読書録

シリアル番号 951

書名

オシドリは浮気をしないのか 鳥類学への招待

著者

山岸哲(さとし)

出版社

中央公論新社

ジャンル

サイエンス

発行日

2002/2/25発行

購入日

2008/5/10

評価

高校の同期生の山岸哲氏が所長を務める我孫子市にある「山階鳥類研究所」の見学会を提案したとき幹事の土屋氏がこれを読めと薦めてくれた本である。藤沢にも有楽町にもなく丸善本店でようやく手に入れた。

「山階鳥類研究所」は我が国唯一の鳥類専門の研究所である。設立の経緯から皇室との縁が深く、現総裁は秋篠宮文仁親王。1992年〜2005年まで紀宮清子(現黒田清子)さんが非常勤研究員として勤められた。現在の理事長は島津久永氏(昭和天皇の5女・貴 子の夫)。

コンラート・ローレンツの「ソロモンの指輪」のような動物行動学の話しだ。 だいたいすでに別の本で読んだことであるが、知らなかったことが3つあった。

@鳥の卵殻につく色素はヘモクロビン色素由来のポルフィリン(褐色、オリーブ)とヘモクロビンが分解された胆汁色素由来のシアニン(青色、緑色)だけである。斑紋は輸卵管壁にある色素線から色素が分泌されてできる。卵が回転しながら着色されると条線斑紋となる。ここで技術者である私の頭脳にはどのようなメカニズムで卵が輸卵管のなかで回転するのかという疑問がわいてくる。著者に会ったら聞いてみよう。

A長野県のカラスの総数は1.5万羽でカラスの冬季のねぐらは長野県で7ヶ所しかない。毎日40kmは飛んで帰る。夕刻の風下に集まり、朝は無風の中を出かけるという省エネがねぐらを決める要素のようだ。 神奈川県のカラスはどこにあつまるのだろうか?

Bメイナード・スミスは鳥の縄張り行動の説明にゲームの理論を適用して、進化的に安定な戦略(Evolutionarily Stable Strategy)を提唱。鳥は「もし自分がなわばり所有者だったらタカ派戦略でゆけ、進入者であったらハト派でゆけ」という条件的戦略(ブルジョア戦略)を採用している。双方が利己に徹すれば、極めて道徳的な結果になるという逆説である。

中学校教師をしていた頃のカラスのねぐら調査やホオジロの縄張り行動観察の粘りには感心した。

マダガスカル島で適応放散したオオハシモズの系統図をミトコンドリアDNAの12SrRNAと16SrRNAの塩基配列から近接結合法で作成した経緯が書いてある。この塩基配列はPCR法すなわちポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)を使うのだろうか?答えは山階鳥類研究所見学に詳細に記述

ノーベル賞受賞のコンラート・ローレンツを含め「さん」づけで呼ぶことには奇異な感じを受ける。ちょうどアインシュタインさんというようなものだ。

Rev. July 1, 2008


トップ ページヘ