2003年1月


「UNIXという考え方」☆
- The UNIX Philosophy - Mike Gancarz
芳尾桂監訳 オーム社

 面白い、最近こういう本が少ないから余計に面白い。プログラマだったら何かの啓示にはなるだろう。UNIX的なものの考え方とは何か?そのOSの背後にある哲学を、9つの定理と平易な言葉で語る。MS-OFFICEだけしか使わないアプリケーション・ユーザーが、この本を読んでどう感じるか興味があるなあ。

定理1:スモール・イズ・ビューティフル
定理2:一つのプログラムには一つのことをうまくやらせる
定理3:できるだけ早く試作を作成する
定理4:効率より移植性
定理5:数値データはASCIIフラットファイルに保存する
定理6:ソフトウェアの挺子を有効に活用する
定理7:シェルスクリプトを使うことで挺子の効果と移植性を高める
定理8:過度の対話的インタフェースを避ける
定理9:すべてのプログラムをフィルタにする


「13階段」
高野和明 講談社

 第47回江戸川乱歩賞受賞作。映画を見てから原作を読んでみる。
 傷害致死事件により三年の刑に服していた三上純一、その刑務所の刑務官南郷正二が、死刑確定囚樹原亮の冤罪をはらす仕事を請け負う。樹原亮は仮出所中に保護司夫妻を金のために殺害した容疑、事件直後の交通事故で犯行時刻の記憶を一切無くしていたが、階段を登っていたという記憶が甦る…。

 映画とは微妙に違うがおおまかには同じ。印象としては「階段」のひっぱりかたが原作では弱い。映画ではラストを活劇にしているが、もうちょっと地味な印象。基本的には面白い。
 全体には死刑制度に疑問を投げ掛ける硬派な部分と、小説としてのエンターテイメントな部分が遊離してしまっているのが気になる。この辺は映画も同じ印象を受ける。


「海外リタイア生活術」
戸田智弘 平凡新書

 タイトル通り、海外でのリタイア生活に関しての本。ルポライターだけあって色々な面から分析していて、非常にうまくまとめられている。内容的にきめ細かいので、固い感じがするのが欠点か。

海外マルチハビテーションの時代、どの国を選ぶか国ごとに分析、海外での過ごし方(スポーツ型、ボランティア型、情報発信型、隠遁型、語学留学型、個人自由予行型)、海外暮らしのメリット、資金、健康、生き甲斐、日本との距離、医療施設、医療保険、治安、退職者ビザ、住宅は買うか借りるか、などなど…。

海外生活ネット - 著者のサイト


「虚貌」
雫井脩介 幻冬舎

 トラック運転手をクビになった荒勝明は同時に解雇された時山らと社長の家を襲い、社長夫婦を殺害、放火し、2人の子供にも重傷を負わせる。 主犯は時山だったが他の者が口裏を合わせ、荒は無期懲役に。 そして21年後、仮出所。 やがて荒は行方不明となる。癌に冒された老刑事守年は事件の真相の解明しようとするが…。
  
 面白いという噂で読んでみたが、なんかトリックがあまりに無茶、どー考えてもあり得ない、無理、バレるよホント。文章は軽快で読みやすいし、最初の事件が起きる部分の臨場感など非常にうまく驚いたが、その後はダメ、犯人像とトリックがヒドい。もっと地道な小説でも充分いけると思うが。ま、ともかく、あれはどう考えてもバレる。 


「死ぬかと思った」
林雄司(Webやぎの目)編 アスペクト

 Webの「死ぬかと思った」の書籍化。ほとんどは、読んだ事あるからかもしれないが、なんか本にすると詰まらなく思えるのは何故だ?実際、ホントに死ぬかと思った例は極めて少ない。便 or エロ系が多数。

「死ぬかと思った」


「脳が殺す-連続殺人犯:前頭葉の秘密」
ジョナサン.H.ピンカス 田口俊樹訳
- Base Instincts:What makers Killers Kill? - Jonathan H.Pincus,M.D.

 著者は、ジョージタウン大学医学部教授である神経内科医師。
 凶悪殺人犯にするものは、幼児期の虐待、精神疾患、前頭葉の損傷、の三要因が整った時の相互作用であるとする著者の理論をまとめたもの。科学的読み物ではあるが、判りやすい。この説が真実かどうかは実際よく判らない。
 150人の凶悪殺人犯に面接して徹底調査、周囲の人々への聞き取り調査、神経学的な精密検査によるもの。三つの要因は、本人の責任では無いという所が、非常に考えさせる点。ヒトラーも、この三つの要因を持っているとしている。
 人為的行為である幼児期の虐待を防ぐ事により防止出来るという点はちょっと明るい。


「少年とアフリカ-音楽と物語、いのちと暴力をめぐる対話」
坂本龍一&天童荒太

 TVドラマ「永遠の仔」の原作者と、テーマ音楽「Lost Child」を作った作曲者の縁の二人の対談集。
 天童荒太が「ジパング」、「アジアン・ビート」など映画の仕事をしていたとは知らなかった。映画関係の話題も多いが、坂本龍一のベルトリッチとの仕事(「ラスト・エンペラー」の話は面白い。
 後半、アフリカの話から、暴力性、虐待などの社会派の話へつながる。真剣な対話である事は判るのだけど、改めて言葉にされると面白くは無い。やはり本職の小説、音楽で語られるべきものかも。


「黄泉がえり」
梶尾真治 新潮文庫

 熊本日日新聞日曜版に1999〜2000年に連載されたもの。坂東眞砂子的な地方を舞台にしたモダンホラー小説かと思ったが、もっとSF、ファンタジー色が強く、基本的には感動モノ仕立て。
五月のある夜、熊本で奇妙な発光体が目撃され小さな地震が発生する。やがて、ギフト用品販売の先代社長、総務課長の家では27年前に死んだ父が、社員見習いの中岡秀哉の家では水難事故で亡くなった兄が、さらに一年前熊本で急死した女性歌手マーチンが甦る…。

 映画化するというので読んでみる。文章が軽いので早く読めるが、登場人物が多くややこしい。連載モノっぽく、整理されてない感じもする。内容的にもまあまあ、ややSFチックな感じのファンタジー。歌手マーチンはいい雰囲気だが、映画ではどうだろう。
 熊本という地方を舞台にしているところは非常に上手く、細かい所に臨場感がある。

→ 映画「黄泉がえり」感想


「シネマでヒーロー」
武藤起一編、ちくま文庫

 PFGなどのプロデューサーの武藤起一によるインタヴュー集、相手は永瀬正敏、三上博史、豊川悦司、佐野史郎。1995年ごろのもの。

 おのおのの俳優自体よりも、その人に影響を与えた人間の話の方が面白い。永瀬正敏は相米慎二、三上博史は寺山修司。同じ様に豊川悦司は「3-4X10月」で北野武監督の話が多いが、これはイマイチな感じがした、あんまり影響を与えているように思えないし。佐野史郎は、冬彦さんのイメージの定着との葛藤がちょっと面白かった。
 全体には中身がちょっと薄いか。


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