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ダイオキシンの土壌、大気、水質の環境基準が二日決まり、来年一月に施行されるダイオキシン類対策特別措置法の準備が整った。しかし、基準が達成できない場合、行政側が廃棄物焼却施設の規制強化や土壌の浄化対策に取り組まなけれはならないため、基準値はかなり緩めだ。総量規制も、いまのところ指定を名乗り出る自治体はなく、このままでは空振りに終わりそう。
汚染土壌を浄化する地域指定は、まず大阪府能勢町から始まる予定だが、浄化技術が確立されていないため、肝心の浄化は4年後だ。ダイオキシン対策の実効性には早くも各方面から疑問視する声が出ている。 （社会部・杉本裕明、中村正悪、浦和支局・掘口元）
「配慮」で現実的数値に
「土壌の対策指針と環境基準が同じ、という論理がよくわからない」
2日、環境庁会議室で開かれた中央環境審議会土壌農薬部会。事務局がまとめた報告書（案）を読んだある委員がかみついた。
報告書は、直ちに除去などの対策を取る対策指針（指定要件）と健康に望ましい値の環境基準を同じ1000pgとし、調査に入る指標としては250pg以上を挙げていた。
環境庁の幹部は「カドミウムなどでも同様の決め方をした」「法律が汚染者に対策費用の負担を明記しているため厳格に設定した」と説明に追われた。
実は、夏に発足した基盤を検討する専門委員会では、環境基準を1000pgにしようとする事務局に、複数の委員が「もっと低い数値にすべきだ」と抵抗。事務局は、対策指針とは別に「調査指標」を設定することで委員らを説得した。
同庁は「欧米では対策をとる値として、ドイツが子供の遊び場などに40pgを採用しているが、オランダ、米国は1000pg。この値でも健康に問題ない」と説明する。一方、研究者側は「ダイオキシンの汚染がほとんどなくなった国と日本を同列に論ずるのはおかしい。1000pgを超える地域は全国にほとんどなく、事実上の安全宣言だ」と指摘する。
法律が7月に公布された後、環境庁は基準設定作りに動いた。だが、厚生、農水両省など関係省庁は食品規制につながりかねないとみて警戒、これらの省庁の了承が必要なこともあり、「より現実的な数値に帰結した」 （環境庁幹部）という。
汚染地の不安静まらず
「1000pg以上を除去するという我々の方針通りでよかった。でも、いつになったら浄化が始まるのか」
能勢町のごみ焼却施設「豊能郡美化センター」を運営する豊能郡環境施設組合幹部はこの日、複雑な表惜を見せた。
センター周辺の土壌は、調査した84ヵ所中23ヵ所で1000pgを超え、最高は8800pgだった。府は、隣接する府立能勢高校の実習農場の1000pg以上の2ha分を深さ20cmにわたって除去、100〜1000gの2.5haも覆土すると決めた。近く工事にかかる。
だが、除去した土をどんな方法で無害にするかは環境庁の実証試験待ちだ。施設のそばに実験プラントを計画しているが、「風評被害が起きる」と農家などからは反対の声もあがっている。
産廃焼却施設が密集する埼玉県所沢市では、所沢産の野菜価格が暴落してから9ヵ月がたった。世論の批判で、市は国の基準を前倒ししたダイオキシン規制条例を施行、炉を廃止する産廃業者に補助金を出した。炉を撤去・休止する業者が相次ぎ、市民団体によるとこの2年で所沢周辺の炉は64炉から38炉に減った。
昨年度の市の調査では、大気中のダイオキシン濃度は一立方メートル中最高0.76pgと新しい環境基準値（0.6pg）を上回ったが、今年度の調査では最高0.14pgと過去最低になった。市は「国、県、市の対策の成果が表れた」 （環境指導課）と言っている。 だが、住民たちの不安は静まりそうにない。
能勢町の施殻近くに住む灰掛典子さん（43）は「土壌の基準は1000pgでは甘い」と語る。灰掛さんらは昨年暮れ、環境庁長官に会い、できる限り低い値にするよう陳情した。「『子どもの安全を考え、ドイツ並みの厳しい基準を作ってほしい』と言った。
今回の基準だと私たちの住宅地では対策の必要がないということになる」
所沢市で環境保護運動に取り組む主婦北浦恵美さん（34）も「1000p近くの数値が出ても環境基準以下だなんて、行政が何の対策もとらないと宣言したのと同じ」と憤る。
市内には250pgを超す地点もなかったが、密集地域では、今も毎日300t以上のごみが焼却されていると見られる。所沢市で測定したことがある宮田秀明・摂南大教授は「測り方によって数値は一桁変わる。連続して測るなど詳細な調査をしないと問題ないとは言えない」と指摘する。