■セブンアイ
 
「起点の日」


「今日は何の日」は、なかなかおもしろい情報だと思う。スポーツの偉業達成や発明がなされた日もある。ただ数字の並びで、11月22日はいい夫婦の日、と決めた日もある。一昨日だか昨日だったか、テレビを見ていたら「日本の水族館でラッコが初めて誕生した日」で、飼育担当者の苦労話を真剣に聞いてしまった。365日、必ず、記念になってもならなくとも、その道の、本当の「起点」となる日が存在するのだろう。

「……それと、神戸のカズ、とおっしゃる方がお電話をくださっています」
24日、仕事の途中事務所に電話を入れると、一緒に働くアライさんが、仕事の伝言を整理しながらていねいに伝えてくれる。
「それで、神戸の方は本人だと思う?」
私は笑いながら聞いてみた。スポーツライターの電話とはいえ、突然、「神戸のカズ」と名乗る男からの電話があったら、どんな風に思うのだろうか。
「カズって言われたんで、私、びっくり仰天してしまって……。ヴィッセル神戸のカズさんですよね。とてもていねいでした」

 もしそういう記念日を体系的にまとめている辞典があるならば、ぜひこの日も加えていただきたい。1985年2月24日、サッカーの三浦知良(ヴィッセル神戸)が、日本人としては初めてブラジルの名門プロチーム、サントスと契約した日である。つい最近、カズにインタビューをする機会があり「20年目」について話を聞かせてもらった。取材した編集者らと送ったお祝への返礼に、わざわざ電話をくれたようだ。
 当時、契約はハンコではなく、漢字でぎこちなくサインをしたと記憶している、と笑った。

「忘れられないのは初試合。もう、ド緊張で足が本当に一歩も動かなかったんだ、信じられないけれど。翌日の新聞に、サントスの11番は荷が重過ぎる、荷物をまとめて日本へ帰れ、って書かれてね。今でもあのときの緊張を忘れることができないんだ、いい意味でね」

 驚かされるのは、20年歩み続けた困難な道のりよりも、あの日始まった道を、37歳が今なお、初心とともに走り続けていることである。2度のW杯に出場できなくても、ブラジル、日本、イタリア、クロアチアを渡り歩いても。
 2月24日は、カズ誕生の日というだけではない。辞典には、日本プロサッカーの「起点」となった日として。

(東京中日スポーツ・2005.2.25より再録)

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