'98年6月

「マウント・ドラゴン」面白かった!


「マウント・ドラゴン」 - Mount Dragon -☆
Douglas Preston&Lincoln Child
ダグラス・プレストン&リンカーン・チャイルド

 非常に、面白かった。これぞ、まさにエンターテイメント。

 解説ではSFやミステリーの枠に収まらないエンターテイメント小説、例えば「ネアンデルタール」、「スペアーズ」「キャリアーズ」「イエスの遺伝子」「レリック」などの徹底したサービス精神、魅力的なキャラクタ、歴史/科学/風俗などの副次的テーマを盛り込んだものをハリウッド小説と呼んでいる。確かに、まるで映像や俳優が目に浮かぶ様な小説である。

 ダグラス・プレストンは「ホット・ゾーン」の著者リチャード・プレストンの弟。
 前半は「ホットゾーン」の様な遺伝子工学の研究所を舞台にして不気味ではあるけど比較的地味な展開、後半はうってかわってアクション色も含む。砂漠の追跡劇など、ディック・フランシスを連想させるテンポのよさと書き込み方。仮想空間での対決なども面白い。

 何よりもラストになるに連れて、それぞれのキャラクタが素晴らしく見えてくる。元友人でありながら対立するジーンダイン社会長スコープスと遺伝政策協会会長レバイン、謎のクラッカー道化師、主人公ガイ・カーソンと彼の助手デバカ、不気味な警備部長ナイなどなど。特にスコープスとレバインの対決など涙無しには読めない素晴らしさだった。それぞれのキャラクタが生き生きとしていて、ホントに映画を観る様な素晴らしさだった。

 映画の「レリック」は非常につまらなかったのだけど、この二人が書いたのなら原作はきっと面白いと思う。

映画「レリック」感想
原作「レリック」感想
原作「ネアンデルタール」感想


「破壊の黙示録」 - Blown Away - David Wiltse
デヴィッド・ウィルツ 扶桑社ミステリー

 ジョン・ベッカーを主人公とするシリーズの第6弾らしいのだけど、多分、どれも読んだ事が無い。

 ニューヨークを舞台として爆弾魔とFBI捜査官との戦い。爆弾魔の描写や、それに絡むマフィアやチンピラの人間性が面白いのだけど、どうも捜査官側が面白くなくてイマイチ乗れなかった。話としても竜頭蛇尾で、最後の方はチンケなアクションものになってしまっていて残念。


「トンデモ世紀末の大暴露」
と学会著 イーハトーブ出版

 と学会の本ではあるが、いままでの洋泉社じゃなくてイーハトーブ出版から出ている。

 と学会の報告、トンデモ本大賞、と学会リポートから成る。ややネタ不足の感もあるが、結構笑える事は笑える。今回は、特別付録の「トンデモ本便利検索リスト」がデータ的には活用出来そう。こんな本ばかり読んだら、あちらの世界に行ってしまいそうだけど。

 P213の柳田理科雄「空想科学読本」は情けない、というのは共感出来る(^^)。

「トンデモ超常現象99の真相」感想
「空想科学読本」感想


「深夜特急」3 インド・ネパール
沢木耕太郎 新潮社文庫

 読む物がないので、久しぶりに読み返す。数年ぶり。
 旅行本は好きなのばかりだが、やはり「深夜特急」は面白い。文章もうまいし、その臨場感がいい。


「愛と恍惚の中国」
坂仁根 講談社文庫

 辺見庸「もの食う人びと」のカメラマンとして同行した坂仁根が著者。
 '94年7月〜98年4月に共同通信社北京支局に勤務している間に書き下ろした初の著作。

 世界女性会議開催の内幕、元慰安婦支援グループに対する公安の妨害、三峡ダムと三門峡ダムなど、どちらかというと報道の姿勢がある話の方が面白い。庶民的なエッセイ風なものは文章がちょっと堅いせいか、イマイチ臨場感を感じない。

→ 「もの食う人びと」感想


「ブラック・メール」
建倉圭介 角川書店

 「ハッカー」の著者、建倉圭介の新作。

 製薬会社の息子が誘拐されるが、要求など交渉はすべてメールで来る。さらに要求の受け渡し自体もメールという、新しい犯罪。こういう感覚は結構面白かったけど、ちょっと話自体が小さすぎて、こじんまりしてしまっている。これは、「ハッカー」にも通じる所だけど。

 メールによる心理操作自体は面白いのだけど、誘拐よりももうちょっと突っ込んだ方が面白かったかも。

 あと、メールのなりすまし自体は本書に出てくる様な複雑システムじゃなくて、ずーっと簡単だという事は著者は知らないみたい。SMTPが判ってないというのがちょっとイライラしてしまった。


「レリック」上 - The Relic -
ダグラス・プレストン&リンカーン・チャイルド 扶桑社

 映画の「レリック」は強力に詰らなかった。しかし、このダグラス・プレストン&リンカーン・チャイルドの「マウント・ドラゴン」はバツグンに面白かった。で、期待十分で、この初共作の「レリック」を読む。

 自然史博物館という設定は面白い、「迷信と恐怖の展覧会」という背景もいい。しかし、肝心の怪物がイマイチ新鮮味が足りないし、遺伝子工学の活躍も平凡で詰らない。「マウント・ドランゴン」には遠く及ばない出来だった。

映画「レリック」感想
原作「マウント・ドラゴン」感想


「レリック」下 - The Relic -
ダグラス・プレストン&リンカーン・チャイルド 扶桑社


「エキゾティカ」
中島らも 双葉社

「格安航空券ガイド」、糸川耀史の写真集「流星シャンハイ」、小説現代に掲載された中島らもの短編集。ほとんどは1997年に中島らもが訪れたアジアの国々を舞台にした物語。半分フィクションの旅行記の様な雰囲気が面白い。ちょっとファンタジーかかっている。
 あとがきにもあるけど、とにかく食い物の話が多い。そこが気に入っている。


「辺境・近境」
村上春樹 新潮社

 村上春樹があちこちに書いた、旅行関係の話をまとめたもの。

 ニューヨーク近くの作家達の聖地「イースト・ハンプトン」、無人島の体験「からす島の秘密」、前半はバスに一人旅「メキシコ大旅行」、満州国線のノモンハン戦争の地を訪ねる「ノモンハンの鉄の墓場」、傑作!「讃岐・超ディープうどん」、「アメリカ大陸を横断しよう」、「神戸まで歩く」。
 いずれも村上春樹らしい、真っ当な視点がいい。でも、やはり食い物の話が出てくる讃岐が好きだった。


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