英語のReally?(本当?)に対応するフランス語は?

日本人がフランス語を勉強するのは、大学の第二外国語として勉強したり、語学学校に通う場合が多いため、勉強を始める時点ですでにある程度英語の基礎ができている場合がほとんどだと思います。英語とフランス語では、似た単語が多数あるなど、英語を知っているとフランス語の学習には便利なことが多いようです。私の場合も、フランス語習得の際に、英語とフランス語の密接な関係にかなりお世話になっただけでなく、フランス語から英語に入った単語が多数あることが分かり、英語の勉強の助けにもなりました。

フランス語を始めてから20年以上経った時に、英語の会話で頻繁に登場する "Really?" をフランス語で言うとどうなるかという疑問が浮かんで来ました。Reallyを仏英辞典で引くと、"Really?(expressing disbelief/信じ難いという気持ちを表して)" →" C'est vrai?(本当ですか)" とか "Vraiment?(本当に?)" などと書かれていますが、これらの表現の実際の会話での使用頻度は、英会話でのReally?の使用頻度に比べて非常に少ないと感じました。そこでこの点を、フランス語学校の先生(M. Christophe Brachet)にお聞きしたときに教えてくださった訳語が、"Ah bon?"でした。確かに"Ah bon?"はフランス人がしょっちゅう使う表現であることは知っていましたが、これがRealy?に対応するということは、20年間も気付きませんでした。同じ場面で同じ意味で使われている表現でも、異なる言語では、同じ意味の表現であることに気付くのは結構難しいことが分かり、大変勉強になったと同時に、その後翻訳の仕事をする場合の貴重な教訓となりました。

そこで、"Ah bon?"が、なぜ「本当?」という意味になるのか調べてみました。まず、"Ah"は、英語の"Oh"に対応する言葉ですが、『現代フランス語辞典』(白水社刊)で"Ah"を引くと、用例の4番目に「Ah bon! あっそう(了解を表す)、Ah bon? [Ah oui?]そうなの? 本当? (驚き・疑いを表す)、Ah oui! もちろんです(強い肯定を表す)、Ah non! 違いますよ、とんでもない(強い否定を表す)・・・」という説明がありました。これらを見ると、Ahは、驚きを表したり、意味を強めたりするようです。一方"bon"の方は、通常は、「良い、優れている、おいしい」などという意味の言葉ですが、この辞典では「Ah bon? ああそう、ほんとう?」という説明はあるものの、なぜそういう意味になるのかは分かりませんでした。そこで、『新スタンダード仏和辞典』(大修館刊)で"bon"を引いてみると、間投詞(inter. = interjection, 感動や応答・呼びかけを表す語)としての用法に、「Ah bon? ・・・ああそう<<驚き、疑いなどを示す>>"Il est en France. --- Ah bon? Je ne savais pas. 彼はフランスにいますよ --- ああそう、知りませんでした."という説明がありました。つまり、"bon"は、驚き、疑いを示す場合もあるようです。

二つの言語を習得する場合、共通点が多いことは覚える手間が省けるというメリットが大きいことは確かですが、表現が微妙に違う場合は、違っていることに気が付かなかったり、二つの言語で違った使い方をしている場合には、どちらの言語でどの用法が使われているかを覚えている必要があるため、混乱することも頻繁に起こります。そこで、私が気が付いたり、最近フランス語を教えていただいいているM. Philippe Lacueille氏が教えてくださった、英語とフランス語の微妙な違いで、注意すべき点を下に表にしました。

表の左端の「混乱の原因」という列には、「普通の辞書に載っていないため、気付きにくい関係」、「表記法の微妙な差」、「発音が近いがスペルが違う」、「序数と基数の用法の差」、「数え方の差」、「地名の発音が違っている場合」、「名詞の「可算性」の差」、「同根の言葉の意味の差"Faux-ami"」という8種類の混乱の原因を示し、その右側に実例を示しました。

Philippeさんによれば、二つの言語で見かけは似ているものの違う意味の言葉は、フランス語で"Faux-ami"("faux"は偽りの、"ami"は友達という意味)と呼ばれているそうです。このような例を、最後の「同根の言葉の意味の差"Faux-ami"」の行に示しました。これらの行の「フランス語表記」の列に示されているフランス語は、「日本語」や「英語表記」の列とは意味が違う点にご注意ください(これら以外つまり、これらより上の行については、「日本語」、「英語表記」、「フランス語表記」の意味は一致しています)。

この表に示した例と同じような例がほかにもたくさんあると思います。これら以外に、読者の方がお気づきになった例を教えていただければ、追加させていただきますので、こちらまでメールでご連絡いただければと思います(2013年7月31日)。


混乱の原因 日本語 英語表記 英語の説明 フランス語表記 フランス語の説明
普通の辞書に載っていないため、気付きにくい関係 本当ですか? Really? 意外なことを聞いたときに、驚きを表す表現。"I could have cried"--"Really? it was that bad?"[泣けそうだったよ。---本当? そんなにひどかったの?](オックスフォード・アシェット英仏辞典の例文) Ah bon? 大半の辞書には、"Vraiment?"や"C'est vrai?"が訳語として載っていますが、"Ah bon?"の方がはるかに使用頻度が高いようです。"J'en aurais pleuré."---"Ah bon, à ce point?"(オックスフォード・アシェット英仏辞典の訳文)
表記法の微妙な差 フランス語 French 言語名の頭文字は大文字 le français 言語名の頭文字は小文字
表記法の微妙な差 フランス人 French 国民名の頭文字は大文字 Français(e) 国民名の頭文字は大文字
発音が近いがスペルが違う 住所、あて名 address dが二つ adresse dが一つで最後にeが付く
発音が近いがスペルが違う 結婚 marriage rが二つ mariage rが一つ
発音が近いがスペルが違う スイス人 Swiss 2文字目がw Suisse 2文字目がu。最後にeが付く。
序数と基数の用法の差 3月1日 March 1st 常に序数 le 1er (premier) Mars 1日は序数
序数と基数の用法の差 4月22日 April 22nd April 22と書くこともありますが、読むときは常に序数として読みます。 le 22 Avril 1日以外は基数(普通の数)
序数と基数の用法の差 第2次世界大戦 World War II ローマ数字の2(II)は two と読みます(第1次世界大戦もの同様)。ただし、"The Second World War" という言い方もありこちらでは序数が使われます。 La Seconde Guerre Mondiale 第2は序数を使う
数え方の差 10億 billion 英国では1兆を意味することもありますが、通常は10億を意味します。 milliard 発音は[ミリアール]
数え方の差 1兆 trillion billion 英語の10億が仏語では1兆を意味します。
地名の発音が違っている場合 北京 Beijin 英語でも、Peking とか Peiching と言うこともあるようですが、普通はpekinと言えば、ペキンダックのことになるようです。 Pékin 発音は[ペカン]。英語のBeijinでも通用するようですが、正式にはPékinです。
名詞の「可算性」の差 情報 information 英語では通常不可算(uncountable)名詞なので、不定冠詞の"an"は付かず、複数形は取りません。 renseignements, または informations フランス語のinformationは可算名詞で、一つの情報はune information, 複数の情報はdes informationsと表示します。
名詞の「可算性」の差 手荷物、旅行かばん類 luggage 集合名詞なので、不定冠詞"a"は付かず、複数形はとりません。 bagages 英語のluggageの仏語訳は、かばんの複数形、bagagesのようです。
名詞の「可算性」の差 旅行 travel/tourism travelもtourismも英語では通常不可算名詞ですが、その仏語訳はvoyageの複数形、voyagesです。travelが長期にわたる旅行という意味の場合、travelsと複数形をとりますが、その場合も、仏語訳はvoyagesです。 voyages tourismやtravelをこの意味で使う場合の仏語訳は、voyagesと複数形で表記し、特定の旅行(trip)という意味では、voyageと単数形で表記します。
同根の言葉の意味の差"Faux-ami" 休む、休養する(動詞) rest rest on one's bed [ベッドに横になって休む] rester 同じところ/同じ状態にとどまる、・・・し続けるなど。・・・rester au lit [寝床から起きてこない、寝たきりである]、Restez dîner avec nous.[一緒に夕食をしていきなさい]・・・休息すると言う意味はありません。 フランス語のresterは英語ではstayに対応するようです。一方、英語のto restはフランス語では se reposerと言うようです。
同根の言葉の意味の差"Faux-ami" 現実に、実際に actually 現実にという意味のフランス語は、"en fait", "en réalité"となるそうです。英語のactuallyも、まれに現に、現在・・・という意味になることもあるようです。 actuellement 現在、目下、今。この意味の英語は、currentlyです。
同根の言葉の意味の差"Faux-ami" 実際の、現実に生じた actual 現実の、現実に生じたという意味のフランス語は、辞書にはréel、véritableと書かれていますが、実際の用法では、To take an actual cause. → pour prendre un cas concret、To give the actual figures → donner les chiffres mêmes などと、ケースバイケースでかなり異なる言葉に対応するようです。actual が、当面の、現行のという意味になることもあるようです。 actuel 現在の、現行の、今の、今日的。この意味の英語は、present, currentです。
同根の言葉の意味の差"Faux-ami" 出席する attend 出席するという意味のフランス語は"assister à --"で、「結婚式に参加する」は"assister à un mariage"です。 attendre フランス語のattendreは待つという意味で、出席するという意味はありません。「駅にお迎えに上がります」は"Je viendrai vous attendre à la gare."となります。
同根の言葉の意味の差"Faux-ami" 機会 opportunity あることをするのに適当な時間という意味の機会は、フランス語ではoccasionというようです。例えば、to seek an opportunity for discussion/rest はフランス語では、chercher une occasion de/pour discuter/se reposer と表現するようです。 opportunité フランス語のopportunitéは、好機という意味もありますが、「時宜を得ていること」、「当を得ていること」という意味で使う場合が多いようです。"discuter de l'opportunité d'augmenter les impôts" は「増税することが時宜にかなっているかどうか議論する。」という意味で、「増税する好機はいつなのかを議論する」という意味ではないそうです。
同根の言葉の意味の差"Faux-ami" (米国の)国務長官 Secretary of State 米国の国務長官をフランス語では、ministre des Affaires étrangères と言うそうです。 secrétaire d'État この英語の直訳は、(アンシャンレジーム下の)国務卿(中央行政のかなめとなる職で宮内卿、外務卿、陸軍卿、海軍卿の4名から構成される)を意味するそうです。
同根の言葉の意味の差"Faux-ami" 分別のある、判断力のある、趣味の良い sensible 日本語の欄の意味のフランス語はraisonnableですが、英語のsensibleには「知覚できる」という意味もあり、この意味に対応するフランス語は、sensibleのようです。 sensible フランス語のsensibleには、感覚能力を備えた、感受性の鋭い、神経質な、情にもろいという意味で、これに対応する英語はsensitiveのようです。日本語の欄に示した意味はありません。

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