読書録

シリアル番号 1248

書名

アメリカの世紀は終わらない

著者

ジョセフ・S・ナイ

出版社

日本経済新聞出版社

ジャンル

政治

発行日

2015/9/25第1刷

購入日

2015/10/26

評価



原題:Is The American Century Over? by Joseph S. Nye Jr.

書店で見て衝動買い。

会社顧問だった元岡崎大使が安全保障の相手国としては米国しかないと繰り返していた。そのときいつもフォリイン・アフェアーズ誌に掲載されるナイの論文を 引用してコメントしていたのが購入の理由。最近は米国の凋落を喧伝する本が多いが、これはそれへの反論。結論は中国が米国に取った変わることはあり得ない ということのようだ。

たしかに中国の人口がアメリカの約3倍のため、GDPなどでは早晩中国はアメリカを追い抜くことになる。しかし科学や創造性による軍事力でも文化などソフ トパワーにおいても移民を受け入れることにより常に活力をえている米国を凌駕できるとは思えないというのが論旨であった。日本を含むアジアは個人の自由を 抑圧する社会のために科学や創造性で米国を凌駕できない。そして中国や日本は移民を受け入れない閉鎖社会のため、米国のように活力ある社会になれない。

英国と米国の比較

パックスアメリカーナ、すなわち米国の軍事的ヘゲモニー(覇権)について英国のパックスブリタニカの衰退が引き合いにだされるが、そもそも英国の覇権など はそのピークにおいても今の米国とは格段の差があった。当時の英国の政策は自国の海軍規模>(二番目の国の規模+三番目の国の規模)としていた。兵員の規 模で は列強の第4位、GDPも4位、軍事支出で3位、国防費はGDPの2.-3.4%。これで太陽の沈まぬ帝国を維持できたのは植民地の部隊を通じて支配した からである。この英国システムはナショナリズムの勃興により崩壊した。米国は植民地を持たない故に(そもそも英国の植民地だった)ナショナリズムの勃興に は無関係であった。英国の衰退のも一つの要因は内部的なもので、化学・電力といった新しい産業セクターで生産性を維持することに失敗した。植民地の支配階 層 向けの教育制度は、科学や技術に関する能力を蓄えるより、古典的な素養を磨くことを上位においた。これが英国における理系と文系の分離といわれる現象であ る。結 果、新しい事業を起こすより、土地所有階級に帰属する道を求めた。そして余剰資本はGNPの8%という資本輸出になって国内投資が過小となった。こうして 英国は他国 にくらべて相対的に衰退した。米国の活力はシリコンバレー・マフィアといわれる、巨額の資金を持つベンチャー企業経験者が自分の目で判断して投資する ことになる。ただ米国にも共和党の大統領候補としてトランプ氏とあらそっているフィオリーナ女史がHPをコンパックと合併させた後遺症としてHPが疲弊 し、プリンター部門を分割せざるを得なかったなどの経営に失敗したことや、IBMの衰退などに見られるごとく、日本と同じ文系経営者(MBA)の弊害もち らほら 垣間見えるようにはなっている。

ヨーロッパと米国の比較

ヨーロッパは通貨、法制度は統合できた。しかし立法、行政、軍事は統合できていない。したがって米国を凌駕できない。出生率は減少し、移民反対である。ソ フトパワー比較では世界のトップ100の大学のうちヨーロッパにある大学は27校で米国の52校に及ばない。大学・研究機関へのう投資額はGDP比 2.7%で米国の半分。創造的産業の貢献度はGDP比7%で米国の11%に及ばない。ちなみに世界平均は4%。

日本

日本も英国と同じく人口は減少し、移民反対、文系優位の英国病になっている。教育というソフトパワーでも米国は世界一の水準を維持している。日本がアメリ カを凌駕したいなら中国と同盟すれば可能かもしれないが日本は米国との同盟を選ぶだろう。という意味でヨーロッパも同じである。これが米国の強みだ。

ロシア

エネルギー輸出という「一つの収穫物に頼る経済と腐敗した行政機構がロシアの弱みだ。世界はリベラリズムに向かっているのにロシアはナショナリズムにこだわっている。これでは米国にとってかわれない。

インド・ブラジル

アメリカを凌駕するとは思えない。

中国

ツキジデスはペロポネス戦争の原因はアテネのパワーの興隆をスパルタが恐れたためとした。第一次大戦はドイツが工業力でイギリスを抜いたためにカイザーが 大胆な外交を来る広げたためである。しかし中国は経済力、軍事力、ソフトパワーで相当アメリカに後れをとっている。市場レーニン主義モデルでは無理であ る。中国は台頭したのではなくかっての地位に復興したとするのが妥当な見方だろう。中国とアメリカ競争の中心はどちらがより多く質の高い友好国をもってい るかにかかる。ワシントンは条約を結んだ国が60あるが中国はほとんどない。150ヶ国中100ヶ国がアメリカに近く21ヶ国が反発している。

複雑化する世界

一番上の階層のチェスボードは軍事力で当分の間はアメリカが優勢。真ん中のチェスボードは経済力で、アメリカ、ヨーロッパ、日本、中国が主要プレーヤー。 一番下のチェスボードは国家の管理が届かないところだ。資金を電子的に移動させる銀行家、兵器を運ぶテロリスト、サイバー空間を荒らすハッカーなどの非国 家アクターが暗躍する。

ニーアル・ファーガソンは歴史とは横断的なネットワークと階層的な秩序間の闘争だと定義。アメリカは開放的で革新に富む文化のおかげでネットワーク社会で の耐性がある。中国はこのような環境ではうまく機能しない。とはいえ、情報のエントロピーが増加するため、アメリカですら支配的な地位につけないというの が結論。

コメント

この本のあと、イマニュエル・ウォーラステインの本を読んだ。この社会学者がめざしていることをジョセフ・S・ナイが実践しているのではないかと感じる。

Rev. November 5, 2015


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