読書録

シリアル番号 983

書名

21世紀の歴史 未来の人類から見た世界

著者

ジャック・アタリ

出版社

作品社

ジャンル

歴史

発行日

2008/8/30発行

購入日

2008/09/16

評価

 

原題:Une Breve Histoire De L'avenir by Jacques Attali

著者はサルコジ大統領の特別補佐官としてアタリ委員会を主催。

榊原英資の「日本は没落する」を探しに藤沢の書店に出かけたが 売り切れであった。かわわりに目に付いた本書を衝動買い。

この本はまだ読み始めたばかりだがフェルナン・ブローデルの「地中海  I 環境の役割」やアントニオ・ネグリ、マイケル・ハート の「帝国  グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性」の影響を強く受けていると感ずる。

1/3が人類の発生から現時点までの歴史である。残り2/3が未来予想ということになる。

この本のキーワードはブローデルが描いた遊牧民、ノマド (nomade)である。人類は1万年まえメソポタミアで定住民(sedentarie)となった。人類史はノマドと定住民の衝突により 、力と自由を獲得し、歴史を作ってきた。21世紀に再びノマドとなるものが増える。都市というものはノマドが集まり、離散するところである。

ノマドには超ノマド、下層ノマド、ヴァーチャル・ノマドの3種がある。

超ノマド:エリートビジネスマン、学者、芸術家、芸能人、スポーツマンなどクリエーター階級

下層ノマド:生き延びるために移動を強いられる人々

ヴァーチャル・ノマド:定住民でありながら超ノマドに憧れ、下層ノマドになることを恐れてヴェーチャルな世界に浸る、オタク達。彼らは貧民となろう。

企業もノマド化する。

ノマド・オブジェ:ウォークマン、携帯電話、iPod、パソコンなどノマドが愛するグッズ

ユビキタス・ノマド:ノマド・オブジェを身に着けたノマドがデジタル・インフラに連なって偏在する様をいう。

クリエーター階級が集まる世界の中心都市としては過去、紀元1200-1350年頃ブルージュ→紀元1350-1500年ベネチア→紀元1500- 1560年アントワープ→紀元1560-1620年ジェノヴァ→紀元1620-1788年アムステルダム→紀元1788-1890年ロンドン→紀元 1890-1929年ボストン→紀元1929-1980年ニューヨーク→紀元1980年から現在に到るロスアンゼルスと移った。

日本は国を開いての超ノマドの受け入れを拒否してきたから、1980年代に世界の中心都市となることに失敗した。今後もそのチャンスはないだろう。

フランスも過去に世界の中心都市となるチャンスがあったが、農業とこれに付随する官僚の利益保護を優先したためそのチャンスをみすみす逃した。今日でも膨 大な補助金が、農業や衰退産業や無駄なサービスに費やされている。定住民の国フランスはノマドの生活にもどる準備はまったくできていない。

米国といういう国家も衰退し、世界は多極化し、混乱が生じるだろう。

大多数の定住民である中産階級は中心都市で過去の超ノマドがしてきた生活を真似、4つの単独競技を興ずる。すなわち、乗馬、ゴルフ、ヨット、ダンスであ る。すべて旅行者としての資質が要求される。しかしこうした娯楽は超ノマドの間ではすでにすたれている。かれらはもっと自由で刺激の強い娯楽を求める。

社会学的見地から描かれているため、核兵器については描いているがエネルギーや原子力に関する言及はない。福島事故後のインタービューでも日本は原 子力を大切にすべきといっているのでその程度の理解と思われる。石油も枯渇という観点で描かれているが、2012年現在のシェールガス革命までは予測して いない。著者の限界であろう。

本著が書かれた10年後の2018年に至り、クリエーター階級が集まる世界の中心都市として中国の広州で「ネットイノベーション集積区が建設中だと いう。東京ドーム8個分の敷地にIT企業が集結し製造業と連携する。中国は2015年に中期プラン「中国製造2025」を公表し、「今世紀半ばに製造強国 にする」とぶち上げた。経済協力開発機構(OECD)によると、15年の中国の研究開発投資額は4088億ドル(約45兆円)と米国(5029億ドル)に 迫る。家電から工場まで搭載が進む人工知能(AI)。米AI学会での研究発表件数(10〜15年)は日本の75件に対し、中国は413件にのぼり、米国と の共同研究も80件を発表した。日本の研究開発投資額は16年度で18兆円余り。21世紀に入ってほぼ横ばいだ。

Rev. January 14, 2018


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