第三話 自由な娘

 娘はやってくると、王子が昨日迄とはうってかわって、お城で厚遇されているのに驚きました。

 王様は娘に言いました。

「娘よ、王子はそなたのお陰で力を使いこなすようになり、この国の王位を継承させることとなった。そなたはもう、王子の子を無理に生まなくても良いのだ」

 王様はそれとなく娘にもう用無しだ、と言おうとしたのですが、王子はこれぞ男の花道と、張り切って王様の言葉を遮りました。

「恋人よ、僕は晴れて自由の身、あなたのお陰で卑しい捕らわれ人から高貴な者になることができました。これであなたに言う事ができます。どうか僕の妻になって下さい」

 王様はあちゃーと思いました。娘はにやぁりと、なにか企むような笑みを浮かべます。

「あら嬉しや、こんな醜いあたいでも、あんたは嫁にもらってくれるのかい?ならあたいは今までの生活を全部捨てて、あんたの妻になってやる」

 その返事を聞いて、王子は大喜び。王様はなんとか王子を押しとどめようと、こんな事を言い出しました。

「待て待て王子、その娘は町育ち、城の社交界で生きるにはなにかと辛かろう。わしが最高の家庭教師を用意して、その娘が立派な淑女になったなら、そなたと娘の立派な結婚式を催してやる」

 王様には考えがありました。城の窮屈な生活に、奔放な娘がなじむわけがありません。だから、早まった行為を押しとどめて少し考える期間を与えれば、根は真面目な王子のこと、きっと娘のぼろが鼻についてくるだろうと。

 そんな考えとは疑いもしない王子は、思いやりにみちた父の言葉に従い、娘に共に頑張ろうとうなずいて見せるのでした。

 そうして娘の新しい生活は始まったのですが、それはひどいものでした。

 王様がせっかく用意した最高の家庭教師にひどいいたずら当たり前、夜には湯水のように金を使って、町から呼び寄せた高級男娼たちと目を覆いたくなるような乱痴気騒ぎ。

 侍女たちが懸命になって娘を磨き上げても、顔は醜く傷もあり、おまけにひどいそばかすと色黒の肌、柔らかい絹や豪華な刺繍の衣装も、ちっとも似合いません。

 そんな娘も王子の前ではおとなしく猫をかぶっていましたが、娘の態度が嘘であることが王子には見えてしまうのです。それに王子の耳にも娘の素行は聞こえていました。

 王様の作戦は正解だったようです。とうとう王子は王様の御前で、娘にいいにくそうに切り出しました。

「君に窮屈な城の生活をさせようとしたのは僕の思い上がりだった。君を縛れるものはなにもない。こうなったら、君と結婚したら町で暮らそうと思うのだがどうだろう」

 …王様の作戦は、王子の強い意志の前にはかなわなかったようです。

「王子、よく考え直すのだ、そんなことをして何になろう」

 王様の言葉も、王子の耳には入りません。しかし、王子の愛のこもった言葉に、娘は思いもよらない返事をしました。

「冗談じゃない。あたいは楽しみのためにあんたと寝たんだ。金儲けのためにあんたと寝たんだ。町であんたと暮らすなんて冗談じゃない。余計なことは気にせずに、あんたはあたいに金をよこせばいいのさ」

「そ、そんな」

 娘を説得しようとする王子を、王様は慌てて止めました。

「娘がああ言っているものを、無理に嫁にするわけにはいくまい。娘よ、好きなだけの礼を取らせるから、そちはもう帰れ」

 すると娘は挨拶もせずに、金だけ受け取ってさっさと帰ってしまうのでした。

 王子は言いました。

「父上あんまりです。彼女は気難しいのです、あんな事を言ったら、もう僕に会いにきてくれないかも知れません」

 そう言ってはらはらと涙を零すのでした。王様は困りはてて言いました。

「そなたは本当に美しい女を知らぬからあんな娘に執着するのだ。本当に美しい娘を抱けば、あの娘が屑だという事が分かるだろう」

 王子は返事をしませんでした。落ち込んだ王子は娘を追う気力もなく、自分の寝室に帰りました。