南アルプス

北岳

2001年9月の晩秋に、wawak山歩会は日本第2の高峰、南アルプスの北岳(3,192メートル)に挑戦した。60歳台のメンバーの体力を考慮し、無理の無い登山計画を策定した。

北岳は中央アルプスの奥に鎮座しているため、なかなかその姿をみることができない。特に登山中は近すぎて全貌をみることは困難である。下に2009年4月に北八ヶ岳の横岳山腹から遠望した姿を紹介しよう。

北八ヶ岳の横岳山腹から遠望した北岳

広河原⇔北岳山荘ルートは青色


第1日目、9月26日(水)

昼食後、12:00海抜1,600メ-トルの広河原発。15:00に海抜2,200メ-トルの白根御池小屋着。数 年前新築の小屋は雪崩で喪失したとのこと。壊れた基礎の上に緊急で建てたプレファブ小屋である。トイレの匂いが強烈。ただし水は豊富で垂れ流し。5:30 朝食、17:30夕食のルールとか。夕食までビールとウィスキーで時間をつぶす。ここではバットレスに挑む岩登り専門の若手3人組、旭日を浴びる富士山撮影のためにきた山岳写真愛好家の2人組、60才台後半の中高年登山愛好者4人組と同室。プレファブ小屋のため夜の冷え込みは強烈。芦安村村営の山小屋の管理人はやけに無愛想。


第2日目、9月27日 (木)

6:00白根御池小屋発草スベリに取り付く。1時間位登ったところで体温が上昇し不快になったので、股引を脱ぐ。尾根筋にでると風速10メートル位の強い西風に驚くが北岳山頂、仙丈岳、遠くに北アルプスの奥穂高岳と槍ヶ岳、甲斐駒ケ岳、八ヶ岳、鳳凰三山、なかんずく地蔵ヶ岳のオベリスク、富士山が一望のもとに見渡せる。風に飛ばされないようにしてゴアテックス製レインコートをすぐ羽織り、夢中で180度のパノラマ写真を撮る。

下の写真には小太郎尾根の二重山稜が作る窪みが写っている。1万年前にここにあった氷河が消えたとき山の側面を押さえていた力がなくなって斜面がずり落ちてできたものだという。

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小太郎尾根の向こうに甲斐駒ケ岳と右手はるかに八ヶ岳

雨はないが、風防のためのレインコートを羽織っただけで、肩の小屋まで尾根道を歩いた。あまりの強風のため更に厚 着もできず、小屋に着く頃には体はすっかり冷えてしまった。小屋で、あったかいミルクをもらい、股引、ゴアテックス付きオーバーズボン、ゴアテックス付き フリースの上着も着込んで強風と霧の中、登頂した。

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肩の小屋で (マーさん撮影)

霧のため、山頂では視界不良。頂上付近は大きな灰色の岩がごろごろしている。 肩の小屋からは今までの砂岩や泥岩から石灰岩と玄武岩にかわったのだ。自然と斜度もきつくなる。北岳の地質は太平洋プレートが イースター島あたりから1億3000万年くらいかかって運んできた様々な堆積物が陸に押しつけられた付加体から成立していて複雑である。 南アルプスの隆起が始まったのはまだ1万年前からだという。

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霧の中の北岳山頂

さて山頂で見えなかった風景を360度パノラマで再現してみよう。

北岳山頂の360度パノラマ

山頂を下ると二重山稜の窪地に北岳山荘が見えた。12:45に海抜2,900メートルの北岳山荘着。北岳山荘でカップ ラーメンと缶ビールの昼食をとる。風が強く、ガスっているので、間ノ岳往復は断念。16:00の山荘の外気温は4度Cであった。5:00朝食、17:00 夕食のルールのため、それまで午睡。同室者には単独登山者が3人。皆シラーフ持参である。戸外にテント1個を見る。同じ芦安村の経営だが、こちらは水洗ト イレである。ただ洗面と歯ブラシの使用は水不足のためという理由で禁止されている。飲料水も500ミリリッター100円である。建物は堅牢で夜の冷え込み はおだやか。管理人は愛想がよい。山荘の外には立派なトイレがあるが、これは皇太子登山のために建設されたものだそうだ。バイオ処理されるが、水洗ではな い。それでも一回の使用につき500円相当に費用がかかっているそうである。

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北岳山荘とその向こうの霧に覆われた間ノ岳


第3日目、9月28日 (金)

北岳山荘で前夜見たテレビの天気予報では午前中は雨とのこと。もう一泊して間の岳往復することも考えたが、午後天 気が回復するとの確証はない。日曜からは雨の予報もある。北岳に再度登頂して帰るコースは疲れる。八本歯コルにトラバースし大樺沢下りで下山するとすれ ば、雨で沢水が増水する危険もある。雨は昼には上がるということなので、大樺沢下りを採用し、小雨の中、6:00北岳山荘発。トラバース中、3メートル位 の近さで雷鳥2羽が雨の中餌をついばんでいるところを目撃。腹の羽は白くなり始めていた。うずら程の大きさであったので今年生まれた雛であろうか?引き続 き、木梯子のとっつきの小さな水溜まりで水浴する岩ツバメ2羽も目撃。1メートルに近寄ってもどいてくれないので困った。

高度が下がるにつれ、雨も小ぶりになり気温も上昇する。体温が上昇し心臓が高鳴る。フリースの上着、レインコート と次々に脱ぎながら下山した。ゴアテックスの手袋も水密ではなく、中まで濡れてくる。ゴアテックスメンブレーンは温度の高い側から温度の低い方に向けて水 分が移動する原理のため、手袋をはめたままでいれば中も乾くのだが、不快なため、ついに脱いでしまった。指がふやけている。12:00吊り橋を渡って大河 原着。大河原につく頃は晴天となり、雨の中、下ってきた北岳、大樺沢のすばらしい景観を振り返ることができた。同宿したクライマー達が取り付いたバットレ ス、雨中突破した奇岩が林立する八本歯のコルが見える。

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北岳と大樺沢 (おおかんばさわ)

大樺沢、八本歯コル経由で一気に登るのは精神的にも体力的にもかなりきついと思う。WakWak山歩会の計画は楽で風と雨を除けば丹沢を登るよりも楽であった。

帰りの南アルプス林道の夜叉神トンネル近くの展望台から間ノ岳と北岳をみた。この展望台には昭和天皇の来訪記念碑 がある。途中垣間見た農鳥岳を撮影するため、鷲ノ住山展望台に戻った。ここから見た農鳥岳はかなり険しい山容を示していて迫力のある山であると感じた。農 鳥までの縦走を計画からはずしたのは賢い判断とおもった。鷲ノ住山展望台には昭和36年に完成したこの南アルプス林道工事の殉職者十数名の碑がある。ほと んどが全国から集まった19才前後の若者である。高度成長期、林業の振興を目指した国策でこの林道は完成したのだろうが当時の工事犠牲者の多さには改めて 驚く。出来上がった林道も裸のオーバーハング岩壁が覆っていて、危険度は第一級であろう。この林道も今は登山以外の目的に使われてはいない。

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南アルプス林道の夜叉人トンネル近くの見晴台から見た間ノ岳と北岳

中央のコルに北岳山荘がある

夜叉人トンネルを出て芦安村村営の金山沢温泉で登山の汗を流す。(Hot Spring Serial No.162)小田原ではビールで乾杯。次の火打山登山の企画に着手。聖岳登山のアクセスを研究することになった。

docomoの携帯電話は山頂でも不通であった。仙丈岳と鳳凰三山に囲まれているためか? 遭難時の簡単な連絡法は無いことになる。特に週日の人の少ない日の単独登山に救いはない。


全体行程

第1日目

鎌倉 → JR小田原駅7:20 発 → 山中湖・精進湖 経由 → 広河原 10:30着(乗用車で約3時間40分) → 広河原10:40発→  昼食(弁当)   → 白根御池小屋14:40着 [泊]

第2日目

白根御池小屋6:30発 →  北岳 (3192m)12:30発 → 北岳山荘 14:00着

第3日目

北岳山荘6:00発 → 間ノ岳(あいのたけ)8:00発 → 北岳山荘9:30発 → 北岳11:30発  → 白根御池小屋 14:00発 → 広河原 16:00発 → 金山沢温泉18:00発 (芦安村営) → → 小田原 21:00着

今回のパーフォーマンス

行程

経過時間

出発高度

ピーク高度

到着高度

高度差

歩数 消費飲料水 毎時高度差 毎時歩数 一歩の高度差

高度差当り飲料水

  h m m m m steps ml m/h steps/h cm/steps ml/m
広河原→白根御池小屋 3.00 1,600 - 2,200 600 7,100 400 200 2,367 8.5 0.67
白根御池小屋→北岳山頂→北岳山荘 6.75 2,200 3,192 2,900 1,100 9,900 800 163 1,467 11.1 0.73
北岳山荘→八本歯コル→広河原 6.00 2,900 - 1,600 1,300 18,000 1,000 217 3,000 7.2 0.77

今回の反省点

登山保険を扱っている代理店は少ないがヘリ救助などの費用を負担してくれる保険に加入すること。悪天候で山小屋に閉じ込められた時のために、文庫本または軽い文章入力デバイスを持ってゆくこと。

2001/9/30

Rev. November 26, 2017


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