脱不安の経済学28 食べ物の「素顔」知りたい
  〜消費者 安全性 独自に調査も
  〜生産者 不安解消へ「顔見える関係」

 1999.11.28  朝日新聞

(著作権の関係上、内容をそのまま全て掲載出来ません。 概要として纏め直して掲載しています。)
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消費者 安全性 独自に調査も

 「いったい何を食べさせたらいいのか。選ぶのが、とても難しくて」 「私が無知だったんで、そのツケが子供に出たのかな、と思うんです」

 東京都八王子市市民センターの一室。アトピーやぜんそくなどの子供を持つ母親のサークル「フォー・ザ・チルドレン」が、お互いの経験や情報を生かそうと開いた集まりだ。アトビーなどの増大の原因については諸説あるが、参加者たちは、添加物や農薬にまみれた食品など身の回りの品々が子供たちの健康を害していないか、と不安を訴えた。

 食品などの安全性を点検したブックレット『買ってはいけない』の発売部数は二百万部に迫る。元になっている雑誌『週刊金曜日』の山中登志子編集長代理は「環境ホルモンやダイオキシンなど不安な要因はいっぱいあるのに、これまでネガティブ(否定的)な面での個別商品の情報はほとんどなかった。それに応えたから売れた」と話す。

●「安全と思えるモノを食べたい。だからこそ、その素顔を知りたい、選びたい」。多くの消費者の願いです。でも、そこには厚いベールがあります。

 コピーは不可、閲覧は月、水、金曜日の各5時間−市民団体「健康情報研究センター」の里見宏代表らは二年前の夏、食品衛生調査会(厚生相の諮問機関)が安全だと答申した遺伝子組み換えトウモロコシの資料を調べようとした。だが、そんな制限のため、三人がかりで約三週間、公開場所に通い詰めて手書きで写さざるをえなかった。

 遺伝子組み換え食品の安全性については議論が分かれるが、この資料では英文と日本語では検査結果の記述に違いがあったり、一部は申請者の自社実験データだけに基づいて安全証明をしていたりした、という。「普通の人はそこまで労力をかけられない。これで『公開』している、とは言えない」と里見代表は話す。

●遺伝子組み換え食品をめぐっては消費者の不安の高まりに表示の義務化が決まりました。しかし、「対象外」品目の多さに、消費者は使用されているかを独自に検査する運動を始めました。

 日本消費者連盟などでつくる「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」の安田節子事務局長は今月上旬、ある異業種交流サークルに呼ばれて講演。「次の検査対象は飼料」と明らかにすると、飼料会社からせっぱ詰まった声が上がった。

 「そんな厳しいことを言われても。消費者はどこまでなら許容するのですか。遺伝子組み換え大豆ゼロなんて難しいですよ」
 同キャンペーンは一口千円で資金を集め、検査費用(一検体二万円から四万円)がまとまると、あやしい商品を次々と検査に出す。通常の食用油は検出が難しいため表示義務の対象から外されたが、油を絞った後の大豆は飼料に回される。この飼料で検出されれば食用油でも組み換え大豆を使っていることになるというのだ。

生産者 不安解消へ「顔見える関係」

●消費者の不安に自らこたえようとするメーカーや生産者たちも出てきました。

 「これも一本。遺伝子組み換え大豆じゃあない」
 東北地方の豆腐のシェア一位の太子食品工業。青森県・十和田工場の片隅で畠山典子・研究室員は黙々と、遺伝子組み換え大豆がないか調べていく。もし、組み換え大豆が入っていれは、検査用の「ゲル」 (寒天の板)に、本来は一本のピンク色の線が二本になって出てくる。いま、1999年産大豆の検査ラッシュだが、二本目はまだ出ていない。

 同社はいち早く、組み換え大豆を使わないと宣言。業界の一部から「消費者の過剰な反応に対する便乗商法」などと批判されたが」調達部門の社員は非組み換え大豆確保に中国やカナダを走り回った。

 「一時は赤字が膨らんで、悩みましたよ」と工藤茂雄社長。でも、消費者は同社の豆腐を買った。
 「経済的には楽ですね」。山形県新庄市の農家・今田浩徳さん(35)は昨年から始めた「大豆畑トラスト」運動の手ごたえを感じている。消費者が共同で畑を借り上げ、遺伝子組み換えでない国産大豆をつくってもらう仕組みだ。

 消費者が一口4千円で約33平方mの畑の「オーナー」になる。そのため、天候不順や害虫の発生などで収量が落ちても生産者は一定の所得を確保できる。でも、「『信任』されていると思うと緊張しますよ」。農薬を使わず、雑草取りは消費者も手伝う。今田さんらの生産者グループの契約数は昨年の約300口が今年は約500口に増えそうだ。全国にこのトラストの生産拠点が広がりつつある。

●問題は遺伝子組み換え食品にとどまりません。農産物では有機や無農薬の表示がはんらんしています。正しいかどうか、消費者は不安をぬぐい去れません。しかし、こんな新しい「顔の見える関係」づくりも始まっています。

 「危ない農薬を使っていないか、納屋ものぞきますよ。だから険悪ですよ。おれを疑っているのかって」 (モスフードサービスの伊東活・アグリ事業部係長)
 「最初は、あからさまにではないけど嫌われました。これで競争させられるんじゃないかって」 (生活クラブ生協連合会の中村秀次・自主管理監査推進室室長)
 モスフードは97年、ハンバーガーなどに使うトマトやタマネギ、レタスなどを全部、農薬や化学肥料を減らした生野菜に切り替えた。目指すは「必要最低限」。アグリ事業部員十人の仕事は、応じてくれる農家の確保から始まった。

 泊まり込んで酒が入ったところで、会社の帝望を説き始める。「さっきはきついこと言いましたけど、うちは『健康』でやりたいんです、長い付き合いをさせていただきたいんです」。いま、伊東さんの机の中には、契約している生産者グループの土づくりの方策や病害虫対策などを書いた栽培計画書がぎっしり。名前を見れは顔が思い浮かぶ。

 同社の店頭には、今日の野菜の産地生産者名が掲示される。伊東さんは「店から農家に直接、感謝の電話もいく。農家はそりゃあ喜ぶ。何より責任感をもってくれる」という。

 生活クラブも97年から、「自主管理・監査制度」を始めた。野菜だけでなく、畜産、加工食品なども含めて、組合員が生産現場に出向いて、自分たちの目で安全性のチェックまでする。
 昨年度の参加者は延べ517人。監査の基準は、農業だと「除草剤二回以上使用」は禁止、「土壌消毒剤使用」は「許容レベル」となる。加工食品でも「許容レベル」「禁止レベル」の食品添加物などがきっちり決められている。

 今春、生産者側にアンケートを取った。当初の戸惑いは消え、約九割が「有意義だ」と回答してくれた。「緊張感が生まれ、品質などのレベルが高まった」「自信をもって販売することができる」

●日々の買い物で安全や環境に配慮した商品や店を選ぶグリーンコンシューマー運動も日本で広がり始めています。欧州では既に定着した運動です。

 総合評価で、五つ星はなし、四つ星は京都生協、さいたまコープ、ジャスコ、西友、みやぎ生協の五つ、三つ星は23…・。
 発行されたはかりの「グリーンコンシューマーになる買い物ガイド」(小学館)には、全国80チェーンのスーパー、生協、コンビニの商品・環境対策などを評価した「格付け」がある。調査項目には「有機農産物の信頼性対策が優秀」 「無添加食パンがあるか」といった食べ物の安全確保に関する項目も多い。

 「あらっ、ハムは全部、食品添加物入り」「この野菜、本当に『有機』かしら」 はじめて調査に参加した主婦・大西優子さん(60)は咋年夏、千葉県棺市の大手スーパーの店舗内を調査対象の商品を探すため約1時間、行っかり来たりした。各地の消費者のこんな努力がまとまったのだ。企画したグリーンコンシューマー全国ネットワークの世話人たちは、その思いを本に書き込んだ。

 「難しいことではありません。私たちの生活は買い物で始まります。モノの質や流れを変えることで将来のシナリオも変わるはずです」


<農薬使用月もわかる野菜

 有機農産物などを取り扱う「夢市場」が経営するマザーズ藤が丘店(横浜市青葉区)。日本初のオーガニック(有機)スーパーと名乗るだけあって、約2000品目の減農薬の野菜や無添加食品などが所狭しと並ぶ。野菜ならば、生産者名、農薬の使用状況などが表示されている。

 店員に聞けは、何月に農薬をまいたのかも判る。開店から丸3年。「他のスーパーさんは軒並み厳しいようですが、1999年度の売上高は前年度並みを維持できそうです」 (大塚陽一・農産部次長)。首都圏に直営店を増やしていく方針だ。


言わせてネット「消費者主権」の土台は信頼

 かつて食品衛生調査会委員長を務めた山本俊一・東大名誉教授(77)は昨年、食品添加物残留農薬を認めていかざるをえなかった経緯を、演劇の脚本風にまとめた本「わが罪」(真葉書房)を出しました。「良心がとがめる」というのです。もともと、本の表題として考えたのは「価値の狭間で」。「経済的価値と健康的価値の狭間(はざま)で」という意味だそうです。

 山本さんも指摘するのですが、日本では健康的価値がないがしろにされてきたと私は考えます。いま、消費者自らが、検査や「買う・買わない」という手段で、健康的価値を求めるのは当然の権利です。厚いベールを取り払うために、来年4月に施行される改定JAS法によって農産物などの表示が充実されることに期待をかけたいと思います。

 ただ、消費者と生産者をつなぐ表示という情報の土台には、信頼関係を据えたいとも考えます。
「農業をはじめとする第一次産業の活性化」「生産者の主体性の回復」‥…市民団体「大地を守る会」が今年から実施に移した契約農家に対する有機農産物などの生産基準の基本理念は、こう謳っています。
「消費者主権」には生産者を重んじる義務も伴っているはずです。(小森 敦司)

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