DNAワクチンで結核たたけ
  〜細胞に潜む敵に新たな武器

 1999.11.18  朝日新聞

(著作権の関係上、内容をそのまま全て掲載出来ません。 概要として纏め直して掲載しています。)
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  ウイルスや細菌のDNAを体に注射し、病気の予防や治療をめざす「DNAワクチン」の研究が盛んになってきた。欧米ではエイズウイルス(HlV)やマラリアなどで臨床試験が始まっているが、最近、注目を集めているのは、結核を抑える働き。人の結核に対する闘いは、かつて抗生物質の開発、普及の原動力となったが、今度は、新しい予防治療手段の開発を促そうとしている。 (本多昭彦)


培養なしで素早く合成

 今年7月、DNAワクチンを結核菌に感染させたマウスに数回注射することで「結核菌を除菌できて、治療の効果が認められた」という研究結果が英科学誌ネイチャーに載った。
 報告したのは、英国立医学研究所のダグラス・ローリー博士らのグループ。このワクチンは、結核菌と同じ抗酸菌の一種がもつ抗原の遺伝子を使ったものだった。

 結核のワクチンではBCGが有名だ。しかし、大人に対する予防効果については否定的なデータも多い。その一方で、最近は、主な抗生物質が効かない多剤耐性結核の広まりや、免疫力が落ちた高齢者の再発が問題となっている。

 ローリー博士らの研究では、DNAワクチンが、結核を再発させやすくしたマウスの発病を抑え、しかも除菌までできた。国立感染症研究所の山本二郎・細菌製剤第一室長は「結核に対する新しい武器になりそう」と期待する。

 山本さん自身、ローリー博士のグループとは別の遺伝子を使って結核のDNAワクチンをつくり、米国でモルモットの感染実験を進めている。

 これまでのワクチンは、病原体を弱毒化した生ワクチンと、病原体の感染力をなくしたり病原体の抗原部分だけを精製したりした不活化ワクチンに大別できる。

 「生ワクチン」は免疫の効果が強いが、安全面で不安が残る。一方、「不活化ワクチン」は安全性は高いものの、リンパ球が感染細胞を直接たたく細胞性免疫は引き起こしにくく、抗体が病原体に働く液性免疫が中心になる。それぞれに一長一短があった。

 「DNAワクチン」は、病原体そのものではない点は、抗原部分を精製した不活化ワクチンに似ている。しかも、細胞の中に入り込んで、細胞性免疫で感染細胞をたたくときにカギとなる目印をつくらせる働きがある。  この日印を覚え込んだキラーT細胞が増殖して、体内の感染細胞を攻撃してくれる。

 その結果、感染細胞が細胞ごと攻撃されることになるので、細胞の中で増えるさまざまなウイルスや、細菌でも細胞内に潜み続けるものには、とくに威力を発揮するとみられている。結核菌は、こうしたタイプの細菌なのでDNAワクチンに期待が集まる。

 DNAワクチンには、ほかにも利点がある。DNAの合成だけでワクチンがつくれるため、培養ができないような病原体でも、安く、早く、はらつきの少ない均質なワクチンをつくれることなどだ。

 日本ではここ数年、結核のほかに、日本脳炎やマラリア、HIV、インフルエンザ、C型肝炎などに対するDNAワクチンの基礎研究が、国立感染研横浜市立大学自治医科大学浜松医科大学などで始まっている。

 インフルエンザワクチンは、ウイルスを鶏卵で大量培養してつくるため、鶏卵を殺してしまうような強毒な新型ウイルスが出現したときは、緊急の対応が難しかった。田村慎一・国立感染研免疫病理室長は「DNAワクチンなら、新型ウイルスの出現にも素早く対応できる」と期待する。

 欧米では、さまざまなDNAワクチンに対して、人での安全性を確かめる臨床試験がすでに10件以上も進められており、マラリアやHIVでは一定の効果が表れたという報告も出てきた。

 ただ、DNAワクチンには課題も多い。DNAに対する抗体ができて自己免疫痛が起こらないか、発がんの危険がないか、などが心配な点として挙げられている。

 今のところはこうした報告はないようだが、日本脳炎のDNAワクチン開発を進めている倉根一郎・国立感染研ウイルス第一部長も「注入されたDNAがどうなるのか、長期的に観察しないとわからない」と、進行中の臨床試験の結果に注目している。


 DNAワクチン

 病原体の遺伝子の一部を含む合成DNAを、注射などで体内に入れて細胞内で病原体のたんばく質の一部をつくらせ、免疫反応を起こさせる。

 DNAは、プラスミドと呼ばれる環状の遺伝子にあらかじめ組み込んでおく。

 1990年に米国の研究者がネズミの節肉にプラスミドを注射する実験をしていた際、プラスミドのDNAの遺伝情報にもとづくたんはく質が節肉でつくられ、それが2ヵ月近く持続したことを偶然に発見。93年に米国のベンチャー企業が、インフルエンザウイルスやHlVなどの遺伝子を組み込んだプラスミドをネズミに注射すると免疫が起こることを相次いで発表したのが始まりだ。



白血球、「2:2」で増やします

 白血球を増やす分子である顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)が白皿球の表面に突き出た受容体にくっつく様子を、森川耿右・生物分子工学研究所構造解析研究部門長らが原子レベルの精密さで突きとめた。がん治療などに使われるGCSFで、白血球との結合部の構造がわかったことは薬の開発などに役立つと期待されている。

 森川さんらは、受容体にくっついたままの状態でGCSFの結晶をつくり、]線で調べた。

 写真=同研究所提供=は、解析結果を示したコンピューター・グラフィックスで、左右両端に見えるGCSF二分子が、真ん中の受容体二分子と結合しているのがわかる。因子と受容体の二対二の結びつきは目新しい結合様式だという。この結果は10月14日発行の英科学誌ネイチャーに発表された。



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徐福伝説メッセージニブロンって?
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