■セブンアイ
 
「げん担ぎ」


 サッカーW杯アジア最終予選バーレーン戦を前に、夜、記者仲間から携帯に電話が入った。
「すみません、こんな時間に」
 彼は詫びたが、新聞社のデスクをしていればこんな時間にもなるよ、大丈夫、私も仕事していると答えて話を聞く。
 用件は「お守り」である。現場記者の頃から、彼は代表の公式戦前には必ず1人で神田明神に参拝し、勝ち守りを川淵三郎キャプテンに手渡してきた。無敗を続けたがついにイラン戦で敗れ、協会に足を運んだそうである。キャプテンは、彼が申し訳なさそうに、バーレーン戦用のお守りを手にした姿に言った。
「もしこれがなかったら、イランで1−2以上で負けたかもしれない。お守りのお陰だと思う。ありがとう、明日も持って行く」
 そんな話を深夜の電話で真面目にしながら、「いつか使った、勝ち栗はどうしましょう」と彼が言うので、「まだ取っておこう」と、げん担ぎのローテーションを話し合った。

 97年、アジア最終予選を初突破したころから、代表に付く記者たちは、練習や、選手、監督のコメントなどを取材する一方で、祈るだけの、じつに頼りない立場のために、根拠のない非科学的な「げん担ぎ」に懸命になるからおかしなものだ。イラン戦はそれまでの流れをリセットし、ある記者はバーレーン戦でネクタイを新調した。97年からさすがに効力も薄れましたね、と笑って。

 私は、これを縁起がいいとするか、悪いとするか思案している。
 あるインタビューで、ジーコは「イチゴ」が好きで、現役時代は試合前夜に食べれば必ず大活躍をするため、どんな国へ遠征してもチームのシェフはまず市場へ行き、「ジーコ用イチゴ」を確保していた、そんな話を聞いた。念のため、ジーコはサッカーに縁起は無関係という人である。
 北朝鮮戦の前、慌ててデパ地下に走って購入して渡すと、ジーコはニヤリと笑った。
「あのインタビューで、コンデンスミルクをかけるのが定番、と言わなかったかい?」

 イランでは、イスラム教の戒律のためにスカーフを巻き、体の線を出さないために常にコート着用、出歩けないハンデに断念したが、バーレーン戦前はミルクもつけた。
 あの勝ち方を見る限り、効果はどうも乏しいようだが2勝はした。さて、バーレーンの首都・マナマのデパートや市場には、イチゴがあるのだろうか。2か月間の情報戦に臨みたい。

(東京中日スポーツ・2005.4.1より再録)

BEFORE
HOME