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ケストナーはドイツの人形メーカーとしては最も古く
創始者のJ.D.ケストナーが工房を開いたのは
1805年と言われています。
ただ今日、私達がいわゆるケストナーのビスクドール
として目にするものは彼の死後かなり経って
1880−90からの物のようです。

さてこのケストナーちゃん、本当に健康そうな
ぷっくりほっぺにぽっちゃりボディーなのですが
実は大変だったのです。
彼女をネットオークションで見つけた時
全ての部分は完全にばらばらでした。
頭がごろん、手、足、関節を繋ぐボールもごろごろ。。。
しかも眠り目が上に上がりすぎてすごい形相。
しかし何度見てもそのビスクの白さと素晴らしさが
心を捕らえて、忘れがたいのです。ただ者じゃない!
ビスクがクリーミィー。。。と、よく英語では表現
されますが、まさにそんな感じに見えました。

アメリカ国内しか売らないと言うのを
無理を言ってオークション参加の承諾を貰いました。
彼女にほれ込んだのは私だけかと思ったら
とんでもない。いるいる。。。
大混戦の末勝ち取りました。目出度し、目出度し
が。。。。。
売り手の女性はきちんとした人で
ヘッド部分はダブルボックスにして厳重に送る
とのメールでした。
2週間後いよいよ荷物が着いたとき
他の人形が送られてきた箱より若干小さいな。。。
と感じたことを覚えています。
さて震える手で箱を開けます。
パッキングがちょっと足りないかな。
でもメールで書いてた様にきっちり一番大事な
ヘッドは別な箱入りです。
まず手足をチェックした所、ショック!
右手中指が折れてる。
「ま、いっか。くっつけよう」
そう言う人です。私。人形は顔が命。

でも一抹の不安。数日前に友人の
アメリカ人のロジャーが
「いやー、この間シアトルから小包来たら
四角い箱の四隅、角が取れてオーバル(楕円)
になってたよ。ハハハ。。。」
と言っていたのを思い出した。
郵便局で、空港で、投げる落とす当たり前
と言う。そんな、ひどい。。。

開けました。そっとお顔の紙をとると。。無い
目!が!無!い!
目が無いんです。空ろな2つの穴がぽっかり。
そっと振ってみるとカラカラと音がします。
ご存知の方が多いと思いますが
ケストナーのヘッドは取り外しの出来る
コルクのペイトでは無く
漆喰のようなもので頭が塞がれているものが有り
それがまた正真正銘のケストナーと言うことで
ありがたいものな訳なのですが
この時は中がどうなっているのか
これじゃわかんない!と
腹が立ちました。見たいのに、手も足も出ない
僅かに中を覗いて見ることが出来るのは
首の部分と、目の部分からです。

頭が痛くなるほど中を調べた結果
次の事が判明しました。
1.輸送中の振動で、眠り目のおもりが動いて
目のユニットが壊れた
2.壊れた為目の回りの石膏から外れ目も壊れた。
3.修理するには頭を割るしか無い。

つまり、いくらダブルボックスにしても
頭の中でおもりなどが動かない様にするのでなければ
ショックは伝わってしまうわけです。

さあ困った。

(届いた時の写真を見てみたい
という勇気のある方はこちらをどうぞ(゚o゚)
恐怖!ひえー!
ばらばらケストナーちゃんをどうやって
繋ぐのかさえおぼつか無い私なのに
頭割ってどうする?!
もしビスクそのものが壊れてしまったら。
お金やるから替わり買ってね。はい。
とはいかないんですよ。
一期一会。人形とはそんなものです。
一目ぼれなんですから。
「ずいぶん一目ぼれ多いな」。。。。夫(談)
すいません。。

さて、私は納得いかない。諦めきれない。
髪の毛も無い彼女のためにアメリカから
素敵なウイッグも手にいれて
ドレスのアイデアもどんどん膨らんでいる
というのに
もう頭にきた。
可愛いお顔を、目が無いために想像すら出来ない。
やる!頭、割る!
手にハンマー持ちました。
でもなかなか決心つくものではありません。
相手はビスクです。
くるみ割るのと訳が違います。
「さあ、やるんだ!」「いや。。。出来ない。。。」
そこで、
まず今は亡き父にお線香あげました。
父は大抵の願いを聞いてくれます。
不思議なほど。
兄二人の後の一人娘なので可愛がり様は
尋常ではありませんでした。
父には許せないところが沢山ありましたが
私には100%掛値無しの愛情を注いでくれました
父はしゃれ者で靴はすべてオーダー
洋服もオーダーで沢山持っていました。でも、
借金も沢山持っていました。
今、私の願いを聞いてくれるのは
父の「ごめん」なのでしょう。
「父さん、守ってケストナーちゃんを」

さて
いよいよケストナーちゃんの開頭手術です。
ハンマーを振り下ろしました。
ドス!
あら、結構柔らかい。硬そうに見えたのに。
何か紙粘土のような素材です。
中が見えてきました。目のユニットを取り出しました
右目は大丈夫でしたが
やはり左目は割れてしまっています
でも良く見ると
茶色の瞳の部分が
丸くそのまま残っています。
白目と材質が違うので
そこだけ切り取ったみたいに
綺麗に残っています。
そして周りの白目部分が幾つかのピイースに
割れています。
ラッキー!くっ付けられるかもしれない!
元気がもりもり沸いてきました
幸い、無くなっているピースもなく
無事両目をユニットに接着完了。
いい仕事しました。できるじゃん、私。プロみたい。
いよいよ目をお顔にはめ込むだけです
うううう!!!!!!はいんないよ
何で?なんで?どーして?

頭真っ白とはこんな時をさすのでしょう。
めったにパニックにならない人ですから。
つまり、壊れたから石膏から外れたのであって
組み立ててしまえば入るわけがないのです。
また目を壊さないといけないって事?!

お人形のヘッドの中をご覧になれば、石膏部分は
目を顔に固定する為に
盛り上がるように目を取り囲んでいるものです
これを削るしかない。削ってみると
案外柔らかいものでしたが何しろちょっと間違えば
ビスクを壊しそうです。デリケートな目の部分です。
私素人です。修復家だったらな。。。と思いました
何時間、ミリ単位で削り続けたかわかりません
真夜中も過ぎて、すっぽり入りました。
このあとでアメリカの有名な人形修復家の
本を手に入れて読んだところ
どうもお湯を使うらしい。

目を入れたとたんケストナーちゃん、
「こんにちは!やっと見えるわ。ありがと」
まあ、何てあなたは可愛いの!思ったとうり、それ以上よ。
目は口ほどにものを言い。。。っていうけど
まるで別人、生きてるみたい。
つまりブリューだろうと、ジュモーだろうと
瞳が入ってなければただの’物’に過ぎないのです。
お人形にとって目がどんなに大切か
身を持って知りました、私。
本当は別に知らなくてもよかったんですけど。

お顔の修理が終わると今度は
ゴムですべてのパーツを繋ぐと言う作業です。
お顔に比べたら何の事は無い。ルンルン。
初めてなのにあっという間です。

ボディーにリペイント無しは価値の高い人形の条件ですが
あまりこだわらない私でも、
ケストナーちゃんを見ていると
その意味が良くわかります。自然なんです
とって付けたみたいな不自然さが無い。

洋服はさまざまに変遷を重ね、やっと一番似合うと
思うものに落ち着きました。
ベースになっているのは、アメリカの50年代のハード
プラスチック用のオーガンディドレス。
ケストナーちゃんに合わせて断ち直しました。
帽子には飾りを追加して。
洋服の違いで、お人形まで違って見えるものです。
一番似合う色、形がある。

さて、こんな傷だらけのケストナーちゃんですが
もっとパーフェクトな物があったら私はどちらをとるでしょう
いうまでもありません。
ケストナーの数あるモールドの中で、
彼女ほどの子にまだ出会っていませんし、
これからもきっと。諦めないで
本当によかった。


HEAD MARK

1:1/2 made in germany 10 1/2
152
20inch (52cm)
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  (Sep. 13, 2001)
(Sep. 2, 2008 画像更新)


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