員で記念撮影

野天風呂に蓋をして帰路に着く。6:00朝食。朝食後、再度内湯にはいって野天風呂の強い湯の残渣を洗い流す。

雨は降っていないが、用心してゴアテックスのズボンを穿き、スパッツも装着。宿の前で記念撮影しようとしていると若い男が夏沢峠から下ってきた。記念撮影を依頼する。7:30宿出発。



本沢温泉にて

昨日と同じ尾根道を下る。途中、若い男女3名に会う。本沢温泉の野天風呂がお目当てだという。

車で白駒湖駐車場に移動。高度があがったため、肌寒くなり、レインコートを羽織る。10:00麦草峠駐車場から苔むした林間を白駒池に向かって歩き始める。かなり整備されて歩きやすい。



白駒池への林間道

当初の計画では白駒湖経由ニュウ往復するという下図の計画は総距離6.67km、累積登り313m、累積下り309m、最高高度2,300mになるものであった。疲れも溜まっているため、アッサリ白駒湖一周に変更。総距離は1/3となる。


白駒湖で記念撮影。
白駒荘でソバの昼食。味の方はいまいち。白駒荘は新しい棟を建設中であった。



白駒湖にて

食事中にトンボのツガイがハート型に絡 み合ったままテーブルに羽を休めたので詳細に観察する。東京下町育ちの安井さんはトンボのツガイが絡み合った姿は初めてみたという。ツンツンと卵 を水中に産むメスの頭を雄がシッポの先を引っ掛けて一緒に飛ぶ姿はよく見かけるが、
これは交尾ではなく産卵である。ハート型に絡み合った姿こそ交尾している姿だ。これをまじかで観察できるのは珍しい。このハート型は日本書紀には「アキツの臀舐(とな)め」としてでてくる。昆虫は生殖器は尻尾の先端にあるから交尾という。トンボも尻尾の先端にあるのは同じだが、オスはあらかじめ尻尾の先にある性器から精液を自分の腹にある交接器の袋に 移しておく、そして不用となった尻尾の先でメスの頭の後ろをつかむ。メスは仰向けになって尻尾を湾曲、先にある生殖門をオスの交接器からに合体させ て精液を吸い取るのだ。こうして受精が完了するというややこしい手順を踏んでいる。2匹の姿はハート形になる。飛鳥時代の人には69からの連想からか臀舐(とな)めに見えたのだろう。進 化の過程でなぜこんなややこしいことになったのか不思議だ。交尾中に鳥などに捕食されないためなのか。此処で見たトンボは寒冷地が好きなルリボシヤンマで ある。産卵は湿地や小規模な浅い池沼で、雌が単独で植物組織内または湿土へ産卵するという。彼らは耳を持たないので無音の世界に生き ている。しかし彼らの複眼の網膜は異なった波長(色)を感ずるタンパク質を5種もっているので3種しか持たない人間が見るものより素晴らしい極彩色の世界 に生 きていると言える。なにせ紫外線まで見えてしまうのである。



アキツの臀舐(とな)め 秦さん撮影

秦さんはテングダケを見つけて大はしゃぎ。

白駒池周りの木道は昔とたいして変わらない。ニュウ(乳)の手前にある湿原は白駒湖 より一段と高い所にある。白駒池の水は東北の隅から流れ出しているため、湖面は一定である。青苔荘の手前でコーヒーを沸かして昼食を取ろうとしている鴻巣か らドライブしてきたという若い女性2名に会う。白駒湖を後にして麦草峠に向かって木道を歩いたが途中から険しくなった。継続を断念し、自動車道路にでて今回の散策は完了と した。

余った時間は白樺湖までのドライブで消化。
白樺湖周辺はイチョウが黄色になって秋の気配が濃厚だった。茅野駅で一杯のコーヒーで生き返った。17:28茅野発スーパーあずさ28号で帰宅する。



以下参考資料

硫黄岳山頂より本沢温泉のある谷を俯瞰すると。



  硫黄岳から 天狗岳、稲子岳、ニュウを望む  2008/6/17撮影


上のニュウの部分の拡大。



下のコース図は当初の野心的な希望的なもので所詮無理な物であったことが分かる。


2019/11/23 のTVスイッチをいれると

@    高天ヶ原温泉:雲の平の近く。

A    本沢温泉

B    赤湯又沢:秋田にある凝灰岩(グリーンタフ)でできた沢を沢登り後に到達できるワイルドな温泉。

が紹介されていた。Aが我々の限度だと認識。

July 15, 2016

Rev. November 23, 2019


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