読書録

シリアル番号 1164

書名

終戦史

著者

吉見直人

出版社

NHK出版

ジャンル

歴史

発行日

2013/7/25第1刷

購入日

2013/10/10

評価



NHKスペシャル「終戦」の出版化本。制作統括の内藤誠吾氏よりの献本。

著者はシナリオを書いたフリーランスライター。

2011年に内藤誠吾氏制作のNHKスペシャル「日本人はなぜ戦争に向かったか」に関し、元朝日新聞記者も参加して、おおいに盛り上がった。今回の「終 戦史」はそうして始まった戦争の行き着いた始末記だ。この本は2012年のNHKスペシャル「終戦 なぜ早く決められなかったのか」という番組のシナリオを組み立てた 著者が書いたもの だ。政治や企業などの組織が始めた戦争であろううがビジネスであろうが敗けがと分かった時点でこれをやめる決断がなかなか出来ないという病は戦争中よりさらに重篤化して、救いようが ない。例えばソニーは未だにテレビにこだわって、赤字を垂れ流している。これ、すべて決定者が自分の利益のみを考えて全体をみていないためだ。番組を見たばかりのためなのか、やはり負けたことは不愉快なためか、もう一度 本書を読んで番組を追体験する気にもならず、いただいた本は20日間積んだままである。

積んだままの本当の理由はもう一つある。最近白井聡著の「永続敗戦論 戦後日本の核心」 を水野和夫の書評で知り、わざわざ本を購入して読んだためだ。本と番組のタイトルを「終戦」としないで「敗戦」にしてほしかったと思ったことも、本書から色あせた感じを受けた理由であろう。私が書いた原発物も「原発敗戦」で「原発終戦」ではない。日本では戦争中から「撤退」とは言わ ずに「転進」というように言葉をすり替える不正直な伝統というか文化がある。NHKも例外ではないという例だろう。まー!!9条があるにもかかわらず自衛隊がある国だからム べなるかな。

終戦にしろ敗戦にしろ、早く決められないのは事態を認識できないか恥ずかしくて口に出せない理由があるのだろう。かくして政治家の歴史認識が隣国 から批判され、国境にみだりに緊張が走る事態に陥り、第三次世界大戦の恐怖もないといえばうそになる。というわけで日本の準国営企業のNHKの担当者に とっては勇気ある企てであったと評価しなければならないだろう。次回は「敗戦 なぜ受け入れられずにいるのか」とでもいう番組を期待しよう。

と書いて沢山積まれた別の本を読んだが、クリストファー・スタイナ著「アルゴリズムが世界を支配する」 でスタンフォード大フーヴァー研究所シニアフェローのブルース・ブエノ・デ・メスキータ(Bruce Bueno de Mesquita) は政治を予測するテンプレートとしてゲーム理論アルゴリズムを開発した。メスキータは諜報部の 集める過去のデータは無視する。かわりに各プレーヤーのモチベーション、影響力、関心の程度を入力すればアルゴリズムが出す予測はCIAの専門家より確度 が高いことが証明された。支配者にとって何が最も得策なのかの情報が全てを決めるとある。そこで俄然興味がわき、本著を手に取る。

確かにポツダム宣言を「政府としては重大な価値あるものとは認めず黙殺し、斷固戰争完遂に邁進する」とコメントして黙殺した時の総理大臣鈴木貫太郎は後入斎(こうにゅうさい)に なっていてなにも発言しない。黙殺したが2発の原爆に見舞われ、ソ連には裏切られ、追い詰められた。やむなく「国体護持」を条件として、ポツダム宣言受諾に意見統一したが、受け入れられず、無条件降伏に至るのであ る。完敗である。二・二六事件にて銃弾を受け、かろうじて一命を取り留めた経験の持ち主の後入斎にとっては二度目の銃弾を避けるのが得策だったのだろう。彼は時限的な責任し か追わない官僚であったわけで、国家を背負うことは得策ではなかったということだろう。原爆で死んだ人は捨てられたのだ。1946年、敗戦一年後のイン タビューでは、「われは敗軍の将である。ただいま郷里に帰って、畑を相手にいたして生活しております」とコメントを残した。2013年11月17日にサイクリングで関宿の鈴木貫太郎 記念館訪問の予定だ。何かの縁だろう。

2013/11/1


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