エネルギー工学連携研究センター(CEE)

第5回シンポジウム

太陽光発電導入の長期戦略を考える

2009年10月2日

東京大学生産技術研究所 コンベンションホール

 

グローバル・ヒーティングの黙示録」 でPVのグリッドパリティーが5年後には来るのではないかという予言をしたゆきがかり上、最近の動向を把握するために参加。 しかし世の中の動きが間違っていると感じ、結局フロアーから大いに発言してしまうことになった。

コンサルタントの且糟ケ総合システム主任研究員の松川洋氏

ソーラーアメリカ計画では1010年までに住宅用13-18セント/kWh、商用9-12セント/kWhを目標にしている。

昔は日本メーカー、昨年まではドイツのQセルズだったのが今年は米国のファストソーラーが一番におどり出た。実勢価格2$/Wである。すぐに1$/Wになるだろう。それと中国メーカーの躍進が大きい。

ドイツでの総発電量45-85GWのうち、PVは5.3GW、風力23.9GWに達した。この時点でヨーロッパは再生可能エネルギーが原因ではなく、計画的な一部幹線を切り離したことに起因する停電 を経験した。そして連鎖的にヨーロッパの系統が4つのブロックに切断された。これにより瞬時電圧低下などの系統の乱れに影響を受けてPVや風車のインバーターのサーマルブレーカーが作動し 、連鎖的に解列 してしまうということが生じた。その後の一斉復帰でまた混乱が生じた。そのようなことのないインバーターの開発の重要性が認識された。

シャープ株式会社技監佐賀達男氏

2008年はシリコン不足で製品を作れなかったが、今年は価格もさがり競争力はでてきた。現在はファストソーラーのCdTeがプライスリーダーであり、CIGSが後を追っている 。しかしこれら化合物系は資源的に制約がある。やはり資源に制約のないシリコンが主流となるであろう。シャープとしては薄膜化にも取り組んでいるが、日本の屋上設置型には適しておらず、苦戦している。宇宙用のInGaPとInGaAs層を積層した素子を放熱板に貼り付けてフレネルレンズでこれに1000倍集光し 、追尾方式で30%向上させて40%の変換効率を開発しようと考えている。

 

資源量 GW/y

Ag 125
Si 2,560
Te 3
In 25
Ga 19
Se 45

シャープは堺の新日本製鉄堺工場跡地に液晶とPV製造能力1GW新鋭工場を完成させ、NEDOの「太陽光発電ロードマップPV2039+」の1010年までに23円/kWh、1020年までに14円/kWhを達成しようとしている。

PV本体が下がってもコストの50%を占める工事費の低下が課題と考えている。

CEE特認教授萩本和彦氏

風力にしてもPVにしても単機ではその出力は天候に左右されて不安定ではあるが、広域に分散設置されると「ならし効果」がでてくる。時間を同期させた記録とボロノイ分割 (Voronoi tessellation)での推算の照合をして今後の計画の資料としなければならない。

仮に「ならし効果」があったにしても、化石燃料火力による負荷調整と蓄電が必要となる。

米国のスマートグリッド構想のなかにガレージで待機する電池自動車のバッテリーをグリッドに組み込み分散蓄電装置として使う構想がある。しかし我が家のハイブリッド発電のバッテリーが4年で寿命を迎え交換に多大な費用がかかった経験から、バッテリーの寿命を短くするための補償がなければ誰も協力しないだろうと思う。

電気事業連合会電力技術部長藤井裕三氏

PVの導入量が増えると 逆潮流による配電線の電圧上昇抑制のための柱上変圧器の分割設置、SVC電圧調整装置の設置が必要となる。

ここでSVC(Static Var Compensator)は静止型無効電力補償装置といい、容量を連続的に制御可能なリアクトルと容量固定のコンデンサを変圧器を介して系統に接続するものとのこと。

パワーコンディショナー(インバーター)はすでに電圧上昇抑制のための出力抑制装置内蔵となっているが、これに加え、連休などには出力抑制スケジュールを事前に設定するような設備仕様の標準化(JET認証)などが必要となろう。

もしこのような対策がとられないと蓄電器に24兆円が必要となろう。GWなどの出力調整が可能となれば6兆円ですむ。

蓄電器のコストとして産業技術総合研究所の「系統安定化に向けた蓄電池技術の動向と課題」外より抜粋加筆した下記表をかかげた。リチウムイオン電池の設備単価は現時点で1,500円/Wである。これを50円/Wとしたいとしている。はたして可能な数字だろうか?

  大容量化実績 現状コスト(円/W) 現状コスト(万円/kWh) 寿命(サイクル) 低稼動時のロス
鉛蓄電池 1,000kWh 150-250 5 3,000  
NaS電池 100,000kWh 240 2.5 4,500 ヒーターロス大
ニッケル水素電池 100kWh 100 10 2,000  
リチウムイオン電池 10kWh 50-1,500 10-200 3,500  
揚水発電 10,000,000kWh 180(8h容量) 2.3 20年以上 70%

これに対し、私は質問でPVが普及すればその発電量あたりの国民の総投資額は原発のそれより大きくなることを考えればPVの休日の出力抑制は行わず、むしろ休日の原発の出力抑制をするほうが、国家的損失は小さいのではないかと正すと、「それについては原子力部会も気にしていて目下検討することになっている。決して原発がPV導入を阻害する意思はないので誤解のないように」との表向きの優等生的解答を得た。

このほかの問題では

安全確保のために系統事故発生時に配電用変電所の遮断機が切断されたとき、太陽光発電の単独運転を防止するパワーコンディショナー(インバーター)の標準化が必要。

ドイツの経験から瞬時電圧低下などの系統の乱れに影響を受けてサーマルブレーカーが作動し、連鎖的に解列しないインバーターの標準化が必要。

などの対策は必要と思う。

太陽光発電協会(JPEA)幹事杉本完蔵氏

逆潮流は6,600Vまでで、配電用変電所を越えるバンク逆潮流は現状では規制のため不可となっているという問題がある。バンク逆潮流規制があるため広域系統連携は無論、九電力間の電力融通も不可能となっている。

これに関しては私は送電線の許認可が受益者でない住民の権利を保護するという趣旨で行われたという経緯から規制している問題であるから政治家や経済産業省が問題意識をもって規制緩和すればすむことと考える。

役所は自分の規制権限を失いたくないから言い出さない。政治家の仕事だろう。

経済産業省資源エネルギー庁新エネルギー対策課長渡邉昇治氏

渡邉昇治氏はソーラーセル余剰電力2倍額買取制度を発足させた人である。氏はどのような政策を出そうが両陣営から批判される。そこでどうせなら積極策でと考えた。野球でいえば「見送り三振」か「カラ振り三振」かの違いと考えて自らなぐさめている。

この政策の目的は地球温暖化防止よりも、日本のPV輸出産業を育成して外貨を稼ぐことを真の目標にしている。(環境省ではなく経済産業省という縦割り組織の発想)しかし、悲しいかなPVメーカーの投資は及び腰でなさけない。

フロアから「毎年首位打者が入れ替わるような不確実な産業を支援する必要があるのか」との質問がでた。

私は輸出産業を育てるというのはすでに時代遅れの施策ではないのかと思う。

シャープなどの話を聞いても、高効率化という隘路に逃げ込むしかなく、価格を下げられるのかはグレーである。実際もう日本のPVメーカーは世界のPVエネルギーデバイス供給の覇者となるチャンスは失ってしまったという感慨をもつ。日本のPV輸出産業を育成は後手に廻ってしまった。経済産業省は「見送り三振」してから バッターボックスに立ったという感じである。

それに電気事業連合会は日本のグリッドに接続するPVシステムは殆どグリッドに電力を押し込めない仕掛けに満ちた認可済みの箱経由でしか接続できないように画策している。詐欺のような仕掛けだ。このような政府推薦ものを2倍買取制度にだまされて買う人は後でホゾをかむことになるだろう。

日本でのPV普及は地域独占の電力会社ー中央官庁複合体が抵抗勢力となっているので前途多難であるという感じをもった。 地域独占を廃止し、全国を結ぶ配電会社と発電会社に再編成しなければPVは普及しないのではないか?

未来は中国から輸入する安価なPVで細々と発電する哀れな日本の姿しか浮かんでこない。

パネルディスカッション 客員教授富田孝司氏司会

オランダでは家庭のコンセントから逆潮流できる簡易型ソーラー発電が認められていること、直流配電網をもつことも検討されてもよいだろうという話題提供があった。ただし直流の場合は接合部のねじをしっかりとめておかないと電流が大きいため、溶断事故が発生するという話題も提供。

ここで私は原発の負荷追従型運転をしないという前提の対策は国をあやまると再度蒸し返すと、司会の富田教授が「原発と指定しなくとも九電力をつなぐ系統運営もある」と水をさす。教授の指摘は東北の風力を東京にもってくるという広域系統のためには無論有効だが、休日の低需要対策としては役にたたない。原発をアンタッチャブルとしていて 、その負荷追従運転をせず、PVだけ一律カットするというのではPVの投資効率は低下する。このような電力業界の勝手をゆるしていたらPVの普及は無理だろう。民主党にしっかり考えてもらわねばならない。

私はここで安い燃料電池開発に日本中の企業が熱中したにもかかわらずコストダウンに成功しなかった。同じ運命が、リチウムイオン電池にも待ち構えているように感ずる、日本中が一つの技術に熱中しないで、二次電池がだめならエネルギー貯蔵は窒素と反応させてアンモニアにして貯蔵・輸送することももっと研究すべきではないかと提案。化石燃料が枯渇すれば早晩、アンモニアがエネルギーの流通の主流になると思われるので今から技術体系を準備しておくことは世界のリーダーとなるために必要なのでは と。

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October 5, 2009


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