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■セブンアイ 「街角の声援」
台風による大雨に見舞われた日、交差点で立っていると、横殴りの雨に必死で抵抗するように傘を左手に持ち、店の入り口に何かを掛けようとしている親父さんを偶然見かけた。模造紙を濡れないようにビニールで包み、うやうやしく店の前に掲げる。手作りの看板には、赤いマジックペンで「イチローがんばれ、あと3だ!」と大きく書かれている。信号を渡り、その定食屋の前へ行くと、馴染みのサラリーマンたちも通りすがりの人も、雨宿り代わりに看板を見つめ、楽しそうに声をかけていた。 「苦手な投手から打ったんだね」 元サラリーマンの親父さんは、イチローがドラフト4位で入団した92年、子会社に出向し、94年、イチローがレギュラーに定着し210本と、1シーズンの安打日本新記録を樹立した年に本社に戻った。 「節目、節目で気がつくといつでもイチローがいて、めげそうな自分を励ましてくれたようでね。ただの勝手な思い込みなんだけど」 記録達成の瞬間、彼の耳に、本場のファンの大歓声と賛辞とともに、日本の街角のささやかな声援も届いてほしいと祈りながら、親父さんに雨宿りと、話を聞かせてくれた礼を言った。どしゃ降りなのに、看板を見る人々の表情は晴れ渡って。 (東京中日スポーツ・2004.10.1より再録) |
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