ナノテク 2006

2006年2月23日、トビーに招待券をもらって東京ビッグサイトで開催されている国際ナノテクノロジー総合展・技術会議を覗いてみた。 ナノテクノロジーはLSIの製造技術の適用範囲を広げて新しい機能をもった素材を開発しようというものである。

CdSe微粒子径が2nm以下になると量子効果をもち、蛍光色を発するようになるという。英国貿易投資総省のブースでその色も粒子径に対応した色になるとサンプルを展示していた。この原理を使っての表示装置などの開発が期待される。 粒子径が2nm以下になるとHEPAフィルターも無効となるため製造過程の安全衛生管理は頭の痛い問題らしい。 クオンタム・ドットにしてもナノチューブにしても重力当たりの表面積が増えると化学活性が増し、細胞壁も容易に通り抜けることができるようになるため、石綿公害のようなことを発生させない配慮が必要になる。

サムスンは32ギガのフラッシュメモリーを展示していた。本当に市販しているのか聞くとしているという。16ギガのチップを2枚内臓しているようだが、それにしてもこの製造技術を確立したのは世界初の快挙で、4ギガ周辺でうろうろしている日本勢を抜いたことは確かだ。グリーンウッド氏のiPodは30ギガのハードディスク内臓であるがいずれフラッシュメモリー内臓となって、腕時計化したビデオプレーヤーが出現するのだろう。

クオンタム・ドット

32ギガ・フラッシュメモリー

カーボン・ナノチューブ

私がハーレー・ダビッドソン・ライダーであることを知っているトビーが大型バイクの趣味を持つデービッド・シャープ氏を紹介してくれた。氏は航空機産業を引退したエンジニアで、英国貿易投資総省のコンサルタントをしている。彼はいきなりヘスケスというバイクを知っているかと聞く。聞いたことがないというとまあそうだろうという顔をしてやおら無線LAN内臓PDAをとりだしてヘスケス・オーナーズ・クラブのサイトを見せてくれた。彼はこのクラブのSocial Secretaryでもあるのだ。ギャラリーでヘスケスの雄姿をみるとイタリア車の雰囲気をもったV型エンジン搭載のビンテージ・バイクだ。ヘスケス卿が1980年代に設計し、トライアンフ社が委託製造している モターサイクルで 三百数十台しか生産されていない物だそうだ。この希少価値のあるバイクを所有することはかなり自慢のようだ。

無線LAN内臓 PDAと格闘するデービッド

デービッド

彼はヘスケス2台に加え、1950年代に製造されたBSA A10 Golden Flash PMU121と1955年に製造されたNorton Dominator 600ccというバイクも持っているといって彼のサイトを見せてくれた。使われなくなってボロボロにさびたバイクを完全分解して部品レベルの修理・交換をしてペンキを塗りなおし、 リストアしたビンテージ・バイクだ。 サビついてとれなくなったオイルパンのドレインはメスネジ溝を壊さないようにオスネジだけ壊して外したという。新車を買うより金がかかっている。こういう趣味を楽しむのが英国人なのだ。

ではお返しにと彼のPDAで我がハーレーダビッドソン・ライフとセーリング記録を サーフィンングした。抄訳だが英文ページもあり、ノンフレーム表示可能にしたため、写真もPDAの画面にちょうどうまく納まる。感心してみてくれた。お互い似たもの同士だな、来年も会おうということになった。

彼はトビーから聞いていたらしく人口台風発電の改良法について聞きたがった。原理を説明すると感心して特許は申請したかという。申請はしたが、どうせ実現は石油生産がピークを打つ2030年を待たねばならない。また論文はクロアチア のスプリット大学電気工学科共催の会合のプロシーディング(ISBN 953-6114-80-1)として公開してあると説明すると納得してくれた。

ところでデービッドが使ったPDAは無線LAN (IEEE802.11b)機能内臓ヒューレットパッカード社製 iPAQ rx1950 Pocket PCである。Microsoft® Windows Mobile™ 5.0 for Pocket PC環境下で稼動し、Samsung SC32442 300MHzプロセッサを使っていて価格は税込¥29,820である。東京ビッグサイトは無線LANサービスエリアとなっているのでかくも簡便にインターネットサーフィンできる。

iPAQよりシャープのW-ZERO3がより魅力的だ。無線LAN (IEEE802.11b)に加えウイルコムのPHS用のW-SIMを内蔵。ウイルコムのPHSインターネット接続は10万パケットまで定額料金1,050円(税込)というのが魅力だ。PHSは山間部を除いて日本全土どこでも接続可能となる。しかしローカルな無線LANは都内の特定の場所と自宅だけだ。Microsoft® Windows Mobile™ 5.0 for Pocket PC環境下で稼動し、OutlookとOffice, pdf互換が強み。640×480ドット表示、Qwertyのハード・キーボード、約133万画素のカメラを持ってい て税込¥38,800円。ソニーのクリエは製造停止だし、弱ってきたバッテリーの交換は自分ではできないしで、いずれPHSの使えるPDAを使うことになろう。

NEDOのブースではナノ径のセラミック粒子を150m/sの速度で金属面に照射すると衝撃のエネルギーでセラミックス粒子が融けて常温で金属面を薄くて平滑なセラミック皮膜でカバーできるという技術を紹介していた。これは興味深かった。

林氏が創業し成長させたULVACのブースもあった。微細加工受託サービスを展開しているとのこと。

技術会議ではケンブリッジ大学のマーク・ウェランド教授の講演ではフラクタル構造をもつ微細構造の超疎水膜上に水滴を落下させるとスーパーボールのように跳ね上がる様を高速度カメラ撮影の影像でみせてくれた。 チョウの羽やハスの葉と同じくナノオーダーの結晶の針の林を密に作れば超疎水性が出現するのだ。また酸化亜鉛でもシリコンと同じくトランジスターを作ることができると試作品の性能を紹介していた。

インペリアルカレッジ・ロンドンのモリー・スティーブンス博士はカーボン・ナノチューブのマトリックスに幹細胞と成長因子を加えてインヴィトロで培養すると骨様構造が出来ることを発表した。義歯のインプラントに適用すべくこれからインヴィヴォの研究を継続するとのこと。 発がん性の試験もすることになるのだろう。

LSI製造で始まったナノ加工技術がより広範な分野に適用され、独特の特性を持つ素材が発見されていよいよこれを利用した便利な商品が市場にでてくるという予感を持って東京ビッグサイトを後にした。

そのまま霞ヶ関ビルに直行し、山階鳥類研究所賛助会員の集いに出席した。総裁の秋篠宮殿下が挨拶して山階鳥類研究所の特徴は鳥の標本が6万点を越え、上野の国立博物館の5,000点を上回る。鳥の形態研究は下火になりつつあるが、この特徴を生かすような活動を支援してゆきたいと語られた。山階鳥類研究所は過去10年間、鳥島のアホウドリの増殖地移転をデコイを使って取り組んできてようやく成果が出つつあるのだが、その活動報告を興味深く聞いた。デコイに恋をしてしまったデコちゃんのためにも役目を終えたデコイの撤去は必要になるのだろう。

後日、ビッド・シャープ氏より彼が所有する4台目のビンテージ・モターサイクルである1955年製造のNorton Dominator 600ccの写真を送ってきた。

1955年製造のNorton Dominator 600cc

February 27, 2006


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