未来になる

第十七話 〜強き願い〜


「望美! 望美!!」

 何度も何度も自分の名前を呼ぶ声が耳に届く。
 下腹部に感じる痛みに耐えながら、望美の手がその声の方へ向かって伸ばされ宙をさまよう。
 震える手をヒノエはしっかりと掴んだ。
「望美! しっかりしろ!」
 力強く握られる手。けれど、その感覚さえも痛みに消し去られていくようだった。
 ずっとそばで呼ばれる声も、次第に遠くなる。
 本能的に、ここで気を失うことは全てを失うのことだと悟る。
 薄れ行く意識の中、望美は痛みに耐えながらただ強く請う。

 

 
 助けて!

 

 誰に救いを求めているのか、わからない。
 誰が助けてくれるのかも、わからない。
 けれど、願わずにはいられない。
 この身に宿った大切な宝物。
 それは絶対に失ってはいけない二人の未来。
 

 
 いなくならないで! 

  

 声にならない願い。
 願うことしか出来ないのがもどかしい。
 自分で守れるのなら守りたい。
 けれど、もう守り切れない。
 消えかけていく命。
 これが、愛している人を疑い、悲しませたことへの代償というのなら、それは大きすぎる。
 どうしたらいいの?
 何をすればいいの?
 わからない。
 わからない!

 

「望美!」
 

 耳に届く声。
 諦めてはいけない。
 私はまだちゃんと告げていない。
 誰よりも待ち望み、そして喜びを分かち合うことのできるあなたに。
 告げた時のあなたの笑顔を見ていない。
 悲しい顔などさせたくはない。
 あなたと私を繋ぐこの未来を、絶対に諦めることはできない。

 

 望美は、心の中で大きく叫んだ。

 

 お願い!
 この命を助けて!

 

 強く、強く、願う。

 

 

『叶えよう
 それが神子の望みなら』

 

 

 耳ではなく頭に直接響く声。
 その言葉に望美は一瞬戸惑う。

 本当に、この願いは叶えられると言うのだろうか。
  

 

『何よりも強い願い、確かに届いたから
 だから、私が叶えよう』

 

 

 感じられていた痛みが徐々に薄れていく気がした。

 

 

『神子の願いを叶えるのが私の望み
 神子のしあわせが私の願い』
 

 

 その音にならない声は、聞き覚えのある懐かしい感じがした。
 うっすらと瞳を開けたその先に、淡い光を見た気がした。
 優しい気を、望美は感じた。

 

 

『見守っているよ
 祈っているよ
 あなたのしあわせを
 これからもずっと……』

 

 

 口に出せなかった願いが叶えられる。
 それは確信だった。
 身体が次第に軽くなる。
 そして何か温かいものが身体全体に流れ巡っていく気がした。
 

 トクン、トクン。

 

 それはまだ小さな鼓動。
 けれど、確実にそれは繰り返されるのがわかる。
 消えかけていた鼓動は間違いなく規則的に動いている。
 望美は願いが叶えられたことを実感する。

  
 ありがとう。

 

 望美は意識を手放す寸前、届いた声に、感謝の思いを伝えた。

 

第十六話                                   第十八話 

 


<こぼれ話>

ヒノエ君が呼んでくれたからこそ、強く願うことができた望美ちゃん。
あとはもうしあわせになるだけです。
白龍、お疲れさまでしたっ!

   

 

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