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リプレイ第10話後:ショートストーリー  

●目次

アンスリューム②(作者:むーむー)

アンスリューム②(作者:むーむー)

カタコンベにある魔術結社のアジトを潰した後、
あーしはブラス村の河向こうを気晴らしのため散策していた。

カタコンベの戦いはだいぶキツかった。
戦い自体もキツかったけど、ルーシアの悲惨な過去を聞くことになったり、
黒い炎に焼かれて死ぬ奴らをまざまざと見せつけられたりした。
自分も雷撃の呪文に焼かれて死んだそうだ。
すぐに生き返ったので死んだという実感はあまり無いけど、
それを聞かされた時から気分は悪いままだった。
あーしたちダークエルフは寿命が長い。寿命で死ぬなど考える事はない。
死ぬとしたら戦いで死ぬ事が多い。
とは言え今まで危機は何度もあったけど死ぬ事だけは無かった。
今回の冒険では、戦いの中であっさり死んでしまった。
人間より寿命が長いと思うからこそ、いろいろ躊躇する事だって有ったんだ。
でも、相手よりも自分が先に死ぬのなら、躊躇している意味なんて、無いんじゃないかな…。

そんな事を考えながら、街道から森の中に入ろうとしていた。
どこかで見た事がある男に突然声をかけられた。
よくよく見たら、7、8年前アルトハルトの城で、何人かと一緒に肉体強化の儀式を受けた男だった。
マーモで会った男がここにいる。危険だと思ったので、かなり注意して動きを監視した。

「久しいな?アンスリュームよ」
「…何の用なの、マーモの人間がこんなところで」
「ほう?気付いていないのか」
「まどろっこしいんだよ、さっさと言いな!」
「つい最近、近くにいたんだがな?」
「…」

確かにこの声、どこかで聞いた気がする…。それもつい最近だ…。
はっ!っと気付く。カタコンベのドアの向こう側にいた奴だ!

「マーベラス!」
「ご名答だなw」

とっさにヴァルキリーズジャベリンを撃とうとする。
マーベラスは余裕の笑みでそれを制止する。

「まぁ、慌てるな。お前が本気になれば、私を殺すなど造作も無いだろう?」
「…」
「話を聞かないと、損をする事になるのはお前なのだがな。良いのか?」
「まどろっこしいんだよ…さっさと言いなよ!」
「お前、あのお方の命令で、本を探していたな?」
「…そうだね。でも、あんたに関係無いよね?」
「見つかったのか?」
「…さてね?あんたに関係無いって言ってるよね?」
「見つかったようだな」
「…知らないね。そろそろ用件言わないと、ぶっ殺すよ?」

本を見つけたのはなんだかバレているらしい。
そう言えば魔術師は嘘が分かる呪文が有るんだった。
マーコットが使ってた。既に掛けているのかもしれない。
マーベラスは勿体ぶるように、いやらしい目でこちらを見ながら、なかなか用件を切り出さない。
そろそろあーしの堪忍袋の緒が切れそうだった。

「あのお方を裏切る気か?」
「はぁ!?」
「裏切れば黒い業火でその身が焼かれる。ちゃんと話は聞いていたのだろう?」

カタコンベで敵の魔術師が燃えていた時、あーしはその事を少し思い出していた。
もしかしたら、これがその炎なんじゃ、と思ったらまともに見ていられなかった。

「さて、そんなお前に問おう。お前の仲間は、誰なんだ?」
「…そんなのきま」
「待て待て、慎重に答えた方が良いぞ?」
「…?」
「裏切れば、お前の仲間ともども、黒い炎に焼かれる。意味が分かるか?」

少し考えて、ぞっとした。不意に体に震えが来た。
怖いもあるが、焦りの方が強かった。
まずい…。あーしは焦ると間違う。
今、一番やっちゃいけないやつだ。
あーしを強くしてくれているあの力が、仲間を失う事になる呪いに変わる…。
考えただけでも震えが増す。
まずいまずいまずい…。
これは嘘だと思いたい。
仲間を失うのは! それも自分のせいで死なすのは! 絶対に嫌なんだよ!

もう、あーしの心は、完全におかしくなっていた。
このままだと飲み込まれてしまう。
なんとか強がってでも、どうにか、はねのけないといけない。

「そ、んなの、おとぎ話の話だろ。馬鹿なんじゃないの?」
「ほんとにそう思っているのか?」
「いちいち聞くのを止めろ!」
「思ってないと、お前の心は言ってるな?w」
「!」
「私に敵意を向けると、あの方を裏切るのと同じだぞ? お前の仲間は可哀そうだな?」
「止めろ!」
「ほう。裏切りだな? 燃えてしまうな? ああ、仲間が可哀そうだw」
「止めて!」
「おい、まずは、俺の話を聞けや。裏切り者が」

口調が一気にやくざのようになる。あーしは既に心を操作され始めていた。

「言い方が良くねーな? 立場を弁えろや」
「やめて…ください…」
「本を持ってこい」
「…そんな本なんて…」
「持ってるのはもう分かってんだよ。嘘を付くなら次は無い。どうすんだ?
 裏切り者がここにいますと、あのお方に言ってやっても良いんだぞ? あ?」
「…分かりました…」

あーしは悔しくて泣いてしまった。負けを認めてしまったに等しい。
マーベラスの口調が戻る。わざとらしいくらい優しく言ってくる。

「素直にしていれば、悪いようにはしないのだ。本を持ってくる名目などどうとでもなるだろう?
 借りるでもいい。上手い事やれるだろう?
 我々は魔術師だ。本を読んで呪文さえ理解出来れば、すぐに返してやる事も出来るのだよ」
「ほんとに、すぐに返してくれるの…?」
「ああ、もちろんだ。その本にはな? ある重要な呪文の事が書いてあるのだ。
 我々にかけられた炎の呪いも、もしかすると解けるやもしれない。
 我々を苦しめるかもしれない、お前の仲間を燃やしてしまうかもしれない呪いを
 解けるかもしれないのだ」

仲間、と聞いてびくっとなる。もしそれが、本当なら、この呪いも解ける?
そんな都合の良い話は無いなと思った。
でも、そこにすがりたくなってしまった。
完全に奴の思うツボだった。
この歳のあーしですらこうなってしまうのだ。
幼かったルーシアがあんなになるのは無理もないと思った。

「呪いが仲間に移らないようにできるの…?」
「それは、呪文書を見ないと約束はできんな」
「仲間に危害が及ばないようにしてよ…」
「そんな約束は…」
「そんな事も出来ないなら、本は持って来ないし! お前を今すぐ殺す!」
「…良かろう。あの方を裏切る事は私には出来ない。
 だが、お前と私とで上手いこと協力すれば、その
 呪文の内容によっては、呪いそのものをどうにか出来るかもしれん。
 お前もちゃんと私に協力しろ。そうしたら、悪いようにはしない。
 それを約束出来ないなら私も今すぐお前と戦うことになろう。
 どうする?」
「…分かった」
「すぐに手配出来ない事もあろうから、私はアルトハルトの城で待つ事にしよう」
「マーモに行くのなんて、こっちもすぐに行けるわけじゃ…」
「…選べる立場か? 優しく言ってやってるうちに、そろそろ悟れよ?」
「…分かり、ました…」

私はマーベラスと約束してしまった。
あの名前すら呼べない高位の魔術師を裏切る事は出来ない。
何をしたら裏切る事になるかさえ想像も出来ない。考えれば考えるほど気が狂いそうになる。
いつもびくびく震えながら、仲間に呪いが降りかかるのをおびえて暮らしていくなど、耐えられそうにない。
だが、上手くすれば呪いを克服出来るかもしれない…。
わずかな期待を、持ってしまった。

あーしを強化していた呪いは、あーしの心も体も縛り付ける鎖となった。
せっかく得た新しい「仲間」を失いたくない…。
でも、これは彼らへの裏切りでもある。
あーしは多分、もう一緒にはいられなくなるだろう…。
でも「仲間」を死なすよりは、ずっと良いはずだ…。

あーしは、マーコットの呪文書をどうにかしてマーベラスに見せなくてはならない。
しばらく、眠れない夜が、続くこととなった。

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●本コンテンツについて

・本コンテンツは同好者の間で楽しむために作られた非公式リプレイです。
・2021年にオフラインセッションでプレイしたものをまとめたものとなります。
・動画制作とリプレイテキスト公開を同時進行しております。
・個人の趣味で行っておりますので、のんびり製作しております。気長にお待ちいただきながらお楽しみください。

・原作の設定とは無関係の設定が出て来たりしております。あくまでこちらのコンテンツは別次元のお話と思ってください。
・本コンテンツの制作にあたり、原作者様、出版社様とは一切関係がございません。
・TRPGを行うにあたり、皆が一様に分かる世界観、共通認識を生んでくださった原作者様と、
楽しいゲームシステムを販売してくださった関係者の方々に、深く感謝申し上げます。

●本コンテンツの著作権等について

・本コンテンツのリプレイ・ショートストーリーの著作権はむーむー/むーどす島戦記TRPG会にあります。
・本コンテンツのキャラクターイラスト、一部のモンスターイラスト、サイトイメージイラスト等の著作権は、
むーむー/マーコットPさん/アールグレイさんにあります。
・その他、原作、世界観、製作用素材については以下の権利者のものとなります。

●使用素材について

・本コンテンツは以下の製作者、原作者、製作素材等の著作物を使用して製作されています。

【プレイヤー】

・トゥナ・P
・マーコットP
・ヤトリシノP
・むーむー(GM)

【挿絵・イラスト】

・マーコットP
・むーむー

【キャラクター(エモーション・表情差分)】

・マーコットP
・むーむー

【使用ルール・世界観】

・ロードス島戦記
 (C)KADOKAWA CORPORATION
 (C)水野良・グループSNE
・ロードス島戦記コンパニオン①~③
 原案:安田均、水野良、著者:高山浩とグループSNE
 出版社:角川書店

【ウィンドウ枠デザイン素材】

・ウィンドウ&UIパーツ素材セット3
 (Krachware:クラハウェア)

【マップアイコン素材】

・Fantasyマップアイコン素材集
 (智之ソフト:tomono soft)

【Web製作ツール】

・ホームページデザイナー22
 (ジャストシステム)

【シナリオ・脚本】
【リプレイ製作】

・むーむー

【ショートストーリー・小説製作】

・トゥナ・P
・マーコットP
・ヤトリシノP
・むーむー
 (むーどす島戦記TRPG会)

【製作】

・むーむー/むーどす島戦記TRPG会

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