Scene19 君と過ごす夏2
(『おまけの小林クン』より)


 

 終業式を終え、晴れて夏休みとなった日の午後。
 学校を出た千尋と吹雪は、そのまま千尋の自宅へと向った。
 千尋の案内でマンションに着くと、千尋は自分で鍵を開けて中に入った。
「わん、わん♪」
 鍵を開ける音で気がついたのか、小ラッシーは玄関先にちょこんと行儀よく座って出迎えてくれた。
「ただいま、小ラッシー」
 千尋は小ラッシーの頭を撫でてあげると、小ラッシーは嬉しそうにしっぽを振った。
「お帰り、千尋」
「あれ、いたの?」
 小ラッシーに続いて出迎えてくれたのは、千尋の母真尋であった。
「いたのって、今日は定休日よ」
「なんだ、せっかく二人っきりになれると思ったのに」
「二人っきり?」
「こっちのこと。あ、入って、吹雪ちゃん」
 千尋の背後から遠慮がちに吹雪が顔を出す。
「あら、まぁ。千尋ったら」
 吹雪を見た途端、真尋の表情がパッと明るくなる。
「あ、あの、初めまして。同じクラスの小林吹雪です」
 ぺこりと吹雪は頭を下げる。
「あら、そう、まぁ♪ 千尋の母です」 
 にっこりと笑う真尋の顔が、千尋によく似ていると吹雪は思った。
「千尋ったら、こういう時はちゃんと前もって連絡しなさい。いろいろと準備があるじゃないの。まったく」
「いると思わなかったし」
 面倒くさそうに千尋はつぶやく。
「おもてなしが中途半端になるでしょう。せっかく来ていただいたのに」
「あ、あの、すぐに帰りますからおかまいなく……」
 千尋に半ば強引に連れてこられたとはいえ、突然来たことを吹雪は申し訳なく思う。
「あら、そんなこと言わないで、ゆっくりしていって♪ さぁ、どうぞ」
 どうぞ、どうぞ、と真尋に背中を押されて、吹雪は部屋の中へと招かれた。

◇ ◇ ◇

「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 居間に通され、涼し気な夏用のグラスに注がれたアイスティーを差し出される。アールグレーの香りと味がしっかりと出ていて美味しい。
 吹雪はアイスティーのストローで氷をもてあそびながら、なんだかそわそわしていた。
 千尋はちょっと待って、と言ってと自室へ行ってしまっていた。
 ただでさえ、初対面の真尋と2人っきりで緊張しているのに、さきほどから真尋の視線が必要以上に強く感じている。嫌なものではないけれど、どうも気になってしかたがない。どうにも居心地が良いとはいえず、落ち着かなかった
「あ、あの……」
「あら、ごめんなさい。不躾に見つめたりして。でも千尋が家に女のコを連れて来たのは初めてだから」
「えっ?」
「意外かしら? 女のコの方からの電話や家に押し掛けてきたりとかはあったけれど、自分から女のコを連れて来たことは一度もないのよ。だから吹雪さん来てくれて、千尋にもやっと『特別』な人ができたと思うとつい嬉しくって」
 『特別』という言葉にドキッとする。
「あの子、あの通りの性格でしょ。他人に感心がないというか、わりと閉じこもっちゃうようなところあるから心配していたの。でも安心したわ♪ 吹雪さんのような素敵な彼女を連れてくるんですもの」
「え、あ、私はまだ彼女、じゃなくて……」
 吹雪は慌てて頭を左右に振る。今日はただ課題の打合せに来ただけで、千尋とはまだそんな関係にはなっていない。
 しかし、真尋は吹雪の否定を特に気にせずに嬉しそうに微笑む。
「大和クンも来てくれるようになったし、あの子最近変わったような気がするの。それも良い方に。私も主人も仕事しているせいであまりあの子にかまってあげられないから、吹雪さん、これからも千尋のことよろしく頼みます」
 突然真尋が頭を下げたので、吹雪は慌てる。
「えっ?! あ、あの、えっと、こちらこそよろしくお願いします」
 そう言って吹雪も同じように頭を下げる。
「大和クンもかわいかったけれど、吹雪さんもそれ以上に可愛いわ。とっても気に入っちゃた♪」
 そう言って微笑む真尋の表情は、いつもの千尋と良く似ていた。
「お肌きれいねぇ。化粧のノリが良さそうだし。どう? 今度うちのお店にも遊びに来ない? たっぷりサービスしてあげるわよ」
「ちょっと、何吹雪ちゃんに触っているの。吹雪ちゃんのこと気に入ったのはわかるけど、これ以上吹雪ちゃんを一人占めしないでくれる?」
 やっと自室から出て来た千尋だったが、不機嫌そうな表情をしていた。
「あら、千尋。だって吹雪さん、とっても可愛いんですもの。お母さん、ホントはこんなかわいい娘が欲しかったのよぉ」
「そのうちホントに娘になるかもしれないから、今は俺に返して」
 千尋は吹雪の手を取り、強引に立ち上がらせると、自分の部屋へと連れて行った。
「……」
 2人の後ろ姿を眺めつつ、真尋は何かを考え込む。そしておもむろに本棚から『ウエディング特集』と書かれた雑誌を取り出してきた。
「やっぱり白のウエディングドレスよねぇ。でも吹雪さんなら打ち掛けも似合うかも。それなら、お色直しのドレスは何色がいいかしら♪」
 真尋は楽し気にページをめくった。

                                   Fin


<ちょっとフリートーク>

 4部作のうちの2つ目です。
 サブキャラ、まずは真尋さんの登場です♪
 とりあえず吹雪ちゃんは真尋さんに気に入られたようです(笑)
 このままいったら、ホントにちーさんのお嫁さんにされそうですね♪
 初めてちーさんが家に女のコを連れてきた、というのは当たり前すぎる設定で
ひねりがなかったかな(汗)
 とにかく、吹雪ちゃんはラッシーにも小ラッシーにも、そして真尋さんにも
気に入られたわけであります。
 さて、3はいよいよ(?)ちーさんの部屋で2人っきりになるお話です!

    

   

   


 

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