読書録

シリアル番号 1146

書名

おどろきの中国

著者

橋爪大三郎、大澤真幸(まさち)、宮台真司

出版社

講談社

ジャンル

社会学

発行日

2013/2/20第1刷

購入日

2013/05/26

評価



講談社現代新書

小笠原氏の推薦。富岡に伊藤博文の仮寓を見に出かけた帰りに鎌倉で購入。一気に読む。

言語を社会現象の根幹に位置づける言語派社会学の構想を展開している橋爪大三郎東工大名誉教授に他の二人の社会学者が論争を挑むという形式の鼎談を記録し たもの。著者3名は小室直樹の弟子である。小室の本はこ の他にも、日本人のための経済原論数学嫌いな人のため悪の民主主義 民主主義原論

中国がヨーロッパより早く統一国家を持った理由は土地が平坦であることと漢字による言語共同体地方の方言を越えてが可能であったことによる。漢字を輸入し た日本は発音の種類が少ないゆえ同音異議語が増え、かつ外来語も日本語訳にしたため一般人にわかりにくくなっている。

儒教が漢字とおなじく中国統一の原則となった。儒教は民族的ではない。もともと多文化多民族的な集団を、共通のフォーマットに従わせるための普遍的な原理 原則だ。人々を結びつけるものに人々が信じる共通のテキストというものがある。イスラム教はコーランがこれに相当。ヒトラーは内実の無いゲルマン神話、戦 前の日本 は国体などという意味不明なイメージを繰り返し語った。

2200年前に中国は世界で初めて統一されたのに近世で近代化に遅れをとったのは、中国に西洋発の国民国家の原理からくる国民という意識が欠如しているためであ る。これは多民族多文化の必然の結果かもしれない。

中国共産党が中国支配に成功したのは必然である。なぜなら農民が支持したから。なぜ農民が共産党を支持たかといえば地主の土地を取り上げ、再配分したか ら。しかし毛沢東は考えをかえ、再び土地をとりあげ集団農場にする。

キリスト教会のドグマは指導層を縛る。しかし中国共産党のドグマは「指導部が正しい」というドグマである。

伝統中国の皇帝と官僚は社会の上澄みしかコントロールできていなかった。しかし毛沢東は「単位」という組織で末端までコントロールしている。西洋の支配原 理は権力者は神に対し責任を持ち被支配者に説明責任を持つ。中国の権力者をチェックすることは秩序を乱すので、皆従う。儒教は本質的に順番つけで、官僚の 順位、親族の中の順番がこれ。システムの形式面が生き残っている。

清朝から続く個人档案(とうあん)によって抜擢と排除管理がなされる。

日本には共産党もなく、官僚の抜擢人事を可能にする档案もなく人材抜擢では中国にはかなわない。中国においては軍の文民統制は徹底していたのでクーデター は発生していない。これはソ連でも同じ。

文化大革命の本質は「敵というカテゴリーをお前たち自身で埋めてみよ」という命令を実行しているうちにだれもいなくなったというのが実態。逆説的だがこう して徹底した伝統の破壊がおこなわれたので完全資本主義化が可能となった。毛沢東は皇帝であった。こうして毛沢東の前での平等」は誰でも享受できた。

日本は中国侵略は悪意でおこなったのか善意だったのか日本人自身がわからない。中国から見ればとんでもない無礼なことだということになる。現在の日本人か らみれば元をただせば、中国のほうが圧倒的に先進国でプライドの高い国だということは理解できない。

元寇はモンゴルが攻めてきたのであって中国ではない。

亜細亜革命の中核は中国なりという認識は当時あった。日本は侵略したのではないと抗弁したかったら、侵略の意図はなかったと証明しなければならない。朝貢 関係 でできている華夷秩序では厳密な境界線を画定する必要はない。しかし日本は西洋的な主権概念で軍事力までつかってまず琉球処分をして琉球を日本の領土とし た。次が日清戦争だった。アメリカは独立戦争で独立したがゆえに植民地を持たないことを国是としている。

中国はそもそも日本の仮想敵国ではなかった。ソ連が仮想敵国だったからこそ朝鮮を併合したのだ。中国の好意的中立を得るためには外交交渉が本道。陸軍は愚 かというほかはない。

ヨーロッパでは傭兵制度が長かった。武器弾薬は戦場に到着してから配布した。したがってロジスティックがしっかりしている。日本軍はこういう経験もなく奥 地には いった。クラウゼヴィッツの戦争論には現地調達した場合は代金を支払えとなっているが日本兵は金も支給されないので略奪した。これで恨みを買った。

ドイツは戦後、戦争被害に関し随時請求の個人保証をした。日本はしていないから従軍慰安婦問題が発生する。東京裁判はA級戦犯が悪かったという虚構で国際 関係を保持した。そういう認識もなく閣僚がA級戦犯を合祀した靖国にでかけるから東京裁判の折角の成果、国民への責任追及が軽減されたという仕組みがご破 算になってしまうわけ。

ケ小平が南巡講話で一夜にして社会主義を市場経済にしてしまった。それをアメリカは支持し、自国の市場を開放し援助した。日本も同調している。田中・周恩 来合意した尖閣は 主権棚上げ、実行支配日本の合意を大平・ケ小平が継承した。尖閣主権棚上げ、実行支配日本の合意とは不法行為があったら拿捕・強制送還が妥当なのに歴史の 不勉強不勉強な前原 逮捕・送検したのが発端。旧陸軍のように歴史を知らない大臣が多すぎる。北朝鮮拉致被害者も小泉・福田は一旦返そうとしたのに安倍が反対したという。これも 交渉事を知ら無すぎる。

毛沢東は自分に無条件で賛成するような奴は概して無能だと思っていた。いつも自分に楯突くが、いずれ必要になるときもあるだろうと、冷遇しつつも殺さずに 温存していた。

まとめると中国共産党はすでにイデオロギーの党ではなく、毛沢東、ケ小平以降の共産党トップを皇帝とし共産党員という官僚がそれを補佐する伝統的中国にい つのまにか変身しているというのが「おど ろきの中国」の見方であり、官僚すなわち共産党の一部が腐敗すればそれを取り除けばよいだけだ。共産党員、すなわち官僚の昇進はかなりの抜擢人事がなされ ているため、中国は着実に伸びるだろうという。一方日本のトコロテン方式の官僚では中国に太刀打ちできない。日本の旧軍も結局歴史観に欠如して、中国に入 り込み大失敗したとおなじく、今後も日本の官僚は能力ない政治家といっしょになって今後も中国にはいつもしてやられるだろうということのようだ。われわれ は中国が崩壊するだろうと甘い期待を持ったり、そのことを心配する必要はなく、自分自身がどうすればよいか考えることが大切ということ。

とはいえ経済的に中国が米国を抜いてもけっして中国は覇権は持てない、なぜなら政権が説明責任をはたさないからである。アメリカが弱体化しても全世界のキ リスト教文明圏が結束してアメリカを支持するだろう。人口的に言っても中国よりキリスト教圏のほうが大きい。こうして アントニオ・ネグリ、マイケル・ハートの超国家<帝国>の ようになるのだろう。

ジェームズ・ロビンソン米ハーバード大学教授、ロン・アセモグル米MIT教授共著の「『Why Nations Fail: The Origins of Power, Prosperity, and Poverty』(『国家はなぜ衰退するのか:権力・繁栄・貧困の起源』」早川書房のエッセンスは「国家が栄え続ける発展段階で、まず特定層のための中央 集権的で収奪的な制度ができ、それから創造的破壊を起こすために「全員参加型(inclusive)」の制度に変わっていく必要がある」 、 「既得権益層が居座り続ければ、国は衰退する」、「銀行や官僚は収奪的になりやすい。近年は自分たちの分け前を増やすために政治力を行使している。そして 公的部門は多くの国で強い実権を握り、かつ肥大化しており、政治に守られている。銀行は20世紀を通じて国家繁栄に大きな役割を果たしてきたが、政治力が 増し、リスクを必要以上に取るようになった」、「日本は欧米へのキャッチアップ型の発展を終えた後、創造的破壊を起こせる全員参加型社会に向けての改革が うまくいかず、過去20年経済の停滞に苦しんできた」にある。 いずれ中国も「創造的破壊が起こりやすい制度にしなければ、国家は失敗する」ことになるだろう。という考えにしたがえば中国もいずれ日本のように壁にぶつか る。
Rev.June 3, 2013


総合知学会の神出さんが中国の状況について外野席から一言。

小生は共産党政権はそう簡単に崩壊しないと予測しています。

その理由の第1は共産党員が相変わらず増加していることです。2012年の発表では8千万人を越えました。内訳は企業労働者9%、農・牧・漁民31%、 共 産党・政府の職員9%企業管理層および専門技術者23%、 離職休養・定年退職者19%、その他(個人経営者ほか)6%、学生3%で専科大学卒以上が 37%で高学歴化進んでいます。共産主義の基盤である労働者と農民が40%で半数を割り込んでいることと、企業家、定年退職者、個人経営者などが増加して いて、習政権ではさらに産業人の党員化を促進する方策を打ち出しました。
現実主義者の中国人が共産党員になるのは、それだけメリットがあるからです。自分たちで法律を整備し、そこから利益をあげられる汚職などという次元を超えた 甘いシステムが駆動している限り共産党は安泰でしょう。国家資本主義の裏の姿でもあります。

第2は、そもそも文明論的にみると現在の共産主義中国は2千年の歴史を有する儒教文明国そのもののようです。中華民国、中華人民共和国とも儒教、科挙を廃止し ましたがケ小平時代から儒教の復活が始まりました。
中国人魂の精神的支柱はやはりそこに戻るのです。山崎正和氏が中央公論五月号で指摘しているように、共産党員は独裁専制国家の官僚であり貴族です。上記の労 働者や農民の共産党員含めて特権階級です。
その下に都市戸籍、農村戸籍の一般大衆がいます。欧米や日本の官僚という狭い意味ではなく一種の皇帝のもとの階層です。数年前の共産党の論文で、、植民地化 の屈辱的な歴史を繰り返さないために2050年を目標とした大国から強国化方針が打ち出されました。そして13億人を束ねる政治は共産党(すなわち官僚階 級)しかできない。政権を替えるにしても共産党に替わる野党勢力などは存在しないと自負しています。儒教文明の特徴は易姓革命です。13億の民が食えなく なると政権は変わりますが、資本主義という怪物を制御しながら強力な政治を推進する政権は結局共産党(官僚階級)の中のたらい回しになると小生は予測して います。

最後に「最近の中国の海洋権益主張を始めとする対外強硬姿勢は、こうした共産党への国民の厳しい目を一時的にも逸らしたいあせり」というご意見への異なる見 方です。日本の漁民人口は17万人です。中国のそれは約1千万人です。漁船数も桁違いですが、 最近、遠洋漁業用船舶が急速に増加し、世界中に進出し、アフリカ沖、チリ沖、カナダ沖などで紛争が起きています。海軍強化も強国政策の一環でエネルギー、 鉱物資源確保のための海洋権益主張もありますが、13億人が食うためのそれもあります。

昨年末の民放テレビ番組で司会者が”中国人の人権とは?”と質問したら、著名な中国人ジャーナリストが”人権とは食える事です!”断言し、日本側参加者は唖 然としていました。 しかしある意味では真実をついています。

「中国思想と中国の行方」については、後日機会がありましたら総合知学会で議論させていただきたいと存じます。

これに対し原さんは

共産党政権は長く続くだろうとの説には必ずしも不賛成ではないが、その理由として挙げている「共産党員は8千万人もの多さである」・共産党入りする者が多い から」、というのには賛成しません。現在の中国では共産党員であることは社会のエリートであり様々な特権を享受出来る。イデオロギーに賛同する・しないに 拘わらず多くの若者が憧れるのは当然。彼らの大半は風向きが変われば脱あるいは反共産党になる可能性大。共産党が政権を失うとすれば、あまりの傲慢なやり 方に対する反発する人々が増え反共産党勢力として力を持つ事に加え、共産党内で革新派対守旧派の抗争が激化して社気の変動に対応出来なってしまった時。 1990年前後国有企業の民営化を進めようとかなり努力したが、守旧派の反対であまり進まずその後は経済発展の陰に隠れて民営化されないままになってい る。この間に非効率・矛盾は会社規模拡大と共に益々大きくなり、守旧派幹部への資金源としての影響力は手を付けられないものなっていると聞く。あまりので たらめさから数年前に解体された鉄道企業体もこれらの一つ。こうした事をうまく変革出来れば共産党政権は長持ちするのだろうが‐‐‐。
ところで、神出氏の社会層分類データの出所はどこでしょうか?中国・インドにおけるこうした種類のデータの信頼性は非常に低い。例えば、農村からの出稼ぎ労 働者は農民・労働者どちらに分類されている?企業管理層・専門技術者23%に対し企業労働者は9%;労働者一人に管理者・技術者2人以上。こうした企業を イメージ出来ますか?多分個人企業経営者を管理層に入れているのだろうが、それにしても労働者が少な過ぎる。仮にこの比率が逆(労働者2人に管理者・技術 者1人)でも労働者が少な過ぎる。
明日会った時に話しましょう。

これに対し私は

中国共産党はすでにイデオロギーの党ではなく、毛沢東を皇帝とし、官僚がそれを補佐する伝統的中国にいつのまにか変身しているというのが「おどろきの中国」 の見方であり、官僚すなわち共産党の一部が腐敗すればそれを取り除けばよいだけで、その官僚の昇進はかなりの抜擢人事がなされているため、中国は着実に伸 びるということのようです。

< 一方、日本のトコロテン方式の官僚では中国に太刀打ちできない。日本の旧軍も結局歴史観に欠如して、中国に入り込み大失敗したとおなじく今後も日本の官僚は能 力ない政治家といっしょになって今後も中国にはいつもしてやられるだろうということです。われわれは中国のことを心配する必要はなく、自分がどうすればよ いか考えることが大切ということのようです。

木下さんは

怒りは正義と比較してのものでしょうから中国には救いがあるということでしょう。

民主主義がベストではないことは明白で、賢いリーダーの専制がいいにきまっていますが権力は必ず腐敗するわけです。中国は10年で定年ということで腐敗防止 しているのでしょうね。

まー見ものですが問題はわれわれはどう行動するかでしょう。

と返した。10年もたなければ、かっての中華帝国がそうであったように政変があるのだろう。



小松さんから蔵前ジャーナル1039掲載の橋爪氏の「一時間でわかる世界の宗教」という小冊子を送ってきた。これも橋爪氏独特の明解な見解が述べられてい る。いわく

グローバル世界=西欧キリスト教文明(25億人)+イスラム文明(15億人)+ヒンドゥー文明(10億人)+中国儒教文明(13億人)+日本ムラ文明(1 億人)

ユダヤ教、イスラム教などの一神教は神の命令(契約)は宗教法(律法)に定められている。キリストは宗教法に従わなくともよいとした。自分達の都合で自由 に法律をつくっても良いとしたことがキリスト教文明が近代化した理由である。

ヒンドゥー教はカースト制と輪廻でがっちりと固めた社会だ。ゴータマ・シッタルダはクシャトリアの出身で誰でも修行すれば、自分の力で、最上の覚りをえて 覚者(ブッダ)になれるとした。覚りとはこの世界の法を、認識しつくすことだ。

中国人は安全保障を最優先する。そのためには強力な統一政権が必要となる。儒教は社会でだれが偉いか、人間に順番をつけることにある。紛争は上級機関が決 める。中国の農民は無能な政府を容赦しない。政府の全取っ替えが起こる。

日本ムラ文明とは安全保障の優先順位が低いのでリーダーが権力をもつことを嫌う。誰が意思決定したかわからない合議によってものごとが進む。しかしムラ は、自分の生存条件を自分で作り出すことができないので武力が必要になる。武士が武家政権をつくり、明治にそれが軍部となり、敗戦でアメリカがそれに代 わった。

米国の力もなくなり世界は協調ですすむしかない。ムラ文明の日本に出番はあるか???

Rev. January 19, 2019


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