読書録

シリアル番号 1194

書名

それでも中国は崩壊する

著者

黄文雄

出版社

ワック株式会社

ジャンル

歴史

発行日

2008/10/13

購入日

2014/04/27

評価



鎌倉図書館蔵

円仁 唐代中国への旅 「入唐求法巡礼行記」の研究」読んで頭に浮かんだ疑問を解消しようと選んだ 黄文雄の「中国はもう終わっている」が面白かったので再び借りてくる。大分前に読んだ「誰も知らなかった皇帝たちの中国」も同じ出版社で同じように中国史から始まる。

なぜ中国が崩壊するかというと、征服王朝や共産中国を含む中国の歴代政治組織は儒教の原理で構築されているから、社会は複写増殖しただけで突然変異ないし遺伝子交換による進化はなかっ た。だから西洋など進化する組織に敗れて崩壊するのだという。日本や西洋は封建制に相転移し、民主国家に再度相転移したが中国は未だに皇帝独裁をくりかえしてい るだけのコピー国家に過ぎないからという。

中華思想は日本語で中国人はそのように認識しない。中国人は自分のことを「仁義道徳・礼儀の国」と自称。秦の始皇帝は前206年に法治国家を作った100 年後、漢の武帝の時代に仁義道徳を社会の倫理規範とする儒教国家、人治国家ができた。ところが教祖の孔子は仁を定義していないからどうとでも解釈できる。それゆえ儒教は聖人君主に よる統治を最善とする独裁先生の道具になった。無欲を旨とする聖人の絶対化は、後世が先人を超越できないことを意味し、創造性の放棄、堕落へとすながった 中国とその影響下にあるアジア2000年の歴史を沈滞に陥れた。そして性悪説にたち相互チェックと競争を旨とする西洋の後塵を拝すことになった。

中国人は異民族に征服されても、制服した異民族の地を中国固有の領土として主張する傾向がある。今日でも、制服王朝であるモンゴル(元)帝国や清帝国が最盛期に征服した全ての領土を固有の領土であると主張して譲らない。そして異民族の先祖を自民族の先祖として祭り上げる。

筆者は第一中華帝国は「秦漢帝国」、第二中華帝国は「隋唐帝国」、第三中華帝国は「中華民国・中華人民共和国」とする。そして遼・金・元は征服王朝、清は 華夷帝国であったとする。宋王朝は官僚制をてこにした独裁的中央集権で明王朝も独裁君主をいただく中央集権国家であったが世界帝国ではなかったとする。

ではなぜ現在の「中華民国・中華人民共和国」が第三中華帝国かというと権力の取得、政権の性格、国家の構造が共通の特徴をもっているからという。それとは

@権力を武力で勝ち取った
A極端な中央集権
B漢族を主体にするが民族国家でも国民国家でもない。民族間「での融和と統合の無い多民族複合国家
C権力は唯一者が掌握、それに従属する官僚群によって独占され、法治国家ではなく人治国家であり、思想的に独裁者の一家言を独尊する思想統一制がある。

これら4つの特徴をもった帝国は必ず崩壊して別の帝国がとって変わる。これ見ると@は明治維新そのAは日本でも同じ。Bは幸い島国だから適用外Cは安倍反動内閣がやりたいことだ。3/4が一致する。

中国の知識人と政治家は、中国人の歴史的使命は統一王朝を目指せというもの。しかし歴代の統一王朝が中国になにをもたらしたかを冷静に省察するひとは皆 無。日本では2/3が統一期とされるが著者は統一期は1/3に満たない。漢の武帝は武力で統一を果たしたが戦火で人口が半分になるほどであった。中国では 独裁専制がなければ統一できないのだ。中国の統一原理は文化ではなく武力なのだ。統一されると農民は搾取されるだけだった。天下統一思想と近代市民社会の 形成とは無縁である。

中国は統一の時代は地方が疲弊し、分裂の時代は生活レベルは向上した。

中国は典型的な農耕帝国であり、重農軽商主義。1980年にはじまった農民が大都市に流れ込む「盲流」は農民の反乱が易姓革命に導くおそれがある。地方の没落は全国に広がった時必然的に中央の没落をもたらす。

中国の自然科学は発達しなかったが中国の官僚制度や特務制度は高度に発展し、極めて完成度が高く、先進的となった。官僚の腐敗防止、および地方勢力との結 託を防ぐために短期交代制を採用。したがって中央から来る官は万年過客の心理をもち地方の開発について情熱は持たなかった。

ローマが世界帝国たりえたのは万民法があったためであるが、中国は天子の徳治政治による人治国家であった。徳化とは漢人による夷狄に対する文化強制である ことは異なるが、ローマ帝国は北方のゲルマン民族の傭兵に滅ぼされ凧とに対し、漢帝国は北方のアルタイル系夷狄に滅ぼされたことは相似である。

中国は周から清にいたるまで封建制というが、この定義は西欧や日本の封建制とは異なる。そしてその封建制から近代社会は発生しなかった。その理由として 東南に海、西北に砂漠という孤立的な地形が考えられる。百姓は日が出ると田畑を耕し、日が沈むと休むだけで、異民族に征服統治されても影響は受けなかっ た。

民族ということばも日本製の熟語で中国には民族は存在しない。中国人にとっては外来語なのである。だから唐においても異邦人が唐の官僚として活躍できたのである。ギリシア人がローマ人にも民族意識はなかった。

民族をインド・ヨーロッパ語系、アルタイ語系として分類できるがシナ・チベット語系とか漢語系は民族ではない。漢族、漢人は語族ではない。たまたま漢字をつかっているだけで、ローマ字族とはいわないのと同じ。漢字族は北方語族、粤(えつ)語族(広東語)、閩(みん)語族(福建語)、客(はつ)語 族があるのだ。漢字族が漢字文明の盛衰と運命を共にするのはローマ字がただの交信の道具であるに対し、漢字体系は多くの余計な雑貨が入っているためであ る。古典の知識がなければ文字を本当には解読できない。故にそれを専門的に解読する知識人を必要ととし、かれらが人民を愚民として支配する政治的道具に なった。漢字文明圏から大衆文化が生まれてこない。そして政治的イデオロギーもついて回るので、これから自由にならない。そして漢字文明はその難解度がま してブラックホールのように崩壊し、西洋文明に編入されたのだ。このようにして知識人支配の伝統社会が崩壊して市民社会の成熟とともに漢字族はいくつもの 語族にわかれるだろう。台湾は漢字族の脱走事件の先頭に立っている。

日本は江戸時代の300年間、300近くの諸侯がそれぞれの軍隊を擁し、それぞれの国政をしても群雄割拠の社会にはならなかった。しかし中国は軍閥のよう に互いに争うようになる。それは天下を統一しなければという伝統的な脅迫観念というか、それで人民を搾取しようというケシカラン層がでてくるためである。

日本とアメリカなしには存在しえないのが中国。中国は漢方薬と中華料理を除いて世界に認められるブランドはない。

外国の対中国投資額と同じ程度の金が流れ出している。それをしているのは政府高官。国営企業は赤字。民営化は共産党の収入をなくする。

中国では個人主義が発達していないから民主主義はそだたない。人権ではなく族権しかない。中国が世界一の経済圏を持つことはありえない。最後の巨大市場ではなく、死後の墓場となる。

以上、論旨はほぼ橋爪大三郎、大澤真幸(まさち)、宮台真司のおどろきの中国と同じ。

Rev. May 1, 2014


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