問題86(英語・論理学)の答え・・・「c. "and"と同じ場合もあれば、 "or"と同じ場合もある」が正解です。

"and/or" は使わずに、"and"か"or"に置き換えた方がいい

同書の112ページ、§37 Replace and/or wherever it appears 〔"and/or" はどこに出てきても別の言葉に置き換えなさい〕によれば、and/or が使われる場合、「半分くらいは、"or" を意味し、半分くらいは"and"を意味する」そうです。つまり、"and/or" という言葉が、"and" を意味するのか、"or"を意味するのかは、文脈から判断しなければならないようです。"and/or" が "or" と "and" を意味する例として挙げられている文をそれぞれ一つずつご紹介します。

《"and/or" が "or" を意味するケース》 Licensee[使用権の取得者] provides no warranty as to the nature, accuracy, and/or [orと考えよ] continued acces to the Internet images provided under this Agreement.

〔和訳:使用権の取得者は、この契約に基づいて提供されるインターネット上の画像の、特質、精度、(and/or = or)または、アクセスの継続に関してはいかなる保証も行っていない。〕(2018年9月5日追記:この部分の従来の翻訳に間違いがありましたので訂正しました。"provides no warranty"は「保証を受けているわけではない」と訳していましたが、Collins Wordbankに載っていた下の文例を参考にして、「いかなる保証も行っていない」に訂正しました。"Builders and just about everyone else will provide limited warranties so that the liability to make repairs and pay claimes is not open-ended." ただし、この訂正はand/orの意味の解釈とは関係しません。)・・・この場合、"and/or" を "and" と解釈して「特質、精度、およびアクセスの継続」とすると、特質と精度とアクセスの三つがひとまとまりで保証されていると考えられる可能性があるため、"or"と考えなければならないのではではないかと思います。通常は、これらはそれぞれ独立に保証されていると考えられます。

《"and/or" が "and" を意味するケース》 All applicable state and federal taxes will apply to cash awards received and/or [and と考えよ] options exercised by ZBZ.
 
〔和訳:ZBZが受け取る賞金(and/or = and)およびZBZがオプション契約を権利行使して得た収益に対しては、すべての適用可能な州税および連邦税が課される。〕・・・この場合片方だけに課税するとは考えにくいため、and になることは明らかだと思います。

訴訟につながったケースの一例

契約書などに"and/or" を使うと、読む人によって取り方に差が生じたために、トラブルになり、実際に訴訟にまで発展したケースがたくさんあると同書113ページに書いてあり、その一例が問題文で紹介した文章の場合で、雇用主が従業員を採用する際に実際にこの質問文が使われました。

"Are you able to work overtime and/or variable shifts?"
〔和訳:あなたは時間外勤務and/or(および/または)不定時交代勤務は可能ですか?〕

もし、応募者が、時間外勤務は可能だが、不定時交代勤務はできないと考えた場合、"and/or" は、"or"と同じだと判断して、"Yes"と回答しても間違いとは言えないでしょう。上記の質問のあとに、次のような追加質問が続いていました。

"If the previous answer was 'No', please explain"
〔和訳:直前の質問に対する答えが「No」の場合、説明してください。〕

応募者は、前問に対する回答が"Yes"だったので、この質問に答える必要はないはずです。この質問票に回答した応募者(女性)は、首尾良く採用されたのですが、採用されるとすぐに、不定時交代勤務を要求されました。しかし、彼女はこれを断ったため、解雇されました。この件はすぐに訴訟に持ち込まれたそうです。

残念ながら、この訴訟の結果は同書では明らかにされていませんが、法廷は常にこの用語の使用者を批判する立場に立っているようです。同書には、"and/or" を批判した判決文がいくつか紹介されています。

"The use of this much-maligned and overused conjunctive-disjunctive reflects poor draftsmanship and generally should be avoided...."
〔和訳:批判が強くかつ、必要以上に使われているこの接続的かつ分離的用法は、文書作成者の能力の低さを反映しており、そのためほとんどの場合避けるべきである・・・〕

"And/or is taboo in legislative drafting"
〔和訳:"And/or"は法律文作成の際のタブーである。〕

また、お知り合いの弁護士の方も、「契約その他の法律文書を自分でドラフトする際には決してAnd/orを用いないようにしている」とおっしゃっていました。ただ、and/orを翻訳する場合には、原文の意図をくみとって「いずれかまたは複数」などと訳されているそうです。

"and/or"の問題を論理学的に考えると、"/"をどう解釈するかによって、"and"または"or"と同じ意味になります

最後に、この問題を論理学の問題として考えてみます。問題75(論理学)同様、この表現を記号で表してみます。
問題文で紹介した例の文章をわかりやすくするために、肯定文にして議論します。疑問文に戻す場合には、「と言えますか」、「というのは正しいですか」などの言葉を最後に追加するだけで済みます。肯定文にすると、この文は次のようになります。

あなたは時間外勤務and/or(および/または)不定時交代勤務が可能です。

ここで、問題75の場合同様、命題を定義して記号で表します。

命題A ・・・・時間外勤務が可能である。
命題B ・・・・不定時交代勤務が可能である。

次に "and/or" の "/"の意味ですが、常識的に考えて、"and" か "or" の二つの意味、つまり「(A and B) or (A or B)」か「(A and B) and (A or B)」のどちらか以外の可能性は考えられませんので、以下ではこの二つのケースのみを考えます。

〔"/"を「または」(=or)と考えた場合〕・・・(A and/or B) は (A or B) と同じ意味になります

"/"を "or"と考えると、A and/or B は次の式のように表現できます。

A and/or B ≡ (A and B) or (A or B)

ここで右側の(A or B) をひとかたまり(C)と考えて、分配律〔 (A and B) or C = (A or C) and (B or C)、下の証明1参照〕を使うと次の式が得られます。

=(A or (A or B)) and (B or (A or B))

ここで、結合律〔A or (B or C) =A or B or C、下の証明3参照〕を適用し、さらに、(A or A) = A, (B or B) = Bという恒真式(トートロジー、ちょっと考えれば分かるため証明は省略します)を使うと、

=(A or B) and (A or B)

と変形でき、(A or B) をひとかたまりCと考えて、C and C = Cという恒真式を使うと、

=(A or B)

が得られます。つまり、"/"を "or"と考えれば、(A and/or B) は(A or B)と同じ意味となることが分かります。

〔"/"を「かつ」(=and)と考えた場合〕・・・(A and/or B) は(A and B) と同じ意味になります

"/"を "and"と考えると、A and/or B は次の式のように表現できます。

A and/or B ≡ (A and B) and (A or B)

ここで左側の(A and B) をひとかたまり(C)と考えて、分配律〔C and (A or B) = (C and A) or (C and B)、下の証明2参照〕を使うと下の式が得られます。

=((A and B) and A) or ((A and B) and B)

ここで、結合律〔(A and B) and C) =A and B and C、下の証明4参照〕を適用し、(A and A) = A, (B and B) = Bという恒真式(トートロジー)を使うと、

=(A and B) or (A and B)

と変形でき、(A and B) をひとかたまりCと考えて、(C or C) = Cという恒真式を使うと、

=(A and B)

が得られます。つまり、"/"を "and"と考えれば、(A and/or B) は(A and B) と同じ意味になることが分かります。

証明1(分配律):A or (B and C) = (A or B) and (A or C) の証明

下記の四つの証明は、いずれも三つの命題が関係しています。その場合、2の3乗=8種類のケースしかあり得ないため、8種類について正しいことを示せば、すべての場合に正しいことを示したことになります。

A B C B and C A or (B and C) (A or B) (A or C) (A or B) and (A or C)
1 1 1 1 1 1 1 1
1 1 0 0 1 1 1 1
1 0 1 0 1 1 1 1
1 0 0 0 1 1 1 1
0 1 1 1 1 1 1 1
0 1 0 0 0 1 0 0
0 0 1 0 0 0 1 0
0 0 0 0 0 0 0 0

証明2(分配律):A and (B or C) = (A and B) or (A and C) の証明

A B C B or C A and (B or C) (A and B) (A and C) (A and B) or (A and C)
1 1 1 1 1 1 1 1
1 1 0 1 1 1 0 1
1 0 1 1 1 0 1 1
1 0 0 0 0 0 0 0
0 1 1 1 0 0 0 0
0 1 0 1 0 0 0 0
0 0 1 1 0 0 0 0
0 0 0 0 0 0 0 0

証明3(結合律):A or (B or C) = (A or B) or C = A or B or C の証明

A B C (B or C) A or (B or C) (A or B) (A or B) or C A or B or C
1 1 1 1 1 1 1 1
1 1 0 1 1 1 1 1
1 0 1 1 1 1 1 1
1 0 0 0 1 1 1 1
0 1 1 1 1 1 1 1
0 1 0 1 1 1 1 1
0 0 1 1 1 0 1 1
0 0 0 0 0 0 0 0

証明4(結合律):A and (B and C) = (A and B ) and C = A and B and C の証明

A B C B and C A and (B and C) (A and B) (A and B) and C A and B and C
1 1 1 1 1 1 1 1
1 1 0 0 0 1 0 0
1 0 1 0 0 0 0 0
1 0 0 0 0 0 0 0
0 1 1 1 0 0 0 0
0 1 0 0 0 0 0 0
0 0 1 0 0 0 0 0
0 0 0 0 0 0 0 0

いずれにしても、意味がはっきりしない言葉が、法律や契約書に堂々と使われているというのは信じ難い気がします。読んだ人をだましたり、惑わすことを意図して使われることもあるかも知れませんが、よく意味も分からずに使っている場合がかなりを占めているのではないかと思います。そうだとすれば、法律家というのもけっこういい加減な連中なのではないかという感じがします(2010年1月31日、2018年9月5日に一部訂正しました)。

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