2000年3月


「バトル・ロワイアル Battle Royale」
高見広春 太田出版

 1997年のパラレルワールド、全体主義国家の大東亜共和国。そこでは毎年中学三年を対象に全国から任意に50クラスを選び、戦闘シミュレーション「プログラム」が行われる。最後に残った一人だけが家に帰される死のゲーム。
 …という設定は、まあ普通ならキングの「死のロングウォーク」(バックマン名義)を連想させる。しかしそこからヒネリが無い。
 登場人物は香川県城岩町立城岩中学三年B組七原秋也ら42人。修学旅行のバスごと拉致され、プログラムが実施される。金八先生を連想させる板持金発と名乗る政府の役人プログラム監督員を登場させる所なんか、なんともパロディ性はあるけど、思想も皮肉も何も無いのが情けない。勢いだけで書いた本で、勢いだけで面白く読めるからまあいいけど、後には何も残らない。面白いキャラクタもいるのに、何か活かされないままに死んでいってしまうのが残念。

 深作が監督で映画化されるようだけど、期待半分、心配半分。

「バトル・ロワイアル」映画感想 2001/1


「コブラの眼」 - The Cobra Event - Richard Preston
リチャード・プレストン 飛鳥新社

「ホット・ゾーン」の著者リチャード・プレストンの初めてのノンフィクション。(ちなみに弟は「マウント・ドラゴン」を書いたダグラス・プレストン)

 全身をのけぞらせ痙攣し、自分の口で唇を食べはじめるという自己食人の症状を示すコブラ・ウィルス。これを追うのがCDCの実習生アリス・オースティン。なんか「羊たちの沈黙」のクラリスみたいなイメージ。
 まあまあ面白い。ストーリ展開の盛り上げ方、主人公や犯人の人間的魅力などの描き方などはちょっと満足いかない部分も多いけど、さすがに生物兵器絡みの知識は深いものがあって面白い。生物兵器に対するリサーチが深くて、ノン・フィクション作家のジャーナリズム精神が物語自体を面白くしている。
 法医学的な鑑識捜査とか、解剖シーンとか細かいこだわりの部分が凄い…でも、小説としてはイマイチか。


「救命士」- Bringing Out the Dead - Joe Connelly
ジョー・コネリー 平井イサク訳 早川書房

 著者は、ニューヨークのヘルズ・キッチン、セント・クレア病院で9年間、救急救命士として働いてきた。麻薬中毒や銃撃事件、交通事故、心拍停止そして蘇生術…、救命士という職業から都会を見つめ、人間を見つめている。その視点をそのまま小説にしている。
 小説としては事件らしい事件はほとんど起きないので盛り上がりに欠ける感じがする。それぞれのエピソードは面白いのだけど。
 これはデビュー作で、映画化が決定している。

 平井イサクの翻訳がなんかヘンで、リズムに乗れない。

→ 映画「救命士」感想


「リヴィエラを撃て」上
高村薫 新潮文庫

 高村薫のIRAスパイもの。高村薫の中ではこれが一番面白いと勧められたのだけど、イマイチ。事件の入り組み方が複雑な割には大した事件が無く、冗長に感じる。人間の書きこみ方も上手いとは感じられず、この頃の高村薫はあんまり好きになれないかもしれない。


「リヴィエラを撃て」下
高村薫 新潮文庫


「散歩のとき何か食べたくなって」
池波正太郎 新潮文庫

 銀座での洋食初体験の記憶、資生堂パーラーから薮蕎麦、竹むら、浅草の店々などの東京の店、そして京都の松鮨、横浜中華街の徳記などの地方の店、はたまたフランスまで。昔の味の記憶と思い出を徒然なるがままに語ったエッセイ。
 つぶれた店が多いので残念ではあるが、何かの形でこういう、舌の記憶を残しておく行為は必要だろう。
 池波正太郎の、若い頃からの生意気さとハイカラさが面白い。


「味と映画の歳時記」
池波正太郎 新潮文庫

 前半は食べ物、後半は映画の歳時記。12月は食べ物が柚子と湯豆腐、映画が忠臣蔵と、一月に一つの話題をあげている。話はそこに留まらない。海軍時代の茄子の味の記憶、敗戦後の焼け野原での氷いちごの思い出と広がっていく所がいい。「散歩のとき何か食べたくなって」の様なレストランの記憶は少なく、子供の時のものが多い。


「むかしの味」
池波正太郎 新潮文庫

 懐かしい味、昔の味を伝える店の紹介。ポークソテーとカレーライスはたいめいけん、鮨は新富寿し、蕎麦はまつや、栗ぜんざいは竹むら…と名店が並ぶ。
 昔の味のガイドとして便利。


「奇妙な道」ストレンジ・ハイウェイズ1
ディーン・クーンツ 田中一江訳 扶桑社ミステリー
- Strange Highways - Dean Koontz

 1995年に出版された全15篇を納めた「Strange Highways」を、日本では文庫三冊に分けて出版される。その第1分冊。「奇妙な道」、「ハロウィーンの訪問者」の2編。
 「奇妙な道」は父親の死の知らせが届き、故郷の炭坑町へ戻る酒びたりのジョーイが主人公。ジョーイと対称的に勉学スポーツ万能で、今はベストセラー作家のPJとの対比などは面白いけど、全体では展開がだらだらとしていてイマイチだった。炭坑町の地下火災など、うまく活かされている感じもしないし。
 「ハロウィーンの訪問者」は、ちょっとブラッドベリ風のホラー。短いけど、雰囲気は好き。


「闇へ降りゆく」ストレンジ・ハイウェイズ2
ディーン・クーンツ 大久保寛他訳 扶桑社ミステリー
- Strange Highways - Dean Koontz

 「奇妙な道」に続く、「Strange Highways」の第2分冊、全部で7編。
 
 エイリアン侵略「盗まれた街」風SFの「フン族のアッチラ女王」(Miss Attila the Hum)。
 自分にしか見えない地下へと続く階段のモダン・ホラー「闇へ降りゆく」(Down in the Darkness)。
 ホームレスとなっている超能力者の悲哀「オリーの手」(Olie's Hands)。
 遺伝子工学による恐るべき能力を持った鼠との対決「罠」(Trapped)。
 パラレルワールドから来た熊そっくりの警官とハードボイルドな探偵がエイリアンを追う「ブルーノ」(Bruno)。
 老婆からひったくったハンドバックから起るホラー「ひったくり」(Snatcher)。
 子供3人が主人公の世界の終末「ぼくたち三人」(We Three)。
 
 「奇妙な道」はそれ程面白いと思わなかったけど、これは満足いく面白さだった。SFからホラー、ハードボイルドまでクーンツの芸域の広さを感じさせてくれる「Strange Highways」らしい作品。


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