読書録

シリアル番号 1155

書名

永続敗戦論 戦後日本の核心 Theory of Perpetual Loosing

著者

白井聡(さとし)

出版社

太田出版

ジャンル

政治学

発行日

2013/3/27初版
2013/7/31第3刷

購入日

2013/08/15

評価



朝日の書評欄の水野和夫の書評
「敗戦を否認しているがゆえに、際限のない対米従属を続けなければならず、深い対米従属を続けている限り、敗戦を否認し続けることができる」状況を指す。本書の目的は「永続敗戦」としての「戦後」継続を「認識の上で終わらせること」にある。であった。

朝日新聞の著者インタビュー
いま目の前でわれわれが目撃している諸問題のすべては、日本が敗戦の歴史を直視してこなかった事に起因する。すなわち敗戦をなかった事にして米国の言うな りに動いていればいいという戦後体制の矛盾に起因する。その矛盾が、戦後日本の象徴たる「平和と繁栄」の破綻とともに、一挙に表面化してきたのだ。言い換 えれば、その矛盾に気づき、それを克服することができないなら日本の敗戦は永久に続く事になる。

その他論評をふくめ備忘録1397にまとめる

購入する気はなかったが陰陽学会で講演した折、榊博文慶応義塾大学大学文学部教授と憲法改正と核武装について論争したため読む気になった。読んでみると新 しい発見もあった。

3/11の原発事故は「有司専制」という腐敗した政治的権力構造を表面化させた。この封建遺制が市民社会を呪縛している。有司専制(ゆうしせんせい)と は、明治政府の政治が、政府内の特定藩閥政治家数名で行われていると批判した言葉で。1873年に起こった明治6年政変後の、大久保利通の主 導権が確立された時期から、大日本帝国憲法成立までの時期を指す。「有司専制」は戦前くりかえされ言及された国体(constitution)の意味だっ た。ポツダム宣言受諾はこの国体が護持できるから本土決戦によって国体が破壊されるよりもよしとされたにすぎない。国体とは「犠牲のシステム」だ。福島事 故の難民は捨てられた人々だ。

国境は所詮戦争で決まる。したがって日本の領土はその戦争の帰結であるポツダム宣言で決せられる性質のものだ。しかるに日本政府が主張する領土はポツダム 宣言前に遡るもので、論理的なものではない。日本政府が北朝鮮の核武装より拉致問題の優先順位をうえに置くのも、おかしなものだ。

敗戦を認めない日本はこれでは永久にアジアの要にはなりえないだろうと思う。日本の将来 は暗澹たるものだ。貧乏になってあの敗戦を否定する国体信奉者である権力者が米国に捨てられる運命を予測することもしない。ヘーゲルは「偉大な出来事は二 度繰り返されることによってはじめて、その意味が理解される」といっている。原発も国体も二度死なない限り、日本人はその意味を理解できないのかもしれない。原発や国 体という怪物的機械はわれわれの知的および倫理的な怠惰を燃料にしている。したがってこの機械をとめるには各人が自らの命をかけても護るべきものを見出し てそれを合理的な思考によって確信へと高めることが必須となる。・・・と締めくくる。

一番印象深かったところはエピローグに紹介されたベルリンのブランデンブルグ門西へ100mのTiergarten内 のStraße des 17. Juniに1945年に建てられた対独戦勝記念碑Soviet War Memorial である。

記念碑の側壁には"Eternal Glory to Heroes Who Fell the Struggle Against German Fascist Invaders for the Freedom and Independence of the Soviet Union."と書いてある。

この記念碑はなぜか日本の旅行案内には一切でていない。その理由を察すると編集者が日本もドイツと同じ敗戦国だということは意識したくないからだろうと著者はいう。本著は著者がこの記念碑を雨の中散歩中に発見したのが刺激となって着想し書き始めたという。

このようなもの がブランデンブルグ門とドイツの戦勝記念碑との中間のメーンストリートのStraße des 17. Juniにあるのだ。これがヨーロッパの盟主におさまったドイツの首都のド真ん中にあり、敗戦をかみしめているからこそドイツはヨーロッパ の人々に受け入れられ、政治の中心になることができ、脱原発をきめることができたと合点できる。米国は東京都の靖国神社を破壊して戦勝記念碑をつくらな かった。マッカーサーはロシア人のように愚かではなかった。マッカーサーがそのほうが自分の ためと判断したのだろうが、これが無かったことが日本人が敗戦をみとめることができず、「否認の構造」にとらわれる原因になったのだろう。こうして日本人はいまだマッカー サーのマジックにかかって自分が敗けたことにも気が付かない。だから原発もとまらない。なにが生じているか気が付いて日本人が立ち上がらないと 福島の地はますます汚染まみれになるという予想しかできない。そうして隣国との国境も策定できず、沖縄問題も解決できず、いざとなれば米国が駆け付けてく れる という甘い幻想を抱きつつ、米国に盲目的に隷従して最後は全てを失うのだろう。

読んでいると気が滅入って投げ出したくなる。しかし、Willなんて読んで ウサを晴らしている思考停止の日本人にはなりたくない。気を取り直してじっくり読んだ。このような本が「原発敗戦」の後にでてきたのも必然という気がす る。


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