物心ついたときを正確に思い返すのは困難だけれども、少なくともサンバルカンが正義の味方だということだけはわかれば、それが物心なのだろう。
そんな物心が付いたときから、何故か和菓子が好きだった。
ついでに云うなら日本茶も大好きだった。
うちの家族ではそれほど和菓子が好き、というわけではない。冷蔵庫の占有率は明らかに洋菓子の方が勝っていたに違いない。
それでもなぜか、和菓子が好きだった。
だから、物心ついた時から考えてみても、つい先日までシェイクという食べ物を口にしたことがなかった。
そのそもこのシェイクが食べ物なのか、飲み物なのか、その境界線が曖昧さにいらだちを覚えていたのだ。
「マックシェイク。今なら半額」
その看板とうだるような暑さのため、アイスティのLを頼んだにもかかわらず、シェイクを初めて購入した。
味はもちろんバニラだ。僕はかき氷を食べるときでも決して氷メロンなんかは頼まない。邪道なのだ。
20円ほどの価値のあるスマイルをした店員から受け取った半額のシェイクをさっそく食べてみる。
不味い。
感想は、不味い。の一言である。ついでに、一人にも関わらず口に出して云ってしまった。
人生のうちで一度は「チッ、まずいな。囲まれた」というようなセリフは云ってみたいものだが、このような形でそれを云う羽目になるとは思わなかった。無論、囲まれてはいない。
宗教上の神は僕にとっては無用だが、物理学上の神がもしも存在するのならば、いままでシェイクというものに対しての邂逅を避けて下さったことに感謝をするだろうし、今この瞬間に口に含んでしまったことを恨み続けるだろう。
それほどまでに、衝撃的な味だった。
まず、粉っぽい。そして、ストローから吸いにくい。
明らかにストローではなくてスプーンにするべきではないのか?
なによりもあの甘ったるさには耐えられない。バタークリームも真っ青だ。
店内を見渡してみると多くの人が頼んでいるのだが、果たしてみんなはそれを望んで買ったのだろうか。もしも僕のように人生で初めての体験として購入したのなら、口を付ける前にそれを捨てるべきだ。
僕には彼らが無邪気にビー玉を飲み込もうとしている赤子と重なった。
そう、彼らも僕と同じように、哀れむような表情で周りを見渡すのだろう。
そして、二度とシェイクを頼むことはないだろう。
とにかく不味いのだ。
少なくとも、周りを囲まれてはいないが。