■セブンアイ
 
「笑うドイツ」


 サッカーのコンフェデレーションズ杯が行われるドイツ・ハノーバーのタクシーで、私は、ドイツに多いイラン人ドライバーと最終予選突破を喜び合っていた。8月のイラン戦に出場権獲得が残っていなくて、ああ、よかった。IDの受け取り等、移動が続くので2時間ほど貸切りにしてもらう。ここ2〜3日、北ドイツのこの町にも一気に夏が訪れた。木々の緑と、庭先を彩る真っ赤なゼラニウムが、短い分だけ力強い夏の太陽に、まぶしく映える。

「コンフェデでは日本を力いっぱい応援するよ、何たってアジア代表だからね」
 彼は言った。
「ドイツに18年住んでいるというけれど、ドイツは応援しないの?」
 デリケートな質問だが、聞いてみた。
「ドイツ人は勤勉で誠実だが、どうもオープンじゃなくてね。だいたい、もてなしっていうのは苦手だと思う。W杯、成功するかな?」

 彼の言葉に、今年3月、W杯組織委員会のグリットナー広報委員長を取材した際の話を思い出した。彼は、私に真顔でこんな話をした。
「警備も含めて、ドイツにおいてハード面は一切心配いらない。問題はソフトだ。とりわけ、私たちドイツ人が一番苦手な、笑うということ、これはもてなしを象徴するわけだが、私たちにも笑うことができる、と世界に示したいと思う。コンフェデのボランティアから、笑うトレーニングしたいくらいだ」

 来年のドイツW杯公式ロゴマークは、世界の人々と、ドイツ人の「笑顔」をデザインしたものだ。私はそこまでとは思わないが、グリットナー氏はドイツ人の無愛想を憂い、ロゴは変化の象徴だと説明してくれた。日韓W杯で感動したのは、日本のスタジアム中で見た、老若男女の笑顔なのだそうである。

(東京中日スポーツ・2005.6.17より再録)

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