■セブンアイ
 
「なでしこ」


photo: Masujima Stadium
 12月23日、私は横浜国際競技場にあるスポーツ医科学センターで、「なでしこ」と、なでしこの大ファンのみなさんを待っていた。
 サッカーのW杯アジア1次予選にアジア杯、アテネ五輪とあちこちを駆け回った今年も、残り1週間となり、振り返っていろいろと反省したいのだが、特に後半は、あまりのドタバタに思い出すことができない。しかし、今年、とてもささやかだが、ひとつの夢が叶ったことは忘れられない。かねてから、自分が日ごろ取材している選手を招き、スポーツを心から愛する人たちに、こじんまりした中で心ゆくまで彼ら、彼女たちの素晴らしさや素顔の魅力を生で知ってもらいたい、そのための「場」を作りたいと願っていた。多くの人たちの支援で今年、それが実現した。

 初回は3月、ゲストはサッカー解説者の井原正巳氏。井原氏は、参加者から質問が出るたびに、サッカー界のマナー通り、自ら歩み出て握手をしてから、DFの目と同じような鋭い眼光で相手を見つめて話をした。
 シドニー五輪女子マラソン7位の山口衛里(天満屋)は、「4年前を今どう思いますか」と聞かれて、急に涙を流し始め、ティッシュペーパーの箱を抱えて笑ったこともある。
 アテネ五輪直前の大切な時期だというのに、陸上女子長距離の弘山 勉・晴美夫妻にも来てもらい、オリンピックを前に鍛え上げられたトップアスリートの筋肉を初めて近くで目撃した参加者たちが、その迫力と美しさに言葉を失っていた様子も忘れられない。

 そして4回目、今年のオオトリには、2004年女子アスリートMVP候補者といっていい、女子サッカーの澤 穂希(日テレ・ベレーザ)を招いた。年の瀬の、家族、友人との大切な休日なのに、山形や名古屋からスポーツを愛するファンたちが駆けつけてくれた。
photo: Masujima Stadium

「アテネオリンピックを決めた北朝鮮との試合が、今年のハイライトでした。あまりの痛さに試合を覚えていないほどですが、歯を食いしばってよかった、と思います」

 膝を痛め、注射を打ち、座薬を使い、それでも、私達はマイナー競技なんだ、ここで負けたらサッカーはもうできない、と自らに言い聞かせたのだという。

 帰り際、「クリスマスの休日を割いて来てくださって、すみませんでした」と声をかけると、参加者の一人が言った。
「こんなに素敵に咲くなでしこに会えたことが、最高のクリスマスプレゼントです」
 来年も、もうひと踏ん張りしようと思う。

(東京中日スポーツ・2004.12.24より再録)

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