レイドバック

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laid-backをリーダーズ英和辞典で引くと「くつろいだ、のんびりとした」という意味が書いてあります。laidはlayの過去分詞なので、lay backを調べると「後方に傾ける、寝かせる 《俗》のんびりやる、リラックスする」とあります。どうも、椅子の背中にもたれるとか寝ころんでいるような、身体がラクな状態のイメージが語源になっているようですね。

音楽用語としては、主にリズムの感覚を表現するのに使われます。「くつろいだ、のんびりした」だから、あんまり速いテンポではないのですが、単にテンポが遅いことをいうのではありません。テンポが遅くても緊張感があってノンビリしていない演奏というのはあります。

僕の解釈では、たぶん「正確なリズムに対してほんの少し遅れた部分がある」ということじゃないかと思います。でも、それを意識的にやろうとすると、ただ遅れた感じのもどかしいリズムになってしまいます。

昔ドラムをやっていた頃、最初のうちは、テクニックを求めていたせいで、僕のリズムは「先走り、突っ込み」気味でした。次に、テクニックをあきらめてレイドバックしようと意識したら今度は「もたつき」気味になってしまいました。その後、意識するのをやめて気楽に叩いたらいい感じになってきた…というところでバンド活動は終了したのですが。

僕がレイドバックしようと意識したのは、ドラムの神様スティーブ・ガッドのインタビューを読んだからでした。ガッド師匠曰く、「レイドバックするのは少しも難しいことではない。僕は自分のやっていることに気がつき、それをはっきり認識した時、どうすれば変えられるかわかった。自分の内側を見つめ、自分に聞いてみる。結局は自覚の問題なんだ。レコーディングしたものを聴き返してみた時、おかしいな、叩いている時の感じと違っている、と思ったのが始まりだね。気持ち良く叩いていたなら、そのとおりに聞こえてこないといけないからね。」

「自分のやっていることに気付く」というからには、今までは気付かずにやっていたわけです。自分でも気付かずにやっていたことに気付くというのは、要するに無意識の探求で、それが「くつろいだ、のんびりとした」という気持ち良さにつながるということです。これは音楽に限った話じゃないような気がします。

レイドバックを小脳論でいうと「お気楽」なのですが、マイブームという概念を生み出したみうらじゅんは「ロックでいうレイドバックは、仏教でいう悟りだ」と喝破しています。そう言われてみれば、ガッド師が言っていることも禅問答のようです。マイブームというのも「自分に聞いてみる」ものですね。

楽器演奏におけるレイドバックというのは、どうやら「意識的にやろうとせず、自分のやっていることを意識する」という気付きによって生まれる状態のようです。そういう音楽は演奏していても、聴いていても気持ち良いものである、ということですね。

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