風の心臓 Op. 3.3

作曲年   2000-01年
編成    小鼓、オーケストラ(2(1picc),2,2(1bcl),2/2,2,2,1/2perc/str)
演奏時間  9分
初演    2001年3月 岩倉・総合体育文化センター、名古屋・しらかわホール
      松尾葉子(cond), セントラル愛知交響楽団, 柳原冨司忠(小鼓)

1999年9月に行われた「『表現』から遠く離れて」の初演の際、プローベをお聴きになった松尾葉子先生が幸いにも作品を気に入って下さり、常任指揮者を務めておられるセントラル愛知交響楽団のために新作を書く話を下さった。その結果出来上がった曲である。

この委嘱はセントラル愛知交響楽団が年1回のペースで企画しているシリーズの一環であった。そのシリーズの特色としては、新人の登用ということと、邦楽器をソロとして編成に加えることという2つがあり、今回の私の曲ではソロ楽器は「鼓」ということであった。

私にとって邦楽器を用いることに伴う問題は、その昔「ノヴェンバー・ステップス」を初めて聴いたときから、熟考すべき問題として常に頭の一部分に存在するものだったのだが、ついに今まで突き詰めて考えてみることのないまま来てしまっていた。

これについては音楽雑記帳にでも、別に一項を設けて改めて詳しく書こうと思うが、最も問題になった点を要約すれば、鼓を、後ろに「日本」を背負った存在として捉え、アンサンブルにおける異分子として扱うことにするかどうかの選択ということになる。

自然に考えればこの問に対しては Yes と答えるより他ないのだが、その時の私の興味は少し違う方に向いた。オーケストラと鼓、「西洋」と「日本」という対立を捏造するより、敢えてオーケストラを鼓の方に引き寄せて同化させてしまえないかと考えたのである。

ここでイメージの発端となった「風」というのは、不規則な周期を持って繰り返す運動の象徴である。風は強まったり弱まったりする。しかしそれは常に「不意に」変化するのであり、次にどういう状態になるのかを予測できない性質のものである。この曲では、非常に緩慢に、絶えず繰り返し変化する状態というものに、近づいてみようと試みられている。
曲の中では一通りの新奏法が試みられ、実際に書いてみて効果が判るのはとても幸せな体験であった。特に管楽器のブレス・サウンドは、よほど慎重に用いないと掻き消されてしまいがちであることがよく判った。色々な煩わしい注文に快く応えて下さった団員の皆さんには、衷心より感謝している。

そして一方で、能楽の持つ独自の時間性に対しての意識が今回捨象されたことは、やはり勿体なくはあった。改めて学ぶ時間を持とうと決心させられた次第である。(20/01/2002)

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