マネー敗戦

グリーンウッド

吉川元忠著 文芸新書 「マネー敗戦」 は旅の慰みにと東京駅で買い求めたものである。過去20年間の生々しい記憶を整理してあるので一気に読破してしまった。円高に苦しみ、バブル破裂後のデフレ経済に苦しんだ者にとって読後感はまことに慙愧なる思いであった。

歴史はまことにここに書かれている通りである。しかし提案された対策はこれで良いのか?貿易の基軸通貨を円にするだけで事は解決するのか?円を基軸通貨にするためには円起債を容易にしなければならず、債権市場の一層の規制緩和が必要になる。ところが日本で銀行の既得権益を無くそうという動きがない。だれも円を基軸通貨にする必要性を感じていないのではないか?クルーグマン教授が指摘しているように流動性トラップに陥って、ゼロ金利を続けている日本で銀行が米国国債を買い続けることを止めて他の通貨国への投資に切りかえたら米国との金利差は益々増えてしまわないか?ユーロへの参加は現実的なのか?など疑問が生じた。

再度「クルーグマン教授の経済入門」 を読みなおした。また最新の 「世界大不況への警告」 も読んで、「マネー敗戦」 は最新の経済学を取り込んでいないことがわかった。

為替レートのリーダーシップを持たないのは日本の苦境の原因ではない。ドルが基軸通貨であることのメリットはGDPの0.1-0.2%であるに過ぎない。単一通貨は世界全体としては望ましいが、地域には良いとは限らない。地域毎に異なる通貨は為替レートが乱高下する欠点がある。固定相場制は単一通貨制と同じ問題を持つ。アジャスタブル ・ペッグ制は資本の移動を制限しなければならないし、腐敗の原因となる。ドルという単一通貨が広大な米国で機能しているのは、労働の移動が容易だからである。ユーロの難しさはここにある。

円を基軸通貨にしても何ら解決はしない。乱高下する円を安定化しようと無駄な苦労し、投機家を利するだけで終わるということだってある。むしろ流動性トラップから速く抜け出すほうが気が利いている。流動性トラップから抜け出るためには通貨供給良を増して2-3%のインフレ期待を作ればよいとクルーグマン教授は提案しているが、もう一年になるのに日本銀行がこれを理解した痕跡はない、英文ページに米国の友人が送ってくれたエコノミストのカラムを掲載したが、グリーンスパン氏を日銀の総裁にすればすぐ解決するだろうと皮肉られている。

むろん円での起債が可能なようにして為替リスクを双方向にするという提案はより自由度が増してようことだろう。

人口が減少している国で流動性トラップが生じ易いようだ。流動性トラップが生じないまでも人口が減少している国は国力が衰える。いずれ米国、カナダ、英国、フランス、ドイツのように日本も移民を受け入れざるをえないだろう。

人口が減少するということは地球環境には貢献している。10年後にクローズアップする環境経済学では評価されるのではないか?

基本的には生産性を上げる。または貿易経済下では輸出品を高くしても買ってもらえるだけの魅力ある商品を開発して売るということしかないようだ。

後日、ひょんなことで小学館の編集者、広瀬真言氏と知遇を得た。氏は興銀の行員だった吉川元忠氏にこの本を書くことを奨めたとのこと。世の中は狭い。

1999/11/28追補

2003/6/30


第二の敗戦をもたらした主犯の日銀の行動は「円の支配者」にくわしい。

Rev. September 13, 2007


2008年10月、米国の不動産、金融バブルが破裂し、吉川元忠氏の眼力の正しさがあらためて見直された。

Rev. October 25, 2008


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