「望美! 望美!!」
何度も何度も自分の名前を呼ぶ声が耳に届く。
下腹部に感じる痛みに耐えながら、望美の手がその声の方へ向かって伸ばされ宙をさまよう。
震える手をヒノエはしっかりと掴んだ。
「望美! しっかりしろ!」
力強く握られる手。けれど、その感覚さえも痛みに消し去られていくようだった。
ずっとそばで呼ばれる声も、次第に遠くなる。
本能的に、ここで気を失うことは全てを失うのことだと悟る。
薄れ行く意識の中、望美は痛みに耐えながらただ強く請う。
助けて!
誰に救いを求めているのか、わからない。
誰が助けてくれるのかも、わからない。
けれど、願わずにはいられない。
この身に宿った大切な宝物。
それは絶対に失ってはいけない二人の未来。
いなくならないで!
声にならない願い。
願うことしか出来ないのがもどかしい。
自分で守れるのなら守りたい。
けれど、もう守り切れない。
消えかけていく命。
これが、愛している人を疑い、悲しませたことへの代償というのなら、それは大きすぎる。
どうしたらいいの?
何をすればいいの?
わからない。
わからない!
「望美!」
耳に届く声。
諦めてはいけない。
私はまだちゃんと告げていない。
誰よりも待ち望み、そして喜びを分かち合うことのできるあなたに。
告げた時のあなたの笑顔を見ていない。
悲しい顔などさせたくはない。
あなたと私を繋ぐこの未来を、絶対に諦めることはできない。
望美は、心の中で大きく叫んだ。
お願い!
この命を助けて!
強く、強く、願う。
『叶えよう
それが神子の望みなら』
耳ではなく頭に直接響く声。
その言葉に望美は一瞬戸惑う。
本当に、この願いは叶えられると言うのだろうか。
『何よりも強い願い、確かに届いたから
だから、私が叶えよう』
感じられていた痛みが徐々に薄れていく気がした。
『神子の願いを叶えるのが私の望み
神子のしあわせが私の願い』
その音にならない声は、聞き覚えのある懐かしい感じがした。
うっすらと瞳を開けたその先に、淡い光を見た気がした。
優しい気を、望美は感じた。
『見守っているよ
祈っているよ
あなたのしあわせを
これからもずっと……』
口に出せなかった願いが叶えられる。
それは確信だった。
身体が次第に軽くなる。
そして何か温かいものが身体全体に流れ巡っていく気がした。
トクン、トクン。
それはまだ小さな鼓動。
けれど、確実にそれは繰り返されるのがわかる。
消えかけていた鼓動は間違いなく規則的に動いている。
望美は願いが叶えられたことを実感する。
ありがとう。
望美は意識を手放す寸前、届いた声に、感謝の思いを伝えた。
第十六話 第十八話
<こぼれ話>
ヒノエ君が呼んでくれたからこそ、強く願うことができた望美ちゃん。
あとはもうしあわせになるだけです。
白龍、お疲れさまでしたっ!
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