Trois lignes ou les signes de ponctuation deplaces
(3本の線、あるいはずれた句読点)
 Op. 0.0

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(準備中)

作曲期間  1996年
編成    ピアノ×2
演奏時間  5分
初演    1996年10月 横浜、フィリアホール
      門光子, 中村和枝(pf)

1991年から数年にかけて松平頼暁先生の現代作品の分析講座を受講していた。その時題材となっていたのはメシアンの「4つのリズム・エチュード」や「鳥のカタログ」、シュトックハウゼン「クロイツシュピール」、クセナキス「ヘルマ」、ブレーズ「ストリュクテュル第1集」といった'50〜'60年代の作品群であった。当時はまだ作曲への転換を決めてはいなくて、現代音楽とのつきあいもほんの表層で止まっていた。断片的に聴いてはいたし好きな曲もあったのだが、構造を理解してはいなかった。それでこの受講を思い立ったのだろう。ここで山口淳氏と会ったのが、MINUS SIXの発端に繋がったのであろうし、この曲の初演者の一人である門光子氏ともここで初めて出会った。さまざまな現在に繋がるきっかけをここでいただいている。ありがたや。

松平先生の分析を受けたことでかなり目の鱗が落ちたものだった。「は〜、そういう作り方があったのかー」てなもので、その根幹にある問題意識はわりとそっちのけで、技術的な側面をどんどん鵜呑みにしていったような気がする。「そっかー、じゃあわりと簡単に作れるじゃん(笑)」と錯覚するのも無理はない。それで出来上がったこの曲は、いわばこの松平ゼミの演習レポートのようなものかもしれない。

とにかく一度、とことんシステマティックに書いてみたかった。それがこの曲の作曲の動機である。ブレーズがなぜ極限までセリーのシステムで曲を統御しなければならなかったかなど知らずに・・・

まず編成がもろ「ストリュクテュル」そのままである(笑)。音組織の構成には「ヘルマ」の影響が濃い。「3本の線」というのは異なった3種類の素材(クラスター、モノディ(単音のメロディ)、4音のコード)で曲全体が構成されていることを示す。それぞれの素材を得るために、88の鍵盤を11音×8グループ、8音×11グループ、4音×22グループの3通りに分けた。8音のグループによってモノディが作られるのだが、これらのグループは全て、これのために作った「M.T.L.に含まれない7音の旋法12種」の中に含まれる。(この音組織を採用したことが、初演の時にこの曲を「O. メシアンの背中」と銘打った理由である。)そして曲全体は7つのセクションに区切られるのだが、その7部分の境界は、3種類の素材それぞれにおいて異なる場所に置かれている。それが即ち「ずれた句読点」の意味するところであるが、聴いてそれと判る性質のものではない。
かように色々な作家の手法をつまみ食いしているのに輪をかけているのは、各グループから音を取り出して来るときのやり方がトランプを使ったチャンス・オペレーションであったことである(笑)。このことがこの曲の音楽的な統一性をだいぶ損なっているという指摘を、松平先生と、のちにこれを見せた故G. グリゼに受けた。

あらゆる意味で無邪気な創作と云うべきものかもしれないが、とりあえず現在の創作に繋がる第一歩であることは確かである。ので、後にこの作品を「op. 0.0」とした。間際になってこんな難曲を突きつけられ、初演者の門氏、中村氏には非常に迷惑をかけてしまったが、お二人には集中力に満ちた演奏をしていただき、今でも非常に感謝している。何と云っても私のキャリアの出発点であったのだから。(12/2000)

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