elasticity Op. 5.0

楽譜を見る(準備中) 音を聴いてみる(9分44秒)

作曲期間  2000年
編成    バス・クラリネット, ピアノ
演奏時間  不定
初演    2000年12月 東京, すみだトリフォニー小ホール, 伊藤圭(bcl), 荒尾岳児(pf)

初演のプログラム・ノートをひとまず転載。

この曲の作曲開始当初は、不確定性そのもの(演奏の度ごとに異なる結果が得られる)、あるいは不確定的であるということをいかに統御するか、が主眼であったのですが、書き進むうちに「音楽が特定の方向づけを持たずに浮遊している」状態を作り出すことが第一の目的になってきました。

バス・クラリネットとピアノの2パートはそれぞれ独立した25の断片を与えられています。それらはどのような順番で演奏されるかが一定しておらず、ある規則に従って、その場で次の行き先のページが決まっていくようになっています。演奏時間はあらかじめ演奏者が決めておくこととしています。今回は10分間です。書かれたすべての断片が演奏されるわけではありませんし、何回か演奏される断片もあるかもしれません。

このような「楽譜→演奏者」の過程へ介入する、いわゆる「管理された」偶然性というやり方はもちろんすでに試みられたものです。これは別に方法の革新を高らかに宣言する試みでは毛頭なく、あくまでスタイルの「採用」です。私は現在行われるどのような作曲も、あるスタイルを「選択」するという意識を通したものであらざるを得ないだろうと考えております。

自分自身の作曲は、まだ獲得する余地のある自由さというものをたくさん持っているだろうと思っておりまして、この曲はその模索の途上で見かけた風景の一つです。不確定性がこれからの自分にいかなる示唆を与えるかが楽しみです。それと同時に今回念頭にあったのは、今までの自分の創作に支配的だったのがアイロニーであったことを反省的に捉え、ここではむしろユーモアに近づこうということです。楽しんでいただけると幸いです。なお、タイトルの「elasticity」という語は、弾力性、伸縮性、柔軟性といった意味で、曲全体の形態が可塑的なものであることを示しています。

これに付け加えることがあるとすれば、まず第一に各断片の性格についてであるが、ミニマリスティックなものもあれば、リズムの細分化を伴う幾分複雑なテクスチュアのものやプロポーショナル・ノーテーションによって即興性を許すものもあり、また音の密度などもなるべく断片によって様々に変わるようには気を配った。音程のみをトランプによる決定に従って決めた断片も幾つかある。演奏によってはスタイルの多様さがある程度効果的に現れる場合もあろうかと期待される。初演の時は比較的大人しめの断片が頻繁に現れた。演奏の上では安全だったが(笑)

次にこの作品の不確定性を生み出すもととなるページの演奏順番について。楽譜には五線の上部に必ず1〜25の数字のうちの一つが示されており、奏者はあるページを終えたら、そのページを演奏している間で相手が「初めてページをめくった瞬間」に奏していた箇所の上に示された数のページに移ることになっている。最初のページの選択は任意であり、ページとページの休止の間隔は楽譜に指定されている。演奏時間は上に記した通り予め決めておく必要があり、時間の経過はストップウォッチによって知ることとする。

初演の感想として、この手の方法が流行した50〜60年代を彷彿とさせたとの声を多くいただき、あ、またスタイル実習で終わっちゃったかな、という気もしているが、何とか以後の創作へのヒントをここから汲み取ってはみたい。(29/04/2001)

hall atelier studio lab shop LDK heliport

copyright 2000-2002 by ARAO Gakuji
aragak@aragak.com