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海水の大循環

96/10/20 作成

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Dr. Wallace S. Brocker, 1987 Illustrated by Joe Le Monnier, Natural history Magazine

●コロンビア大教授、ウォーレス・S・ブロッカー博士の図示。(The Great Ocean Conveyor Belt, Dr. Wallace S. Brocker, 1987 Illustrated by Joe Le Monnier, Natural history Magazine)北極海で冷却された海水が北大西洋の深海に滝のように流れ込み、太平洋とインド洋で湧き上がっているという説。グリーンランド沖で沈み 込んで北太平洋で湧き上がるまで1,600年かかるとされていた。高知大の村上雅史教授は四国沖の熊野灘の海底のコアに含まれる有孔虫の炭素14を調べて 1,800年かかって四国沖に到着したと結論した。ということは北太平洋で湧き上がるまで2,000年かかることになる。この大循環 (熱塩循環 thermohaline circulation ともいう)は現在の間氷期は安定しているが、歴史的には変動がある。

●四国沖のコアに含まれる有孔虫の炭素14から2.5万年前には2,500年かかって四国沖に到着していることが分かる。2万年前には循環が停止したことが分かる。

●グリーンランドで掘削された氷河の氷の分析から1.2万年前の石器時代、長い氷河期を終えて温暖化していた地球の温度が突然下がり始めたことがわかった。これをヤンガー ・ドライアス寒冷期という。ブロッカー博士は1990に海水の大循環が停止したためと説明。ドライアス(Dryas)はヨーロッパのチョウノスケ草の名前で、コアサンプルの若い層からこの花粉が出たのでヤンガー ・ドライアスと命名されたという。日本では1889年8月須川長之助が立山の一ノ越で発見。バラ科の超小型の木で横縞の小判型の葉が特徴。現 在の五大湖付近で発達していたローレンタイド氷床が急に溶解し、大量の真水が北大西洋に流れ出し、海水の濃度を急に下げたため、海水の大循環が約 1,000年間停止した。このため、急に氷河期に逆戻り10℃も気温が下がったところがある。生態系が急変し、マンモスも死に、人類は大変苦しんだ。

●ローレンタイド氷床とは山岳氷河ではなく、北米の大部分の平地1.1x107km2(地球の表面積の2%)に積もった氷河。この厚さが2.4km。これが溶けると海水準は75m上昇する。

●これをダンスガード−オシュガー振動(Dansgaard - Oeschger cycle)とも呼ぶ。グリーンランド氷床コアの酸素同位体比変動で見い出された氷期における数百年から数千年周期の気候変動.氷期における温暖な亜間氷 期(interstadial)と寒冷な亜氷期(stadial)の顕著な気候変動サイクルで、D-Oサイクルとも呼ばれる.亜間氷期は,数十年間で数度 の急激な温暖化と,その後500-2000年かけての緩やかな寒冷化で特徴付けられ,最終氷期には24のD-Oサイクルが知られている。D-Oサイクル は,北米ローレンタイド氷床から北大西洋への氷山の多量流出に起因した北大西洋深層水(NADW)の形成と暖流であるメキシコ湾流の北上という海洋循環変 動に伴う気候変動と解釈される。D-Oサイクル現象は、グリーンランド氷床以外の雪氷コアや海底コアでも報告されている。

●真鍋博士の海流対流モデルによると現在の地球温暖化が継続すれば、南極の氷床や氷河が解け、真水で海水が薄まって同じような大循環が停止する可能性がある。21世紀半ばにはこのような事態になると。

●白い地球といっても地球全体での寒冷化ではなく、北半球の寒冷化である点に注意が必要。

●1998年12月20日のNHKの番組では海水温が上昇すると湧流水が表層に昇って来れなくなり、海の表層は貧栄養となり、漁業資源が減少する。また珪藻類 、円石藻も成長できず光合成ができなくなり、大気中の二酸化炭素の吸収ができなくなる。磯の香りの原因物質で、かつ太陽輻射をさえぎるエアロゾルの核となる二硫化ジメチルを生成する円石藻も貧栄養化で減ってしまうので急激な温暖化もありうるという。 乱獲とあいまって2048年には海から魚が居なくなると米とカナダの研究チームが2006/11のサイエンティフィック・アメリカンに発表している。

●海底温度が上昇すると、石炭を含む全ての化石燃料の2倍もあるというメタンハイドレートが崩壊噴出する。ノルウェー沖には約8,000年前に総メタンハイドレートの3%に相当するメタンハイドレートの噴出口跡が100個も発見されている。

●2005年英国立海洋学センターがメキシコ暖流は1957年の循環量に対し30%減速したと発表。氷河が溶けて河川から海に流れ出る真水が増えて北大西洋の表層の塩分濃度が減少し、北極海で沈みこまなくなったためという。ヤンガードライアス寒冷期の再現があ れば欧州は7-10度、日本は5度程度寒冷化するという。

●CO2が1,000ppmになって温暖化すると熱帯から極に向かう熱流と深い深海に酸素を送り込む海水の大循環(熱塩循環)が停止した場合にも起きる可能性がピーター・D・ウォードにより指摘されている。

Rev. February 2, 2014


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