バイオマスエネルギー交流フォーラム

2004年1月25日、山梨県須玉町ふれあい舘にて開催された「バイオマスエネルギー交流フォーラム」に出席した。ついでに甲斐の国ゆかりの天目山にも立ち寄った。

NPOえがお・つなげてが主催する2回目のシンポジウムである。グリーンウッド氏はNPOのマキカートの設計を担当させてもらった縁で興味をもって参加した。5人の論者の発表と討論会があった。

会場のふれあい舘

グリーンウッド氏は1970年代のオイルショック時にバイオマスが検討されたのにその後、コスト的に化石燃料に対抗できるエネルギーに育たなかったのはイノベーションを伴う安価なバイオマスの供給体制を新規に構築しなかったためと考えている。グリーンウッド氏はそのイノベーションの一つとして植林コスト節約のため(1)広葉樹を使い、(2)植林・間伐・林床手入れなどせず放置し、自然再生を待つ放置林とする。(3)伐採・搬出・チップ化コスト削減のために欧米で使われている森林機械を導入して皆伐する。(4)設備投資の低いガスタービン発電を採用するという「広葉樹発電」構想をこのHPで提案している。

このシンポの論者の一人、岐阜県立森林文化アカデミー学長の熊崎実氏のお話はグリーンウッド構想の方向の正しさを証明するものであった。熊崎氏によると森林バイオマス発電コストを化石燃料と競合できるような技術開発をした国は北欧と北米しかない。いずれも伐採搬出コスト削減のために機械化し、森林は皆伐して枝付きで斜面を垂直に引きずり降ろし、枝払い機で一挙に枝を落とし、チッパーでチップ化してバイオマス発電燃料とし、幹は用材またはパルプ用チップにしている。森林労働者は大学卒の高給取りの技術者で機械操作だけで伐採し、筋肉労働は伴わない。スエーデン、カナダ、米国はいずれも建築用木材やパルプ用チップの輸出国であるので森は針葉樹林であろう。幹は用材またはパルプ用チップとして売り、枝など品質に問題がある場合はバイオマスとして使っているわけである。日本では用材のみが目的であるので品質を高めるために密植⇒間伐という手間をかける方法を盲目的に維持しようとするからコスト高となって上手く行かない。間伐した木を森林から持ち出すことすら不可能であり、捨ておくしか方法がないため、バイオマス量は製材時にでるクズだけとなり、スケールメリットを享受できる量を確保できない。皆伐しないので用材搬出のトラック用にアスファルト舗装の林道を作ることになり、コスト高、環境破壊など問題がでてくる。日本でも林道は使わず仮設ケーブルやヘリコプターを使って幹だけ用材用に搬出しているところもあるが、枝は現地に残しているわけだ。皆伐した木材を枝つきのままで山から引き出せば林道など不要となるのだ。ただ大規模広範囲に皆伐しないとこのようなことはできない。熊崎氏の言及した森林機械は独自に調査したので紹介する。

大規模広範囲に皆伐するためには日本の山林の所有権が細分化され、零細化していることがネックになる。森林組合もイノベーションの抵抗勢力になっているようだ。この点に関しては須玉町長の中田欽也氏が興味深い提案をされた。即ち所有権には手をつけないで農地を地方自治体が長期間借り上げ農業を希望する人に貸し与えるという方策である。この方式を林業に適用するのである。株式会社を作って山の所有者が山地を現物出資する手もある。ただ現在山にいる人々にはこのイノベーションを行なう技術と視野がないのが問題である。

農水省は既得権益者の間にたってがんじがらめで動きがとれなくなっているが、大臣官房環境政策課資源循環室長の藤本潔氏はそれぞれの地方自治体が話し合って上手く行くシナリオをつくり役所にもちこめば、役所はフレキシブルに対応する雰囲気がでてきていますよと発言したのにはおどろき、思わず拍手してしまった。

日本全土をバイオマス生産につかったとしてもこれから得られるエネルギーは日本が現在消費している化石燃料の20%に過ぎない。しかし、化石燃料がいずれ枯渇すればこれしかエネルギー源はないわけである。鈴木嘉彦山梨大学教授は山梨県なら南アルプスも含めればバイオマスだけでその全エネルギー消費を100%近くまかなえるわけだし、東京にも近いのでバイオマスエネルギー県にしたいという構想を提案された。

東京農工大教授の横尾教授はカートリッジ化した粉炭の利用を提案された。試作した粉炭ガスタービン発電機(発表時点では未稼働)についても発表された。

最後に本フォーラムの主宰者のNPO代表理事の曽根原久司氏が田中長野県知事の「改革はディテールから」の言葉を紹介して締めくくられたが、グリーンウッド氏もまさに林業の改革はディテールからと思う。現在の日本の林業の苦境から抜け出すには現当事者の小手先のパッチ当てではなく、ディテールを考え抜いた上でのイノベーションを伴う大胆なシステムつくりまたは文化を築く必要があると実感した次第である。そしてイノベーションは決して中央政府の補助金なり支援を期待する向きの人々や組織からはでてこないものなのだ。これをいみじくも農水省の藤本氏が間接的に示唆しておられたと理解する。「天はみずから助ける者を助ける」とは誰の言葉だったのだろう。

January 26, 2004

Rev. Feburuary 16, 2004


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