緑茶でがん予防 本当に効く?
  〜日米で検証進む
  〜食生活とがんに多様な関係

 1999.09.30   朝日新聞

 
(著作権の関係上、内容をそのまま全て掲載出来ません。 概要として纏め直して掲載しています。)

 分野別メニューへ戻る
 記事メニューへ戻る




 脚光を浴びている緑茶の発がん抑制作用は本物か? その効果を科学的に検証する本格的な試験が日米で進められている。現在、予備的な試験が終わる段階まできており、結論が出るのは数年先になる。過去の疫学調査や動物笑験で有効性をうかがわせるデータが出ており、本格試験への期待は大きい。(鍛治 信太郎)

愛飲者の1日10杯、基準

 米国では二年前から、緑茶の抽出成分のカプセルのがん予防効果を調べる臨床試験が始まり、現在、安全性を確かめる第一段階の試験が進行中だ。

 テキサス大学M・D・アンダーソンがんセンターなど二ヵ所で約70人のがん患者が参加。医薬品開発と同じように米食品医薬品局(FDA)に試験実施を申請した。カプセル一錠は湯飲み一杯弱の約120mリットルの緑茶に当たり、一日数錠から十数錠飲む。 第一段階は年内に終え、来年から数年かけて、特定のがんを対象に本物と偽のカプセルで効果を比べる第二段階に進む見通し。

 緑茶のがん抑制効果は1980年代初め、埼玉県立がんセンター研究所長の藤木博太さんらが国立がんセンター時代に見つけた。

 埼玉県立がんセンター研究所は3月から、県職員120人に緑茶の抽出物の錠剤を飲んでもらい、副作用や飲みやすさを調べている。一錠は湯飲み二杯分の約300mリットルの緑茶に相当。ふつうのお茶と併せ一日十杯分を飲む。次は、がんになる危険の高い人や患者で予防効果を探る。

 また、同研究所は86年から、県民8552人を対象にした追跡調査をしている。緑茶を一日に十杯以上飲む人は三杯以下の人に比べ、がんになる危険度が四割以上も低いという結果が出た。

 この追跡調査は、様々な習慣とがんの関係を調べており、90項目の生活習慣の中にたまたま緑茶が含まれていた。研究の中心だった中地敬専門調査員らは、藤木さんに「緑茶の効果は出てないか」と指摘されるまで関連に気づかなかったという。「調査開始時は、緑茶はがんの原因になるという説の方が有力で、危険が増えるのではないかと思っていた」と中地さん。

 また、緑茶をたくさん飲む人ほど喫煙者が多かった。そのため、喫煙によるがん増加の影に緑茶効果が隠されてしまったようだ。

 いまや緑茶抽出物(グリーン・ティー・エキストラクト)の略語GTEが、国際学会や論文で専門用語として通用するほどだ。

 効果の主役と考えられているのは渋み成分のカテキン類。カテキンは、がん細胞を包み込み、増殖因子や促進因子ががん細胞に入り込むのを防ぐとされる。ネズミの埴発がん物質を塗って腫瘍をつくる実験で、緑茶カテキンの一種を塗っておくと発がんが抑えられたとの報告がある。

 食品や栄養素のがん予防効果の研究で反面教師となっているのが、緑黄色野菜の色素カロチノイドの一種、ベータカロチン。
 野菜によって含まれるカロチノイドは千差万別だが、ベータカロチンは広く存在する。緑黄色野菜を多く食べる人はがんが少なく、喫煙者ではとくに、血液中のベータカロチン濃度が高い人は低い人よりがんになりにくいとする疫学調査があった。

 だが、フィンランドで約3万人の喫煙者を対象に、毎日ベータカロチンを20mg飲む実験をしたところ、肺がんにかかる率が18%も上がった。米国でも同様の報告や効果も害もないといった報告があり、日米などで進行中だった試験も中止になった。

 疫学調査と大きな食い違いが出た実験のやり方に、二つの問題点があったといわれる。

 第一は、ベータカロチンの量が多すぎたこと。ふつう多い人でも一日5mg程度なのに、実験は食物から取ることが不可能な量だった。
 第二に、縁黄色野菜のほかの成分も効いているのかもしれないのに、ベータカロチンだけを使ったこと。

 日米の緑茶試験は、これらを教訓にし、お茶好きの人が飲んでいる十杯分が目安。日本の研究者が緑茶粉末を水で溶いてネズミに飲ませて発がん抑制に有効との実験結果を出したが、このときの量を人間に当てはめると十杯になる。

 さらに、伊藤園製のGTEカプセル、埼玉県茶菓試験場製のGTE錠剤は成分調整せず、緑茶をほぼそのまま濃縮・乾燥している。


食生活とがんに多様な関係

 がんとの関係が取りざたされる食物・栄養素はたくさんある。
 国立がんセンター研究所支所(千葉県柏市)の津金昌一郎・臨床疫学研究部長は、食生活とがんの関連を調べる研究で最も信頼性が高いのは「無作為化比較試験」だという。

 対象者を2グループに分け、調べたい栄養素を摂るか摂らないか以外の条件を同じにし、ガンにかかる率を調試験では、条件を厳格にするため、栄養素を取らないグループに偽薬を使うのが普通だが、日本では、社会的に偽薬に対する抵抗が強いので埼玉県立がんセンターは、偽薬なしで緑茶の錠剤を使った試験をした。

 その結果、錠剤を飲まない方の人達が大量に緑茶を飲むようになり、差が出なかった。

 次に確実なのは、多くの人を長期間にわたって追跡調査するコホート研究だ。ただ、対象となっている要素以外がガンに関係している可能性が残る。

 無作為化比較試験をするのが難しいことから、様々な研究報告に重みをつけて総合的に判断しなけれはな らない。津金部長は、2つのグループが独立に世界中の疫学調査を分析した結果をまとめた(表 参照)。

 定説だった乳がんのリスクと動物性脂肪や、消化器系がんの予防効果と繊維質などの関係は、最新研究では疑問視されている。

 ただし、欧米を舞台にした研究が多く、食習慣の違う日本人にこの表がそのまま当てはまるとは限らないという。    



 分野別メニューへ戻る
 記事メニューへ戻る




  
 
徐福伝説メッセージニブロンって?
OnukiさんのMedical NewsのページへLink ”暦の日付をクリックする事”
読売新聞「医療ルネッサンス」のページへLink