■セブンアイ
 
「日本人代表」


 スポーツだけでなく、他の分野の魅力的な人々を描こうとは思いませんか?
 先日、依頼を受けた大学で講師をし、何人かの学生に質問を受けた。一人にそう聞かれた時、いい答えが見つからず、代わりに「彼」の話をすることにした。

 少し前、日本でただ一人のプロアイスホッケー選手として、北米以上にレベルの高い欧州リーグで6年も戦う、意外にも小柄で、しかし目に強い力を持った坂田淳二を取材した。帯広からコクドに入り新人賞を獲得。6度の日本一を手にして日本代表にも上り詰めたが、子供の頃の願いは「全て」叶ったとき、夢が始まる。もっと広い世界で自分の限界を確かめようと、小柄でも技術レベルが高い欧州で、99年からテストを受けながら英国、スウェーデン、米国NHLの2部、フランスと渡り歩いてチャンスをつかみ、今年いよいよ最高峰・チェコへのチャレンジを虎視耽々と。

写真提供:A+YARD
「言葉ですか? 英語、スウェーデン語、それから欧州には大勢選手がいるのでスロバキア語、それとフランス語、イタリア語。流暢なものじゃないからお恥ずかしいですが」
 覚えた言語の多様さに、耐えた孤独の重さが滲む。強豪スウェーデンリーグでは、陸上練習の2週間、本当に誰一人口をきいてくれなかった。極東ホッケー選手など認めない、その意地。しかし秘めた自信は、孤独を力に変える。氷上練習初日、真剣勝負を挑む姿に、練習後は「ようこそ!」「日本はどんな国だ?」と大歓迎ムードに一変したという。

 昨シーズンは、フランスのモンペリエに在籍し、司令塔的役割のセンターで、チームを6位に(24チーム中)大躍進させた。
「最終戦で、リンクに出ると大横断幕があり、よく見ると、メルシー(ありがとう)!サカタと。防具の中で涙が流れてきました」
 他のジャンルの魅力的な人より、スポーツの魅力的な選手さえ、私はまだまだ書き尽くすことができないでいる、そういうことを、学生に伝えたかった。

 取材後食事をしながら、坂田が笑った。
「ヨーロッパでいろいろなワインを飲みますが、いやぁ、出身地の十勝ワイン、美味いですよ、負けてない。改めて好きになりました」
 MLBやサッカーの華やかさはない。しかし、ホッケーの高い技術と、心に故郷のワインを抱く31歳の男が、欧州の小さな街々で「日本人」を代表している。誇らしい、そう思う。

(東京中日スポーツ・2005.5.20より再録)

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