「環境とがん・予防と診断」〜カギは治る決意
 ●主婦37歳・乳がん治療記

 1999.10.20  朝日新聞

(著作権の関係上、内容をそのまま全て掲載出来ません。 概要として纏め直して掲載しています。)
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宣告に涙 医師探し転院 質間恐れず 納得の手術

 一口にがんと言っても、治療法は種類や病状で違う。がんを告げられたときのショックも人によって差がある。どんな不安や悩みを抱え、どのように治療方法を選択していくのか。乳がんの温存療法を受け、現在、放射線治療のため通院している主婦Aさん(37)の体験を追ってみた。

○しこリ

 Aさんが右胸の外側に違和感を覚えたのは4年前。注意して触れなけれはわからないほどのしこりで「何かポチッとあるな」という感じだった。気掛かりで東京都内の病院を訪れた。触診超音波、そして乳房を]線で撮影するマンモグラフィーの検査を受けた。医師の見立ては「何でもありませんよ」。がんについての不安は消えた。

 しかし、今年、たまたま診察を受けた別の病院の乳房の検査で、「石灰化した部分がある」と告げられた。石灰化とは、カルシウムが沈著した状態をさす。

 7月に4年前に診てもらった病院を訪れ、もう一度検査を受けた。今度は精密検査が必要だと言われ、局部麻酔をして乳房に針を刺し、組織をとって調べた。検査の前に医師から「8割は何ともないですよ」と説明をされたが、結果はがんだった。「2割の方に入ったのかと思うとショックで、二、三日は泣いていました」とAさんは振り返る。その医師の治療方針は「右の乳房の四分の一を切り取る。全部摘出する可能性もある」というものだった。

○病院不信

 Aさんはこの病院で治療を受けることに迷いが生じた。担当医師が頻繁に代わったし、説明を求めない限り、治療法について何も話してくれなかったからだ。「体験してみないと分からないと思いますが、命にかかわるし、何をされるか納得のゆく説明がないので怖さが募るはかりだった」。Aさんは病院を替えることを決心した。

 まず、乳がんの患者団体に電話して「病院を替えたい」と相談してみた。アドバイスは「自分が納得できるやり方を選べは後悔しませんよ」。少し勇気が出た。一般向けのがんにかかわる医学書を何冊も読み、その中に名前のあった医師を訪ねてJR東京総合病院に出向いた。最初の病院には「治療にある程度時間がかかるなら、通院しやすい近くの病院に移りたい」と、病院を替える理由を告げた。

 診察の結果、治療法が決まった。右乳房を六分の一ほど切除する温存療法。リンパ節も取り、転移がないか確かめる。治療方針は最初の病院と大きく変わらなかったが、安心できた。話をじっくり聴いてもらえ、疑問点を何でも質問できたからだ。

 「どんな治療を受けるのかを自分なりに理解できた。私の性格もあるけれど、くどいくらい質問しました」。乳がんの基礎知識を得るには、病院でもらった十づほどの冊子も役に立った。

 治療についての希望も率直に告げた。「わきの下にあるリンパ節は、大きくとると腕が上がり難くくなるから、切除はできるだけ小さくしてほしい」。本で得た知識を総動員した。抗がん剤もできれは避けたかったが、同席した別の医師から「薬を嫌がる子どもと同じではだめ。必要な治療は受けないといけない」と助言され、「欠かせない治療は受けよう」と納得した。

 手術は8月末。右乳房を6分の一切り取り、リンパ節切除は比較的少なくて済んだ。切り取った組織からはがんの広がりがみられず、リンパ節への転移もなかった。

 入院は10日間。痛みはあったが、看護婦から「みんな痛がるんですよ」と説明を受けていたので少し安心できた。 現在は土日を除いて毎日、放射線治療に通っている。25回の放射線治療が終わると、ホルモン療法に移る予定だ。乳がんはエストロゲンという女性ホルモンの刺激で成長するので、このホルモンの働きを妨げる薬を使う。がんによって効くタイプと効かないタイプがあるが、Aさんは効くタイプだった。

 「がんの本はかり読んでいると再発のことに考えが行ってしまう。だから、仕事探しをして、できるだけ外に出るようにしたい」という。

○乳房温存

 「この方は若いのに随分体に注意を払っていましたね」と主治医の川端英孝さん。そもそも30代の女性は、がん検診の効果(発見率や延命効果)が高くないので、川端さんは30代の病院での検診はあまり薦めていない。ただし、関心のある人が受けるのはかまわない。もし早く見つけたのなら、その分の利点があるように治療した方がいいと考えている。

 「せっかく早く見つけても全部摘出したのでは、何のための早期発見か分からないですから」。Aさんの場合は「それほど広がっていない。普通の温存療法でいい」と判断した。温存療法は、日本の有力病院では今や50%を超えるという。

 病気について勉強したり、ほかの医師の意見を聞いたりすることは「患者が自分の病気を客観的に見ることができるようになるのが利点」と川端さん。乳がんの場合、治療法の種類や注意事項はある程度決まっているので、患者向けの冊子も比較的簡単な内容に纏められた

 Aさんが心配した、わきの下のリンパ節を切りとる手術(リンパ節かくせい)は、腕の動きの妨げや腕のむくみを起こすこともある。リンパ節は小さな米粒ほどの器官。わきの下にはいくつもあり、がんが転移しやすい場所のため、転移の有無を切り取って検査する。転移していれはそこからの再発を避ける必要がある。レベル1からレベル3に部位が分かれているが、レベル1、2の部分を切り取ってがん細胞の有無を調べるのが一般的だ。

 Aさんの検査では、がん細胞は見あたらなかった。転移がないことから、病巣を取り除いたあとは抗がん利治療は不要と判断された。

 川端さんによると、欧米では、リンパ節の切除範囲を最小限にする方法も開発され、臨床試験が始まっている。日本では本格的に実施している病院はないという。

 放射線を照射しないと乳房で再発する危険は四倍に増すので、乳房全体に照射する治療は多くの場合で必要だ。またホルモン療法も効くと考えられるタイプのがんならは、標準的な治療になっている。

 放射線が終われは、3ヵ月に一回、乳房やその付近で再発がないかを中心に調べることになる。再発がなけれは2年目からは半年に一度くらいの診察でよい。再発は二、三年後くらいがピークで、五年過ぎれは危険は薄らぐ。



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