読書録

シリアル番号 1174

書名

技術官僚の政治参画 日本の科学技術行政の幕開き

著者

大淀昇一

出版社

中央公論社

ジャンル

政治学・地政学・行政学

発行日

1997/10/25発行

購入日

2013/12/07

評価



鎌倉図書館蔵

藤沢周平全集を借りにでかけてついでに借りる

著者は東大教育学部卒、島根大学教授

日本が近代国家として出発した時、行政を主導する立場にある法科系事務官に対し、技官、技師は脇役的な立場に置かれていた。そこで彼らは大正デモクラシー 下に技術者運動を起こし、地位向上のための政治的動きを開始した。しかし、彼らの国政への参画という夢が実現したのは、日中戦争下においてであった。本書 は戦後にいたる主として戦前の技術官僚の思想と行動を追っている。

鉄道建設のための御雇い外国人E・モレルは新橋横浜間の鉄道建設をしたが彼を代替する日本人技術者養成学校設立を伊藤博文に提案した。こうして工部省が設 立される。不平士族の懐柔策としてでてきた征韓論をめぐって明治政府は大久保利通を中心とする有司専制政府と批判派に分裂。西南戦争後、反政府運動を懐柔 するために自由教育令が伊藤博文によって出された。明治天皇の侍講元田永孚(ながざね)が儒教道徳こそ本で知識才芸は末と すべしという意見をだしたが、伊藤博文はこれを退け、漢学生徒が政治論にのめり込みやすいので高等教育では、ごく少数の優秀なものに「法科政学」を学ばせ、 あとの大部分は「科学」や「工芸技術百科ノ学」を学ぶ方向に導くべしとした。これが以後の日本の形を決めた。

イギリス流の憲法を支持していた大隈重信が失脚し、伊東博文はドイツの憲法を調査するためにドイツに旅立つ。内務省は国民の政治参加を限定し抑圧する 地方行政と警察の省へと変貌。特別の学術技芸を要する行政官というポジションも用意されたが、法学官僚のような様々なポストに任命されて法律の立案・運用 のジェネラリストに鍛え上げられ、高い管理的地位に到達するという機会からは遠ざけられた。すなわち日本人技術官僚は「文官任用令」と「文官試験規則」でお雇い外 人の代替者にとどめおかれた。これが小人闍盾オて不善をなすということになっているとおもう。いっぽう法科系官僚は権力におごり、勝手放題。腐敗する。

軍人も工学系と同じあつかいであった。

第一次大戦、ワシントン軍縮会議も大きな変化はこなかった。大政翼賛会ができるころようやく技術官僚にも光が当たり始めた。しかし治安維持法の成立で後退する。

戦後、科学技術庁ができるがその成果ははなはだこころもとない。むしろ昔の軍のように原発村を形成しただけで、弊害が大きい。おなじことはフランスのCorps des Minesの弊害に観られる。

最近の安倍政権は情報を非対称にして国民をメクラにしておこうとしているが、これは明治維新の大久保ー伊藤などの有司専制政府の悪癖に戻ろうとしているようにおもえる。

Rev. December 25, 2013


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