■セブンアイ
 
「脱線事故」


 ホームページを持っているため、読者からも多くのメールを受け取る。
 ありがたいものもあるし、サッカーに絡むと激しいものもある。そうかと思えば、「たぶんマスジマさんだと思う方を競技場で見かけました。ハーフタイムに、コーヒーを飲みながらサンドイッチを食べていましたね」と、目撃されたのがハーフタイムでよかった、と赤面するようなメールもある。
 しかしもっとも比率が高いのは、「スポーツライターになりたい」というメールである。原稿が添付されていることもあり、溢れる熱意は感じるのだが、パソコンから出されるメールという手段には、少しばかり「顔」が見えにくい。だから、ちょうど昨年の今ごろ読んだ手紙は、深く印象に残るものだった。

 仕事をする雑誌社通じて、私宛の手紙を受け取った。字が上手いことに驚き、封を切ると中に「返信していただける場合は」と、80円切手が入っていたことに2度驚いた。彼女は昨年大学に入ったばかりの1年生で、将来、スポーツライターになりたいと書いてあった。どうすれば、スポーツを書くという憧れを、現実の仕事にできますか、女性でもできますか、これからどんな勉強をすればいいでしょうか、とメールとは違い、最後まで乱れない文章と文字に、何か強いものがにじんでいた。

 読み終えたとき、大学1年の自分は、彼女のように美しい文字と文章で誰かに手紙を書くことはできなかっただろう、そう思った。そうして、スポーツライターになるには体力が一番だから心配はありません、それよりも大学で多くの人に会い、本を読み、アルバイトもする、スポーツライター志望に凝り固まらずに楽しんで、と、ためにならないアドバイスと「何かあれば気軽にメールを」と、アドレスを書いて返信した。

 私は今、彼女の返信を毎日待っている。礼を伝えてくれたメールに、彼女は尼崎駅の近くに住んでいて、そこから大学までJRで通学している、と自己紹介してくれたことを思い出したからである。会ったこともなければ、話したこともない。しかし折々に届く、大学生の真っ直ぐな気持ちには、こちらの背筋をも伸ばしてくれる力がある。

 悲惨な事故のニュースを聞いたとき、私は彼女が通う大学と路線が一致していたことを知り、すぐにメールを打った。彼女からの返事がないのは、スポーツライターを目指すより遥かに楽しい大学生活を見つけたからに違いない、と信じている。祈っている。

(東京中日スポーツ・2005.4.29より再録)

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