自由人のエネルギー勉強会

第二回

2009年10月11日

学士会館302号室

海のポテンシャルの活用を急ごう」安田安夫 元ゼネシス、日本テトラ等会長 海のロマンの会

安田安夫氏は若き頃海軍に入るも終戦となり、京都大学で土木を学び、建設省に入って海洋土木分野で働いた方だ。日本テトラに天下って日本の海岸をテトラポットで埋め尽くし。引退後は「海のロマンの会」を組織して アンモニア/水の混合冷媒を使うウエハラサイクルを使った海洋温度差発電、同淡水化装置、海流発電、波高発電、海上風車発電などを行うプラットフォームを提唱されている。

再生可能エネルギーの開発の趣旨は大賛成だ。しかし提示された概念図には違和感を覚えた。深海と表層の温度差14-20oCを得るために1,000mの深海から海水をくみ上げて海洋温度差発電をし、同時に淡水化もするわけで、これらを一点繋留浮体内部に設置するの は納得。

しかしそしてそれに繋留するセミサブマーシブル浮体複合体の設計はいかにも素人っぽい。海流発電機はセミサブマーシブル浮体内部に設置するのは当然。しかし波高発電するためにはセミサブマーシブル浮体をリジッドに連結して少なくとも波長と同じ長さの長大で剛性のある構造物にしなければならない。

この構造体は荒れる海で波をいなすためにはオイルリグに使われるようなスカスカのトラス構造にしなければ波の衝撃で簡単に破壊されてしまうだろう。北海で経験したことだ。しかるに飛行場のようなフラットで薄いプラットフォーム構造になっている。そしてその上に巨大な研究棟を建てて風車へ流れる風をさえぎっている。

これは陸のロジックを引きずった、そして風車の原理も知らず、海の怖さに無知な素人の発想のように見える。設計を無知な大学教授にまる投げした箱物行政はこういう ものを構想するという典型的な例に見える。そしてメンバーに関空の社長だった竹内良夫氏がいるためもあってか、飛行場のような形になったらしい。巨大な甲板で海を拒絶するという 潜在意識が働いているようにも見える。なぜアルカトラス島の監獄のような研究棟をプラットフォームに乗せる必要があるのかと問うとメンバーである大学教授が掲げた夢であるエクメーネの実現のためだという。

エクメーネとはラッチェルの命名になるもので、彼は人類の生活空間をエクメーネと呼び、それ以外の領域をアネクメーネと名づけた。人類の生活空間とは人間の永続的な居住生活のできる空間であり、一時的ないしは季節的に居住したり、南極基地のように生活の本拠地が別のところにある場合にはエクメーネに含まれない。しかし場合によっては、居住空間だけでなく経済空間・交通空間をも加えてエクメーネと呼ぶこともある。その場合には、大洋の大部分さえエクメーネに加わる。技術の進歩や人口の増加によってエクメーネを拡大し、今日では人口がきわめて稀薄で無住地域もエクメーネにしようということらしい。

しかし、陸では中山間地帯が過疎化しているというのになぜ15兆円もつかってエクメーネを拡大し、1,000mの深海上に大勢の人間が居住しなければならないのか全く理解できなかった。発電など遠隔で制御できる。どうも土木工学は人間の幸福と経済を度外視して自己増殖する傾向を持っているらしい。困った学問だ。

懇談の席で「日本の山は無駄に朽ち果てて二酸化炭素にもどり、二酸化炭素固定の役割を果たしていない。エクメーネなどという前に広葉樹林を自然の再生速度の範囲内で計画的に伐採して発電をする事業を起こし、中山間地帯の再開発をしたほうがましではないか」と安田氏に提案すると森の緑は万難を排して守らねばならないとおっしゃる。陸のバイオマス利用による気候変動防止には全く興味がないらしい。私はまず陸のバイオマスの有効利用による気候変動防止が先で、海洋のバイオマス利用はコストが見合うならばと思うのだが、コスト度外視の我田引水のロジックが次々と繰る出されて辟易した。

原子力工学屋や電気屋と同じく、土木屋は各官庁のタコツボにはいるやそれぞれの組織の利益追求に邁進する。農水省の技官は海洋土木を生かして日本中に港を整備した。官庁の思惑がどうあれ、国際競争についてゆけない漁民は漁船の数を減らし、後継者難で日本漁業は衰退の一途をたどっている。農業とおなじことが生じているのだ。そして漁港の防波堤は海岸の砂の流れを阻害し、至るところで海岸線の侵食を生じ、(建設省所管のダムも一因だが)そこにテトラポットを投じるという悪循環で日本の海岸を荒廃させてきたことに気がつかないのだろうか?

現実に発生している事態をみることもせずただひたすらに規定路線を突っ走ることしかできない官僚達に自民党政権は無批判に国を任せてきたのだ。世界一の借金国家にならないほうが不思議なくらいである。

 

Eine kleine Nachtphysik」亀淵迪 元筑波大教授 素粒子物理学、場の理論

若き頃、森永先生とともにコペンハーゲンのニールス・ボーア教授の研究会に出入りしていたころの思い出。ニールス・ボーアがなぜラザフォードや長岡半太郎の土星型原子モデルの矛盾を解決したかの秘訣を語った。

従来の古典電磁気学では電荷を持った粒子が円運動をすると、その回転数に等しい振動数の電磁波を放射しエネルギーを失ってしまう。そのため正の電荷を帯びた原子核の周りを負の電荷を持った電子が同心円状の軌道を周回しているという土星型原子模型では、電子はエネルギーを失って原子核に引き寄せられてしまうはずであった。

一方で、分光学における原子の発光スペクトルの研究により、原子の発する光は特定の振動数のみに限られ、各振動数の間には一定の法則(Ritzの結合則)が成り立つことが知られていた。

ボーアは、ボーアの量子条件とよばれる仮説を用いることによってこれらの矛盾を解消した。その仮説とは

(1)電子は特定の離散的なエネルギー状態(エネルギー準位)に属し、対応する軌道を運動する。この状態を定常状態という。定常状態では、電子は電磁場を放出することなく、古典力学にしたがって運動する。

(2)エネルギー準位と対応する軌道は、古典的に可能なものから、量子条件が満たされるもののみが選択される。

(3)電子はある定常状態から別の定常状態へ、突然移行する。これを状態の遷移という。そのときに放射(吸収)される光の振動数は振動数条件を満たす。

この理論はかなり大胆な仮説を用いたものだったが、水素原子に関する実験結果を見事に説明できた。そしてこの理論は量子力学の先駆けとなった。

常識を否定する諧謔の精神がこのボーアの成功のきっかけとなった。

 

自由討論

森永先生から富士山の山頂からカタパルトまたは下向きの滑走路で旅客機を飛び立たせるアイディア、夜間新幹線にトラックを載せて運搬するアイディアが紹介された。

夜間新幹線にトラックを載せて運搬するアイディアは高速道路と接続の便利な場所に巨大な駐車場を設け、ここに新幹線を引き込み、台車上に車を運転して載せるプラットフォームを設けなければならないため膨大な投資が必要となる。 かっての操車場が消えてしまったが似たようなものを再構築しなければならない。新幹線に載せるということは集中バッチ処理である。このためには待時間が必要となる。宅配便の発達で人々が迅速かつきめ細かな物量を追い求める人々の意識が変わらない限り、無理だろうとの意見を言わせてもらった。スロー・ライフスタイルの意識が出てこない限り、だれも利用しないだろう。すでにJR東海道の貨物列車は不景気を契機として空荷で走り続けている。いつまで集中処理を継続できるかははなはだ疑問だ。

民主党の高速道路無料化は温暖化に逆行するのではないかとの先生の御指摘にはせっかく高速道路を作っても金がかかるものは使わない。結果として平行する一般道は渋滞している。渋滞防止のため一般道整備に税金を使っている。いわゆる二重投資だ。気候変動を人質に原発推進をするように気候変動防止を人質に国家財政を危機に陥れることは出来ないだろう。気候変動防止は高速道路の料金徴収維持ではなく、炭素税を新たに設けて減らすのが本筋という考えが披露された。

海の再生可能エネルギー利用のアンチテーゼとして人口台風発電の構想を紹介した。これは小学館の編集者の広瀬さんから新聞の切り抜きをいただいたことから始まった。オーストラリアの砂漠で半径5kmの円形の地面の上にワイヤーを張り、その上にフッ化ビニル樹脂で覆って温室を造り、円形の中央に 直径500m,高さ1,000mのコンクリート製のドラフトタワーを建てて、温風を吸い込み、発生した風でタワー底部に設置する風車を回すというものだった。風車の発電量は前後の風速の二乗の差に比例する。後流の風速を低く抑えるにはドラフトタワーの直径を大きくせねばならず、金がかかる。そこでタワーの入口ではなく 、出口の風車を設置したらよいと閃いたことが発端である。面倒な流動計算の結果は発電単価はグリッドパリティーを達成できるが巨大な土木工事を必要とするものである。しかも風車の後流の流速を下げるのが意外と難しい。それに実物の台風に耐えられるかという問題もある。単なる知的な遊びとしては面白いが万難を排して実現するほどの価値はないだろう。やはりPVに人類の将来をかける方がよさそうだと判断したと紹介。

グリーンウッド氏は「PVの電力を二次電池で蓄電し、夜照明に使う方式の蓄電はPVの負荷率が32%と低いためとバッテリーの寿命が数年と短いため、蓄電費が90-400円/kWhと非常に高価になる。従って系統連携で対処するしかない。PVが普及すると一定運転している原子力と運転優先度争いになる。しかしPVの設備単価のほうが 原発より高いので原子力は負荷調整運転に追い込まれるだろう。

電池自動車で期待の星となっているリチウムイオン電池は基本的には負極のグラファイトのp電子軌道の最低非結合分子軌道(LUMO)に電子を電気化学的に出し入れする原理から考えて容量を大きくすることには限界がある。やはり価電子が原子軌道から分子軌道へと遷移 させる共有結合で生成した物質をタンクに貯蔵する方に軍配があがることになる。PV電力で水電解するのも二次電池よりコストパーフォーマンスがいいが水素は貯蔵も運搬もコストがかかる。貯蔵のためには窒素と反応させるのがよい。ハーバーボッシュ法は大仕掛けだがペロブスカイト構造の金属酸化物を固体電解質につかうアンモニア電解合成が二次電池 の競合技術になる」と紹介。

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October 16, 2009

Rev. November 10, 2009


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