読書録

シリアル番号 940

書名

地中海 I 環境の役割

著者

フェルナン・ブローデル

出版社

藤原書店

ジャンル

歴史

発行日

2004/1/30初版1刷

購入日

2008/3/13

評価

原題:La Mediterranee st le monde mediterraneen a l'epoque de Philippe II by Fernand Braudel 1966

川勝平太の「文明の海洋史観」で古典的名著とさ れている本とは知っていたが、いままで手にとることはなかった。たまたま鎌倉駅前書店でこれが書棚にあるのを発見して手にとり パラパラとページをめくって耐え難い魅力を感じ、そのまま衝動買い。高価な本である。たまたまI 巻しかなかったが他に2巻ある。I巻だけでもゆっくりと楽しみたい。

というわけでボチボチ読み始めたが、著者がアルジェの歴史学教授だったころ、ソルボンヌ大学の恩師リシュアン・フェーヴルに「フェリーペニ世時代の地中海 と地中海世界」学位論文を出したいといってきたとき、なぜ「地中海とフェリーペニ世」ではないのかと質問したため著者は更に10年、資料をあさるはめにな る。そして第一次大戦が始まり、著者はフランス軍将校としてドイツ軍の捕虜になるのである。この虜囚の4年間に資料も参照せずに記憶だけで1100ページ の学位論文を書き上げたのが本著だという。

ちなみに恩師リシュアン・フェーヴルは「フェリーペニ世とフランシュ=コンテ」という学位論文を書いている。フェリーペニ世が でたパプスブルグ家はブルゴーニュ公国を結婚政策で継承し、フェリーペニ世時代のスペインの地中海政策の立案者達の多くはフランシュ=コンテ人であったと いう。

地理から入るのだが、山の民と平地の民の対比に説得力がある。人間が平原と海に進出して文明を発達する前は人々は安全な山地に住んでいた。 山地は外部からの進入がしにくいため、民族移動時でも山岳民族は流れの外にいることができた。そして永く固有の言語や文化を維持する傾向がある。バスク人 もクルド人も山地人でそれぞれ固有の言語をもっている。ここではフラン シュ=コンテ人はフランス語を話すが山地人ということになる。

この本でひとこぶラクダとふたこぶラクダが民族の興亡に与えた影響を始めて知った。ふたこぶラクダはバクトリア原産(現アフガニスタン北部)で寒冷な砂漠 に適応し、トルコ民族がユーラシアの寒冷な砂漠を出て、アナトリア半島とバルカン半島に進出する主要な交易と運搬手段となった。ひとこぶラクダは熱さに強 くアラビア半島の砂漠から、地中海南岸のマグレブからイベリア半島にアラブ民族が拡大するための主要な交易と運搬手段となった。

ゴート族の進入の時、ピレネー山脈に守られてバスク民族が残った。中央アジアからふたこぶラクダに乗って移動してきたトルコ民族進入時、ザグロス山脈とク ルディスタン山地に守られて先住山岳民族のクルド民族は侵略されなかった。ひとこぶラクダに乗って移動したアラブ民族が南に居たが砂漠で守られた?

バスクもクルドもしかし、ようやく民族意識に目覚めた。しかし周りが固まってしまった今、国民国家を造ることができるのだろうか?

乾燥地帯であるカステーリア、北アフリカ、アナトリア、バルカン半島における定住民と移牧・遊牧の関係を新鮮な気持ちで読ん だ。

地中海とバルト海、北海、英仏海峡を結ぶロシア地峡、ポーランド地峡、ドイツ地峡、フランス地峡の解説は新鮮。フランス地峡やアルプスを通過してアント ワープへ、そして最後に大西洋を渡るようになる。

船の歴史では知らない船の 名がぞろぞろでてくる。

最後に都市の機能の説明でおわる。ここにでてくる人々は都市に固定されておらず、世界から都市に入り、都市から世界に出てゆくという概念だ。

この本はジャック・アタリが展開したノマドという語を広めたとい われるが、日本語訳は遊牧民で統一されていてノマドという語がみつからないのは残念。

Rev. November 4, 2015


2015/11/24朝日夕刊に文春新書 柄谷行人著「遊動論 柳田國男 と山人」に関するインタ―ビュー記事で柳田の山人は原遊動民だとしている。 フェルナン・ブローデルの山岳民族は人類が定住したのちも放牧生活を継続しているのものでしているもので柳田の山人=原遊動民ではない。

Rev. November 26, 2015

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