読書録

シリアル番号 1058

書名

ノモンハン戦争 モンゴルと満州国

著者

田中克彦

出版社

岩波書店

ジャンル

歴史

発行日

2009/6/19第1刷

購入日

2009/6/19第1刷

評価

2010/8/4

岩波新書

鎌倉図書館蔵

友人の川上氏の薦め。

いままでノモンハンに関する本は2冊読んだ。「失敗の本質」と「ノモンハンの夏」である。

いずれも日本陸軍の将兵の残した記録に準拠した見解である。

しかし著者はロシア語もモンゴル語も読めるモンゴル研究者である。ソ連の崩壊に伴っていままで公表されなかった歴史的事実が明らかになりつつある。これら資料とロシア、モンゴルの研究者との交流から得た生の資料をもとに戦争の両面から描いている。

ジンギスカン以後モンゴルの事情は知られていなかったが、この本を読むとロシア、モンゴル、満州、中国の相互関係が良く分かる。この本の主人公はモンゴルである。

ソ連軍は兵卒に日記をつけることを禁じた。万一捕虜になったとき、機密が漏れることを恐れたためである。しかし日本では自由であったため、戦後は指揮官だけでなく兵卒の記録も歴史にのこることになった。

最後にソ連は天皇を頂点とする厳重に組織された軍事国家たる日本の目的は遠大なる、シベリヤ略奪の大計画に従った動きと信じた。しかし実際には辻政信参謀の功名心と自己陶酔的な冒険心に発したものであったことをロシア人に納得してもらうのは困難であったという。

その辻政信が英軍の追求を逃れてタイに潜行して戦犯にもならず1948年に帰国し、「ノモンハン」、「潜行三十年」、「ガダルカナル」などベストセラーを書き、衆議院議員最高得点当選し、自らは「逃避潜行した卑怯者」とし、「その罪の万一をも償う道は、世界に魁けて作られた戦争放棄の憲法を守り抜くために・・・余生を捧げる」と書いておきながら代議士になると「憲法を改めて祖国の防衛は国民の崇高な義務であることを明らかにする」と訴えるようになった。西洋的ロジックに立てば日本人はこのような人物を裁かねばならないのだが、この動きは政界のなかだけでなく、学会のなかも巣くっていると指摘する。

この本を読むと当時の日本は型の上では中央集権であるが、実際には関東軍、その中の辻参謀のように下克上が頻繁にあるし、兵卒も記録をとるし、捕虜になれば機密をみな喋ってしまう。かなりばらばらででたらめな組織であったことが分かる。戦後も変わっていないのかもしれない。


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