バンド解剖学

ポピュラーミュージックにおけるバンドというのは、ただ複数の人間が集まっただけのものではなく、一個の仮想的人格である。したがって、複数の人間で構成されるにもかかわらず、バンドは一つにまとまった何かを音楽的に表現する。バンドという仮想的人格は一つの音楽的な身体を持っているのである。

ヴォーカルはバンドという身体の顔である。ヴォーカリストは声によってバンドの表情を表す。見た目にこだわるバンドのヴォーカルは作り声で歌うし、そうでない場合は地声に近い。

ギターは髪の毛である。したがって、ギターの音のディストーションのかかり方はギタリストの髪の毛のパーマのかかり方と比例し、ギターの音の伸び具合は髪の毛の伸び具合に比例する。ギターをかき鳴らすのは髪の毛を掻きむしっているのである。だいたい、バンドで一番髪型にこだわるのはギタリストである。

ベースは足である。「ウォーキングベース」などという言葉もあるくらいで、バンドという身体をいろんな場所へ運んでいくのはベースなのだ。ビートルズの「サージェントペッパー」のジャケットの内側の写真でポールだけが膝を見せているのも、「アビーロード」でポールが裸足なのもそういうわけなのである。

キーボードは手である。手は意識的なコントロールが一番効くので細かい装飾が得意だが、撫でることも殴ることもできる。キーボードの激しいプレイは興奮した人が手を振り回してしゃべっているようなもの。

ドラムは骨格だ。リズムというのは骨でメロディーやハーモニーが肉である。身体の外から骨格は見えないが、無くては困るし、肉の下に何があるのか判る人には判るのだ。骨が肉に隠れているように、ステージ上でもドラマーは後ろの方に隠れている。ドラマーは着るものに無頓着である。

バンドというのはそういう有機的なモノなので、ちゃんとしたバンドにはメンバーの性格の合計ではない仮想的なキャラクターが生じる。打ち込みの音楽にはありえないことである。

→ 音楽とは何か