Scene19 君と過ごす夏1
(『おまけの小林クン』より)


 

 1学期最後のホームルーム。
 担任の燕は、全員の成績表を配り終え、いろいろと夏休みの注意をしていた。
「それじゃ、夏休みの自由課題は2人一組ですること。テーマは自由。『モー●ング娘。のデビューから今』なんてテーマでもいいからねvvv」
「センセ!」
 燕の隣に立っていた吹雪はじろっと燕をにらみつける。すると燕は悲し気にシュンと肩を落とした。
「課題のテーマはくれぐれも学生らしいもの! じゃ、コンビが決まった人から解散。課題、その他の宿題は始業式当日に集めるので忘れないように!」
 最後は吹雪に仕切られて、ホームルームは終えられた。
「ふっぶっきちゃん♪」
 席に戻るなり、千尋が声をかけてきた。
「何?」
 相変わらず素っ気無く吹雪は応える。
「課題、俺と組もうね♪」
「なんで、私がアンタと……」
 そう言いながらも内心ドキリとしていた。
 一番先に千尋は吹雪を誘ってくれた。以前ならそんなふうに自分から誰かを誘うようなことはしなかったのに。
 そんな千尋に誘われたことが、吹雪はなんだか嬉しくなる。
「前に組んだ時も良い点もらったじゃない。トイレネタじゃなかったのは残念だけどね」
「確かにアンタは私が考えないような意見を出すからこういう時は便利だけど、だからといって、今回もトイレネタは絶対にやらないわよ!」
「それって、コンビOKってことだね♪ じゃぁ、早速俺の家で打ち合わせしよう♪」
「ちょ、ちょっと待って……」
 千尋に腕を引っ張られながら、吹雪は慌てて鞄を持ち上げた。
 大和と組みたいと思う前に、吹雪は千尋と課題のコンビを組むことになった。
 千尋と吹雪が早々と教室を出て行ったのに、大和は気がついた。
「あれれ、吹雪ちゃん、千尋クンと帰っちゃった。もしかして吹雪ちゃん、千尋クンと組むのかな?」
「……そうみたいだな」
 健吾は不機嫌そうに返事をする。
 千尋が吹雪に声をかけた時から、健吾は目の端で二人の様子をうかがっていた。
 当然何を話しているのかと、聞き耳を立ててもいた。
 本当は健吾が吹雪に声をかけたいと思っていたのだ。しかし口下手な健吾はどう切り出したら良いのかと考えているうちに、千尋に先を越されてしまった。今さら追いかけて声をかけられるはずもない。
「最近吹雪ちゃんと千尋クン、特に仲良いよね。ふふふ、ボクね、嬉しいな」
「どうしてだ?」
「だって吹雪ちゃん、千尋クンとケンカばかりしてたでしょ。ホントは好きなのにどうしてなのかなぁって思っていたから」
「い、委員長がアイツを好きって、どういうことだ?!」
 健吾は慌てて立ち上がる。椅子が大きい音を立てて後ろに倒れた。
「え? だって吹雪ちゃん前に千尋クンのこと好きって言っていたでしょ? だから今はちゃんと両思いなのかなって思うの」
 大和は慌てる健吾を不思議そうな瞳で見つめて、そう言った。
 健吾は安心したかのように息をつくと、倒れた椅子を戻して座り直した。
 以前大和が転校した頃、吹雪が大和への想いをごまかすために、たまたまそばにいた千尋をつかみ、この人が好きな人だと大和に宣言していたのを、健吾は思い出した。
 吹雪が誰を好きなのか、当の大和以外なら誰でもわかることだったのだが、大和は今もあんな見え透いた嘘を覚えていたらしい。
「小林、あれはな……」
 誤解は解いておいた方が良いと思い、健吾は切り出そうとした。しかし満面の笑みの大和を前に、その言葉は続かなかった。
「ボクね、吹雪ちゃんが幸せになってくれるととっても嬉しいの。吹雪ちゃんが千尋クンのことが好きなら、この恋がうまくいくように、ボクね、応援してるんだ」
 笑顔でそう言った大和の言葉に、健吾はハッとする。
『吹雪ちゃんが幸せなら嬉しい』
 その気持ちは健吾もよくわかる。
 ふと、千尋といることで吹雪は幸せなのだろうか、と考える。
 課題のコンビも、吹雪が嫌だと思ったら自分で断ることができたはずだ。それをしなかったということは、吹雪も千尋とのコンビを望んだということ。
 吹雪が千尋と一緒にいることを望んだのなら、自分が口出すことではない。
 大和の誤解も誤解ではなくなるのかもしれない。
 そう思うと、健吾はそれ以上何も言えなくなった。
「あれ? 健吾クン、どうかしたの? 気分でも悪いの?」
 突然黙り込んでしまった健吾の顔を、大和は心配そうに覗き込んだ。
「いや、なんでもない。そうだ、小林。夏休みの自由課題、俺と組むか?」
「わぁ、ホント?! 嬉しいなぁ」
 大和は本当に嬉しそうに喜んだ。

                                   Fin


<ちょっとフリートーク>

 時期的に学生さんは夏休みに入っているので、ちょっと意識して夏休みネタです。
 えっと、実はこれは4部作のうちの1つ目です。
 まずは、ちーさんと吹雪ちゃんが夏休みをずっと一緒に過ごすことになる、その理由のお話。
 2人1組の自由課題に取り組むことになったわけですが、この2人ではなかなかテーマが決
まらないんじゃないかしら。
 そして、テーマ決めるまでに時間がかかって、決めてから実際に作業するのに時間がかかって、やっと完成したら夏休みはもう終わるみたいなことになっているとか思っています(笑)
 そして、ずっと夏休みを一緒に過ごす、と。
 今回はけんさんと大和クンに仲良くなってもらおうというのもテーマの一つだったりします。
 それもあってか、今回はラブラブ度は低いです(^^;)
 それにしても、けんさん、大和クンだったら簡単に誘えるんですね(笑)
 さて、このSS19は、のちのちサブキャラが出て来て2人の仲を固めようとします。
 2では誰が登場して、どうなることでしょう!(笑)

    

   

   


 

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