読書録

シリアル番号 539

書名

ローマ人の物語XI 終わりの始まり

著者

塩野七生

出版社

新潮社

ジャンル

歴史

発行日

2002/12/10

購入日

2002/12/11

評価

塩野氏もお疲れになったのか11巻目の出版は遅れて12月になった。皇帝マルクス・アウレリウス、コモドゥス、内乱の時代、皇帝セプティミウス・セ ヴェルスの歴代史。この後のローマ帝国は歴史家たちのいう「三世紀の危機」に突入する。魚は頭から腐る、と言われるが、ローマ帝国も「頭」から先に腐って 行くのだった。

ギボンはその名著「ローマ帝国衰亡史」をコモドウスから書き始めているという。ローマ帝国衰亡はこの皇帝から始まっているからだ。

2007/9/26にNHKのBS2で3時間の大作、1964年のアンソニー・マン監督の米映画「ローマ帝国の滅亡」(The Fall of Roman Empire)を初めて観た。1957年の映画「戦場にかける橋」 で英軍将校を演じたアレックス・ギネスがマルクス・アウレリウスを演じ、ソフィア・ローレンがコモドウスの姉ルッチラを演じていた。映画はフィクションだ が、コモドウスが自分の出生の秘密を知るところがかなり衝撃的であった。そこでふたたびこの本を手に取った。2013/8/2にも2回目の鑑賞をした。2013/8/12にはNHK BSプレミアムで2000年の映画「グラディエーター」を観た。

塩野はコモドウスを描いた映画「ローマ帝国の滅亡」と「グラディエーター」を取り上げ、この2つの映画は史実とは全くことなるという。塩野七生 はギボンがコモドウスから書き始めたのはそれくらい悪名高い皇帝だったからとしている。父のマルクス・アウレリウスは「瞑想録」という著作をのこした哲人皇帝だから、皇帝に適さない息子のコモドウスを後継として指名したのは大きな間違いだとだれでも思う。しかしマルクスは息子を後継にしないと実力皇帝に反対する勢力がこれを担いて内乱になるのを防ぎたかった。誰が皇帝になり、いかに善政をしいても反対する人間は必ずでるのが世の常だからだ。マルクス・アウレリウスにはフリーハンドはなかったというのである。五賢帝時代はたまたま皇帝には息子がいなかったため、最適と判断した男を養子にして引き継げばよかった。しかし、マルクス・アウレリウスには息子がいたのである。ハドリアヌス帝は「息子は選べないが後継者は選べる」と言っている通り。

塩野はローマ軍の戦い方は平原で指揮官が戦場全体をみわたしてその兵を自在に操って勝利を得る方程式でたたかった。しかし2つの映画に見える戦場は森林の 中である。確かに戦場はダニューブ河沿いの森林地帯であったわけで、これでは、ローマ軍に勝ち目はない。それも分からないマルクス・アウレリウスは賢帝と よばれても大した皇帝ではなかったといえるのではと指摘する。

ちなみに巻頭にマルクス・アウレリウスの騎馬像が掲載されているが、確かに鐙はない。鐙はモンゴルの発明品なのだ。

Rev. August 12, 2013


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